おバカ貴族と復興開始
「オーライ、オーライ」
航空船の巨大バルーンについたゴンドラから、次々と物資が降ろされていく。
リヒャルトラインはその数が正しいかリストで確認を取りながら、カサルの指定した場所へ運ぶよう指示を飛ばしていた。
復興の第一歩として、カサルとザラは城下町の再建から始めることにした。
不幸中の幸いか、街を襲ったのはシラクーザと同じ龍だったらしく、全てが等しく破壊されていた。建物の一つも残されてはおらず、そこは綺麗な丘陵と化している。
殆どの人間なら絶望に膝をつくところだが、カサルにとっては違った。先代の残した古い街並みよりも、一から都市計画を行い、彼の好む効率性や機能性を重視した街を作れるからだ。
建築物のデザイン、高さ、配置、用途などに一定のルールや基準を設けて、統一的に整備できるため、彼にとってはもう嬉しくてたまらない。
新しい玩具を手に入れた子供のように、滅びた街並みを見てはしゃいでいた。
「ザラ、ココを未来都市にするぞ」
カサルはある程度瓦礫の撤去された城下町を見渡し、鉱物ラジオが聞こえる規格化された文化的な街並みを想像して口角を上げる。
我らがヴェズィラーザムの領民が住むに相応しい未来を建築する。その栄誉に浴するだけで、カサルの
幸福度は限界を超えていた。
しかし、そんな兄の夢など知らない弟は、彼の言葉を聞いて「また馬鹿な事を言っている」と溜息を漏らす。
「いいか兄上。普通の街にするんだ。安心して暮らせる、 そういう普通の街だ。 領民のためにならない街はいらんからな」
「案ずるな。回りまわってる領民全員が感謝するようになる」
カサルは絶対にこの好機を手放すつもりはなかった。
世界で一番ハイテクな街を作り上げる。
かつてないほどカサルはその野心でやる気満々だ。
「今感謝される街を作れ!! 」
ザラに冷や水をかけられようとも、カサルの鋼の心が冷めることはない。
早速カサルは、瓦礫の撤去を始めたマリエの配下(元空賊)たちに声をかけに行く。
対策本部から坂道を下り、瓦礫の山が積もる城下街へ。
出会う人々はカサルを見ると礼をして、彼を出迎えた。
城下の人々は龍災に遭っても自宅の防空壕に隠れていたため、ほとんどが無事だったようだ。手を振って笑いかけてくれる。
それらにお菓子を配りながらカサルは歩き、やがて未だ少量の瓦礫が残る旧商業ギルドの前で立ち止まった。
役員に紛れて撤去作業を進めるマリエの配下はカサルに気づくと、不器用に一礼をした。そして商業ギルドの役員たちも、カサルに気づくやいなや服の土埃を払って慌てて一礼。カサルの黒ドレスはトレードマークとして最適な役割を果たしていた。
「これはこれはカサル猊下。私のようなものにどのようなご用件で?」
汗を掻いた空賊に、カサルはワインの入ったコップを渡す。
配下の一人はソレに口をつけると、ふぅー、と息を吐いてその酒の美味さに舌鼓を打った。
「瓦礫の撤去はどのぐらいで終わりそうだ?」
「それでしたら三日あれば。魔法を使って頂ければすぐにでも終わるかも知れませんが」
暗にカサルの力を使って欲しいと彼は言ったが、カサルは首を振った。
「空の上ばかりでは体が鈍るだろう。引き続き努めよ」
そう言ってカサルは誤魔化して立ち去る。
本人も魔法が一番速いと分かってはいたが、それはできない。
なぜなら彼がシラクーザで受けた傷はまだ完治しておらず、異端核もまた傷ついたままなのだ。
(下手に使用すれば折角治りかけている内臓も、また傷ついてしまう……用心せねば)
魔法のフィードバックは内臓に負担をかける。
これ以上薬草中心の生活と、血便が止まらないのだけは勘弁だった。
「さぁ、働き者のお前達にワインを持って来たぞ」
そう言って次々と仲間にワインを振る舞うカサル。黒いフリフリの手袋の下には未だ火傷の痕が色濃く残っているが、ドレスの袖がソレを全て包み隠していた。
「猊下、僕にもワインを! 」「俺にも!」
「まぁ、待て待て。酒ならいくらでもあるぞ! 春先は特に冷えるからな。作業で体も温まっているだろうが、酒も入れておけ!」
銀のキャッチャーを持ってカサルは酒を領民に持て成す。
邸のメイドには止めてくれと言われたが、久しぶりの地元で楽しくなったカサルは、存分に酒をふるまった。
するとすぐに酒は無くなり、カサルは酒を取りにマリエのいる厨房になっているテントに顔を出した。
彼女は他の街の女達と共に、テントで食事を作っている最中のようだった。
「マリ……」
「来ちゃダメだよ。カサルちゃん」
背中に生えた黒い翼でマリエにシッシッとされてしまう。
彼女は大きな鍋を掻き混ぜながら、食事の準備をしているようだった。
その周りには料理の様子を見る主婦たちが固まっている。
どうやら各家庭のレシピを持ち寄って、全員で様々な料理を作っているようだった。
他の主婦や宿屋の女中は真剣そのものだ。
食料庫に入ったネズミを狙う猫の如く、足音の方をギラついた目で見返す。
しかし相手がカサルと分かると、温和な態度に急変して笑顔で会釈してくれた。
それにカサルは「怖いものを見た」と言わんばかりに、すぐさま踵を返して良い匂いのするテントから逃げ出した。酒の入った木箱もあったが、彼女達の眼が光っていて容易には近づくこともできそうにない。
「久しぶりに睨まれたな……」
ピリピリしている料理番たちから逃げるように、カサルは次に話し相手になってくれそうなリヒャルトラインの元に駆け込んだ。
「おや、カサル君。どうしましたか?」
航空船から降ろされた物資の荷解きを統括しているリヒャルトラインは、書類に送っていた視線をカサルに向ける。できるインテリの見本図のような女だ。
「リリ……やはりお前は落ち着くな」
航空船の巨大な葉巻型のボディを見上げながら、カサルはリヒャルトラインの隣に立つ。
それに対し、一歩リヒャルトラインは離れて咳払いを一つする。
「ちょ……ま、マリエはいませんね……? いけませんよ、そんなことを気軽に言っては……」
どれだけ可愛い容姿をしていても、友人の彼氏に手を出すほど自分は愚かではないと、防衛本能が働くリヒャルトライン。しかし暇そうにしているカサルに、彼女はどうしたのかと訊いた。
「カサル君はお暇ですか?」
「皆の様子を見て回っている。もう次の荷が届くはずだが……それまでは、な」
「そうですか」
冷静を装いながら視線を書類に戻すリヒャルトライン。
彼女にも仕事があるため、邪魔をするわけにはいかないのだが、カサルはそれが分かっていても、暇で誰か相手を見つけて話がしたかった。
俗に言うダル絡みである。
「前は我一人でやっていた作業も、今は修練も兼ねて死装束機関の技術部門に丸投げしていてな。することが今のところないのだ」
「土地開発の図面はもうできたんですか?」
「情報待ちだ。設計は集まり次第と言ったところだな。リリ、それが終わったら視察に行くぞ」
「……」
集中した様子のリヒャルトライン。どうやら仕事の段取りを考えているらしい。指で見えないそろばんを弾きながら、部下に任せる仕事の配分について考えているようだった。
「フーム……我を無視するとは度し難い……」
そんな彼女の邪魔をしながら周囲をぐるぐる歩いていると、カサルの耳にようやく楽しげな音が聞こえてくる。
「……ん? カサル君、あれは?」
顔を上げたリヒャルトラインが指差す先。
瓦礫の撤去が進んだ区画から、ドォォン! という重低音と共に、どす黒い煙が上がった。
「ほう。どうやら『技術部門』の準備が整ったようだな」
カサルはやっと玩具が動き始めたことに喜んだ。
待っていたのはこれだ。領民との触れ合いなど、前座に過ぎない。
「見ろリリ。あれこそが、我が領地の復興を加速させる切り札──『全自動建築人形ver.1.0.9』だ!」
煙の中から現れたのは、巨大な黒い鉄塊だった。
履帯を備えた、蜘蛛のような多脚戦車。
シュラウドの狂人たちが丘陵でも使えるように組み上げた、建築専用の魔導兵器だ。
ギュインッ!!
人形がアームを振るうと、僅かに残っていた瓦礫が一瞬で粉砕され、整地される。
続いて、腹部から「速乾性の青色魔導コンクリート」を吐き出し、型枠もなしに壁を形成していく。
わずか数分。
そこには、窓もない、装飾もない、ただ雨風を凌ぐためだけの「青色の四角い箱」が完成していた。
「フハハハハッ! このブルーボックスならば、今日中に全員分の家が建つぞ!」
カサルは感動に打ち震える。
だが、周囲の反応は違った。
「ひ、ひぃぃぃっ!!」
「ば、化け物だぁぁぁ!!」
作業をしていた領民たちが、鍬を投げ出して逃げ惑う。
彼らにとって、それは救済の光景ではない。
黒い鉄の蜘蛛が、謎の粘液を吐き出して巣を作っている……正に「悪魔の所業」にしか見えなかった。
「あれは家じゃねえ! 墓石だ!」「やっぱりカサル様は、王都で悪魔と契約なされたんだ!」
パニックになる現場。
そこへ、報告を受けた赤いマントを翻したザラが、血相を変えて走ってくる。
「兄さぁぁぁぁんッ!!何をしているんだお前はァァァ!!」
ザラは出来たばかりの「青色の箱」を蹴り飛ばし、カサルに掴みかかった。
「領民が! 婆ちゃんたちが腰を抜かしているだろうが!
こんな『青色の棺桶』に住めるかッ!
家というのはな、ただの箱じゃない! 『帰ってきてホッとする場所』でなきゃいかんのだ!! そもそも土台も作ってないのに箱だけで安心して住めるかぁ!! 土木を舐めるなッ!!」
「……む? 機能性は抜群だぞ? 断熱も防音も完璧だ」
「雨が降ったら傾くわッ!!」
突然現実的な視点でモノをいう冷静な弟に、カサルも反論する。
「一時的な仮設住宅なら問題あるまい」
野ざらしよりマシだと若干無理のある意見を出すカサル。
彼もコレが完璧な家だと思っていなかった。
しかしこの『全自動建築人形ver.1.0.9』は、死装束機関との合作だったので、コレを気に皆に死装束機関の凄さを見て貰いたかったのだ。
しかし反応は見ての通り、芳しくなかった。
「問題しかねえよッ!!ここら一帯全部エイリアンの卵にするきかッ⁉」
次々と無機質なブルーボックスを作っていく、カサルの『全自動建築人形ver.1.0.9』。
さながらこの星を侵略に来た先遣隊と言ったところか。
「エイリアンの卵か。クククッ……ハイテクだな」
「遊びじゃねえんだぞ⁉」
ちゃんと復興する気があるのかとザラは絶叫し、懐からペンキの缶と筆を取り出した。
「くそっ、こうなったら……俺が『温かみ』を足してやる!
総員、ペンキを持て! この無機質なブルーウォールに『花』と『太陽』を描くんだ!
屋根には瓦を乗せろ! 玄関には花壇を作れ!
兄さんの『ハイテク』を、俺たちの『生活感』で上書きするんだぁぁぁ!!」
弟もまた少しズレた感性であることは、街の人間は誰もツッコミを入れることはない。
なぜならこの二人が貴族であり、彼らの意見は絶対だからである。
そしてそんなおかしい二人に意見する少女がついにその姿を現わした。
「二人とも暇なら書類に判押しなよ。特に子爵代理のザラ卿はさ。対策本部に戻った方が良いんじゃない?」
凛とした声が、兄弟喧嘩を断ち切った。
そこに立っていたのは、瓦礫の山には似つかわしくない、異様な出で立ちの少女。
首には高級なファー、目元にはティアドロップのサングラス。
そして足元は、瓦礫をものともしないピンヒール。
全身を王都の最新モードで固めた、生意気盛りのマセガキ。
ゾーイである。
「……な、なんだこの『セレブな子供』は……?」
ザラがポカンと口を開ける。
カサルの連れてきた仲間は、どいつもこいつも常識の枠には収まらないようだった。
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それではまた、次のお話でお会いしましょう。(´・ω・)ノシ




