おバカ貴族と魔女の誕生日(part.3)
メリークリスマス。星島(作者)サンタからクリスマスプレゼントですよー。
ピーーーーーッ!!
連続稼働によって遂にオーバーヒートした杖の悲鳴が、地下手術室に絶望を告げる。
その音を聴くとすぐさま、死装束機関メンバーによって”名もなき未来の杖”は取り外された。杖は十二分に役割を果たし、真鍮製の歯車は焼き焦げていた。
そして外された美しかったカサルの腕も、肘まで熱傷でボロボロに爛れていた。
(プロトタイプの癖に……よくやっ……た)
カサルはこれまで頑張ってくれた自らの杖に労いながら、だらんと腕を垂らす。
完成間近といったところで起きた悲劇。
気力の限界が彼の意識を一時的に刈り取った。
龍災直撃予想時間まで残り30分。
邪悪な天則は、暁に燃える空よりその双眸の先をシラク―ザに捉えていた。
「カサル様ッ!! 」
タヌキが倒れかけたカサルを背後で支えた。
「やばーい! 拒絶反応がまだ続いてるよぉー!!」
ジェーンが叫ぶ。
未完成の異端核が、飢えを満たすためにマリエ自身の生命力を食らい始めたのだ。
このままでは数秒でマリエは死に、カサルには失敗した絶望だけが残る。
終わった。
誰もがそう思った。
凍り付く空気の中で──ただ一人、震えながら動く影があった。
「あきらめないで……くださいッ!!」
タヌキだった。
彼女はカサルを往復ビンタで立たせると、懐から分厚い羊皮紙の束──『教師の囁き(マニュアル)』を取り出した。
彼女は彼の実験を見て、教師の囁きにメモとして書き留めていたのである。
そしてそのマニュアルの中には、カサルが「異端核の拒絶反応時」のために書き残した、隠し術式も記載されていた。
「お願いします……! マリエちゃんにカサル様の声を、届けて!!」
タヌキが涙声で、ページに刻まれた魔法陣を掌で叩く。
瞬間、本から眩い光が溢れ出した。
カサルが過去に込めた、手動式の風魔法が発動し、カサルの「いつもの声」が、手術室中に──そしてマリエの精神世界にまで、大音量で響き渡る。
『──起きろ、大馬鹿者ども!! 』
それは、瀕死の今の掠れ声ではない。
自信に満ち溢れ、傲慢で、頼もしい、いつもの主人の罵倒だった。
『どうやら我に不測の事態が起きたようだな?我ながら何とも情けない話だが、いいか!この術式を起動したのならとりあえず問題ない!コレを起動したヤツ、いい仕事だと褒めてやろう。
おいマリエ! 聞こえているか! お前は魔女になるんだろうが! こんなところで寝ていていいタマか!!』
ビリビリと空気が震えるほどの怒号。
その声は、薄れゆくカサルの意識を殴りつけ、そして──
◇
──限り無く赤いロゼ色の草原にて。
怪物の口に飲み込まれかけていたマリエの脳天に、雷が落ちた。
『ソイツはお前だ!とっととねじ伏せて、戻ってこい!!』
「……あ……」
皮を剥がれかけていたマリエの瞳に、光が戻る。
目の前には、自分を否定する「理想」。
だが、カサルの声を聞いた瞬間、マリエの中で何かが吹っ切れた。
(……そうだ。カサルちゃんは、私に「高貴であれ」なんて言ってない)
彼はいつだって、泥棒で、強欲で、適当な自分のことを、「悪くない」と笑ってくれた。
なら、なる必要なんてない。
綺麗なだけの、お人形のような魔女になんて。
「……ねえ。アンタ言ったよね。私は空っぽの泥棒猫だって」
マリエが顔を上げる。
その顔には、獰猛な空賊の笑みが浮かんでいた。
「正解、私は空賊だよ。……だから、アナタも盗うよ」
マリエは恐れることなく、怪物の顎に手を伸ばし──逆にその喉笛に掴みかかった。
◇
現実世界。
マニュアルから響く自分の声に、カサルは薄く目を開けた。
「……ククッ。五月蠅いわ。戯け」
カサルは震える足で踏ん張り、再び自力で立ち上がった。
鼻血を袖で乱暴に拭い、ボロボロの両手を再び構え直した。
素手の状態でも10回連続で成功させるぐらいの精度があることは、今日のウォーミングアップで把握済みだ。
ただ今回は満身創痍、自分の限界はとうに越えている。
そしてそれがどう作用するかまでは予想できない。
だが、不思議と彼は成功させる根拠のない自信があった。
「よくやったぞタヌキ…… その声に免じて、もうひと踏ん張りしてやる……行くぞッ」
カサルが最後の「餌」を素手で操作し、完璧に最後の一口を流しこんだ。
その瞬間。
ドクンッ!!
マリエの胸が大きく跳ねた。
カッ! と目が開かれる。その瞳は、人間のものではない、爬虫類のような縦長の瞳孔に変わっていた。
「があぁぁぁぁぁぁッ!!」
マリエの絶叫と共に、背中から黒い翼が爆発的に広がり、手術室の機材を薙ぎ払う。
頭からはねじれた角が伸び、全身に幾何学模様の紋様が走った。
それは聖なる魔女ではない。
神に背き、異端を飲み込んだ、美しき「悪魔」の誕生というに相応しい光景だった。
「……適合完了。新たな魔女のハッピーバースデーでございます」
ウィリアムは地下室の灯りをつけ、喜びの拍手と共に彼女を祝福した。
カサルはというと、もはや使い物にならない腕を床に、へなへなと座り込んだ。
「……クククッ……死ぬ……クククッ……死んでしまう……」
だが、彼に休んでいる暇はない。
ズズズズズ……。
地響きが、地下室を激しく揺らした。
空気の圧力が変わる。耳が痛くなるほどの気圧の変化。
「……来てしまったか」
カサルが天井を見上げる。
その視線の先、何千メートルもの厚みのある土と岩を透かして、空から降りてくる「絶望」を感じ取っていた。
手術台の上で、マリエが身を起こす。
背中の翼を羽ばたかせ、ふわりと宙に浮いた彼女は、生まれ変わった力強い瞳でカサルを見た。
「アレは任せてくれない?」
マリエが手を差し出す。
自信に満ちた彼女の瞳に彼は、最後の力を振り絞って手を握り返した。
「……バカ者……適合したばかりの体で無茶をするんじゃない」
カサルの言葉にマリエは笑うと、彼の腕を引いて、日の出の昇るシラク―ザへ飛び出した。
次回、遂に2章最終回。
シラクーザを破滅の未来から救えるのか!
※蛇足※
クリスマスケーキの代わりに、今日はスーパーで少しいいお肉を(1300円ぐらいのもの)を買いました。それで今日の夜ごはんはステーキにしたんです。
youtube見ながら一回肉を寝かせるっていうのも、やってみました。
美味しかったです。
ソレに影響されて、マリエの心象世界は肉っぽくなりました。
後日変だったら修正するかも知れないです。




