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ゴスロリ貧乏貴族は天才発明家(男の娘)!? ~働きたくないので魔道具を作ったら、いつの間にか国家経済を支配していました~  作者: 星島新吾
第二章:王都シラクーザ編

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おバカ貴族と紡がれる大地

「……それじゃあ、いくよ?」


 瓦礫の山──かつて王都だった場所の中心で、パジャマ姿のレビス・アークライトが指を鳴らした。

 

パチン。


 乾いた音が響いた瞬間、世界が反転する。

 三等級異端核【修復(リペア)】。

 それは時間を巻き戻す魔法ではない。


「あるべき姿」を定義し、そこへ強制的に還す、世界修復の御業だ。


 ゴゴゴゴゴゴ……!


 粉々になったレンガが宙を舞い、互いを求め合うように結合していく。

 ひしゃげた歯車が真っ直ぐに伸び、砕けたガラスが光の粒子となって窓枠に戻る。

 砂時計の砂が上に登るありえない光景に、防空壕の中の人々は口をポカンと開けて見物していた。


「……お前達、とくとみよ!! 我ら貴族の為せる神の御業だ!」


 マリエに降ろして貰い、担架に乗せられたカサルは、さも自分のやっていることのように、レビスの偉業を大声で叫んだ。その声に呼応するように、ほんの数分前まで更地だった場所に、白亜の塔が、石造りの街並みが、次々と「生えて」くる。


「わぁ……!」


 王都の人々は目を丸くして、レビスの奇蹟に手を合わせ祈った。


「神よ……おぉ神よ……!」


 そして「奇蹟の被災地」の上空に、遅れてやってきた集団があった。

 龍災の混乱に乗じて火事場泥棒を企む、近隣の空賊団だ。

 三十隻以上が龍災の報を聞きつけて、王都の宝を求め、各領地から集まってきていた。


「野郎ども! 王都は壊滅だ! 金目のモンは根こそぎいただくぜぇぇぇ……ってあ、あれま?」


 先頭を行く空賊船の船長が、声を張り上げ──そして、止まった。

 眼下に広がっていたのは、瓦礫の山ではない。


 陽光を反射して白く輝く、傷一つない美しい王都だったからだ。


「……おい、座標間違ってねえか?」


「い、いえ、合ってますけど……」


航空船のクルーが不思議そうに地図とシラク―ザを見比べながら、伝達していく。


「龍が通ったんだぞ? なんで新築三年目みてぇにピカピカなんだよ!?」


 ざわつく空賊たち。

 数百隻の船団が、一斉に動きを止め、甲板から身を乗り出して「???」と首をかしげる。

 略奪に来たはずが、あまりに平和すぎて手が出せない。


「……チッ。気味が悪ぃ。罠かもしれねえ、ズラかるぞ!」


 船長がUターンを命じた、その時だった。


「あれれぇ?お客さん、もう帰っちゃうの?」


 ドォン!!

 空賊船の甲板に、黒い翼を広げた「悪魔」が舞い降りた。

 覚醒したマリエ・リーベだ。


「て、テメェは……!?」


「いいお船だねぇ。積載量も多そうだし、エンジンも悪くない」


 マリエは船長の顔など見ず、船体を愛おしそうに撫で回す。

 その瞳は、獲物を品定めする空賊のそれだった。


「ちょうど困ってたんだぁ。よかったぁ。カサルちゃんの商売が大きくなり過ぎちゃってぇ、運ぶ『船』と『人手』が足りなくてぇ……」


 マリエはニッコリと笑った。

 背後の空間が歪み、逃げようとした後続の船団が、見えない「檻」に閉じ込められていく。


「皆、私の下僕になって欲しいな」


「な、何だテメェ!! 俺達を誰だと⁉」


艦橋から当然の敵の襲来に動揺する空賊たちに、鋭い犬歯を見せて邪悪な笑みをマリエは浮かべた。


「答えは聞いてないよ」


傷をつけないように、マリエは艦橋のガラス壁をすり抜け、敵の空賊の親玉の首を掴んで持ち上げた。


「ひ、ひぃぃぃぃ!!」


 逃げ出そうにも、艦橋の外には出られないようにマリエは不可視の結界を張っていた。

 圧倒的な暴力と、逃げ場のない未知の魔法。

 そしてようやく空賊たちは悟った。自分たちは「狩る側」ではなく、「狩られる側」だったのだと。



 ◇


「……アイツ空賊辞める気ないだろ」


 その光景を担架の上から見ていたカサルは、呆れて口を開けていた。

 空賊船団が次々と白旗を上げ、マリエの指示に従って整列していく。

 それはもはや空賊ではなく、規律正しい「巨大交易船団」の誕生だった。


「すごいね、彼女。とんでもない悪党だ」

 

パジャマ姿のレビスが、担架で運ばれるカサルの横で微笑を浮かべながら歩く。


「……違いない。最後の最後であんなものを手に入れてしまうとはな」


 カサルは彼女が遅めの誕生日プレゼントを手にしている姿を見て苦笑する。

 そして巨悪が生まれた現場を見られてしまったことを同時に後悔もした。

 あれだけ大きな悪になると、公爵家が出てくる口実にもなる。

 後々レビスとの対立は避けられないかも知れない。

 ───そう思った矢先のことだった。


「空は僕の管轄外だからね。しばらくカサル君に預けるけど、問題ないかな」


レビス側から逆にそんな打診をされてしまう。


「願ってもないことだが……良いのか?その、エディスとかエディスとかエディスとか……」


正義執行と言わんばかりに、彼女ならば大規模になったマリエを追いかける事もできる。

それもマリエが相手となれば、彼女に恨みのある貴族も仲間に加わるだろう。

彼女は各地で貴族から恨みを買い過ぎている。


だが、それを上の立場であるレビスが後ろ盾になってくれるのならば、エディスや他の貴族にに怯える心配もない。カサルにとって最高の条件だった。


「おいたが過ぎれば、僕も干渉せざるを得ないけれど……僕の管轄はシソーラ侯爵令嬢と同じ大地にあるからね。ココに浄土を築くまでは、空はしばらく見逃してあげるよ」


 レビスの視線が空賊から大地に下がる。

 龍災によって、図らずも美しいシラクーザを手に入れ歓喜に沸く人々と、緑を取り戻した大地。

 彼は「この世界を次の世代に残すことが僕の今後の課題になりそうだ」と、のんびり言った。


 そしてそのレビスの決意を象徴するかのような場所があった。

 そう、そこはあえて「元通り」にしなかった場所だ。


「あれ? ……川の色が……」


 担架の前方を担ぐゾーイが、顎で先を差す。

 王都の象徴であった『七色運河(ケミカルカナル)』が消えていた。


 龍の真空が汚染された水とヘドロを全て吸い上げ、川底から全てを根こそぎ奪った結果──そこに流れていたのは、陽光を反射してキラキラと輝く、透き通った「清流」だった。


「……毒素が抜けたか。なんとも味気ない、ただの綺麗な川になったな」


 揺れるシートの上で、カサルは皮肉っぽく笑うが、その表情はどこか満足げだった。


「七色真珠、買い占めておいて良かったですね。カサル君」


 担架の後方を支えるリヒャルトラインは、価格が高騰するであろう名産品(七色真珠)を、直前に買い占めていた事を思い出して頬を緩ませる。


 もはや再生産は出来なくなってしまった七色真珠(ケミカルパール)に、プレミアがつくことはまず間違いない。

 国を救った英雄達への大きなご褒美だった。


 そして、もちろん汚染による変化は川だけではない。


「おい……空気が、美味いぞ!?」


 地上で誰かが叫んだ。


 龍が毒ガスを空へ運んでいったお陰で、王都の空は抜けるような青空になり、空気は高原のように澄み切っていた。


 シェルターから出てきた市民たちは、恐る恐るガスマスクに手をかける。

 カシュッ、という音と共に、一人、また一人とマスクを外した。


「……うわぁ。本当に息ができる!」


 歓喜の声が上がる。

 だが──ここで奇妙な現象が起きた。


「……いや、待てよ。俺、今日ヒゲ剃ってねえし」

「私なんてスッピンよ! こんな顔、人様に見せられないわ!」

「このマスク、ローンで買ったばかりなんだぞ! 外してたまるか!」


 空気が綺麗になったにも関わらず、半数以上の人々が、モゴモゴと言い訳をしてマスクを付け直したのだ。


 ある者は恥じらいから。

 ある者は習慣から。

 またある者は、マスクというステータスを捨てきれずに。

 

 顔を隠すことに慣れすぎた王都の住人たちは、澄み切った空気の中で、奇妙な「仮面舞踏会」を続けていた。


「クックックッ……ゴフッ」


 その滑稽な有様に、カサルは寝そべったまま嘲笑い──そして盛大に血を吐いた。


「カサル君、安静にしていてください!」


 リヒャルトラインに(たしな)められ、カサルは口を閉じる。

 だが、その目は死んでいなかった。

 彼は並び歩くヘルメスをギロリと睨み、無言の(テレパシー)を送る。


『環境が変わっても、人間の中身までは変わらんということだ。

 ……ヘルメス! 機を見るに敏な貴様なら分かるな?』


「へ、へい! 旦那!」


 砂埃で汚れた服で敬礼をするヘルメス。

 カサルの視線は、雄弁に次なる商機を語っていた。


『これからは『高性能フィルター』じゃない! 『ファッション性』重視のマスクを売り出せ!

 王都の連中は、もう顔を隠さずには生きられん体になっているぞ!』


「だ、旦那! 分かりやした、分かりやしたんで、目で訴えるのは止めてくだせぇ。何言ってるかさっぱりですが、殺気だけは伝わってきやすから!」

 

 平和な馬鹿騒ぎ。

 カサルは、目と鼻からの出血で目元の化粧が崩れていたが、今日一番の笑顔だった。

 これで、(ヘルメス)情報(メディシス)技術(シュラウド)、そして(マリエ)

 全てのピースが揃った。


(完成だ。……これが、『カサル経済圏』の全貌よ)


 すべてが終わった。


 そう思った、その時だった。


「……ん?」


 仰向けの視界。カサルの視線が、ふと一点に釘付けになった。

 遥か彼方の地平線、割れた空の延長線上だ。

 彼が見ているのは、龍が飛び去って行った方角──「南」ではない。


 龍が「飛んできた」方角だ。


「……リヒャルトライン。そういえばあの方角は……」


「え? 北北西……ですか?」


 その言葉を聞いた瞬間、カサルの顔から一瞬、血の気が引いた。

 頭の中で、龍の軌道と地図が重なる。

 あの巨大な質量が、超音速で通過したルート。

 その直下に位置するのはヴェズィラーザム領だ。


「……まさか、な」




 第二章 王都シラクーザ編 完

第二章 完! 

嬉しい。始めて2章まで完にできました。

今まで1章まで書いて止まっていたものばかりだったので、

2章まで書けたことが純粋に嬉しいです。

一重に見てくださった読者の方々のおかげです。

ありがとうございました。


※蛇足※


二章のテーマは成長でした。

マリエはもちろん、タヌキやメディシスや、お菓子ギルドを立ち上げたミナなど。各々で成長するシーンを作り、最終話に持ってくる構成にしました。

文章で魅せるタイプの物書きではないので、何とかシナリオだけは……と、伏線を張りながら頑張って書いてきました。

今はただ、第二章を綺麗に着地できたことが嬉しいです。

改めて、こんなに長くなったのに最後まで読んで下さった方、本当にありがとうございました。

お礼なんてなんぼ言っても良いですからね。

どうか三章もよろしくお願いします。


※蛇足の蛇足※

それと裏テーマもあるので、読後次いでに考えてみてください。

ヒントはマリエと龍の関係性です。


リアクションされると喜びます。

それではまた明日、3章でお会いしましょう。=゜ω゜)ノシ

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