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ゴスロリ貧乏貴族は天才発明家(男の娘)!? ~働きたくないので魔道具を作ったら、いつの間にか国家経済を支配していました~  作者: 星島新吾
第二章:王都シラクーザ編

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おバカ貴族と魔女の誕生日(part.1)

 エルドラゴを出て数時間後。

 夜の11時。

 王都シラクーザ、ウィリアム治癒院の地下手術室にて。


 一人の少女と少年の人生を懸けた戦いが静かに始まりを告げていた。


(これで十回連続の成功……ウォーミングアップは十分そうだな)


 カサルは異端核が埋め込まれた綺麗なマネキンを見て、額の汗を拭う。

 手術台の上にはライトアップされたマリエが横になり、周囲には死装束機関(シュラウド)のメンバーが準備を着々と進めていた。

 第一助手にはウィリアム・ハンター。

 第二助手にはジェーン・ハンターがついた。

 そして第三助手にはなんと……。


「が、頑張りますぅ!」


 マニュアルで勉強してきたタヌキが参戦した。


(大丈夫かなぁ)


 マリエは台の上で横になった状態で、タヌキを見る。始まる前から緊張している彼女を見て、その緊張が移ったのか。彼女の手は震えていた。それを感じ取ったのか、カサルは彼女の手を握ると、


「問題ない。すぐに終わるから少し寝てろ」


 なんでも無いように言い放った。

 そんな彼の強がりに微笑を浮かべながら、彼女はゆっくりと瞳を閉じる。手術前に飲んでいた薬がようやく効いて来たらしい。


 ゆっくりと息を吐く彼女。彼女はコレで終わりだなんて思ってはいなかった。


 ───一時間前。


別室にて、睡眠薬を飲む前にカサルはマリエに最終確認を取るための説明を始めた。


「マリエ、分からないかも知れないが一応聞いておいてくれ。今回する手術は前縦隔(心臓の上部)……胸と胸の間にあるところにある異端核に栄養を与えるものだ」


「うん」


睡眠薬を飲む前からマリエは欠伸をする。

彼の説明を聴いても、なんのことだかさっぱりのようだ……。


「今回は鎖骨の下にある血管から栄養を与える方法をとる。本当は骨を砕いたりするやり方も考えたんだが、予測できないことが多すぎてな。この方法が一番だという結論に至った」


「よくわかんないけど。まあ、うん」


「怖くないのか?」


「うん」


ケロッとした表情。

まるでこのまま寝て起きるだけと言った表情に思わずカサルは、必要以上に訊いてしまう。本来であれば彼女の不安を煽るようなことは言うまいと思っていた彼にとって、恥ずかしい自己保身だった。


「このままにしておけば、今まで通りに生活できるんだぞ。そう言う選択肢も当然───」


「ない。それじゃあ魔女にはなれない。そうだよね?カサルちゃん」


そんな彼の心境を察するかのようにマリエは彼を一喝した。


「……上手く行かなかったら死ぬんだぞ」


「大丈夫。貴方は失敗しない」


 そのための努力を半年以上、彼女は傍で見て来ていた。

 覚悟と言うのなら半年前から出来ている。

 むしろ覚悟を問うべきはカサルだと、彼女は笑う余裕さえ見せた。


(……まいったな。逆に勇気づけられている。(オレ)はいつからそんなに情けなくなったんだ?)


 彼女には当分勝てそうにないと思いながら、カサルは(恐らく生まれて初めて)心の底から神に祈る。拾える全ての可能性は試した。


 成功させることに集中することはもちろん、失敗の失敗の失敗と、どれだけミスをしても取り返す段取りもついている。


 不測の事態ということは必ず起こりえる。


 だからこそ、彼はそれこそ人生を懸けて死ぬ気で準備をした。

 後は外的要因が絡まなければ、手術を確実に成功させる自信が彼にはあった。

 そのための半年でもあり、彼女(マリエ)との旅だった。


 今日が全ての集大成。

 長針は12時を指した。

 上の階から響く壁掛け時計が、”ゴーンゴーン”と、未来を掴むための長い一日の開始を告げる。


(神よ……(そこ)から(オレ)をみていろ)


 ──────麻酔が効く、数分前のことだ。


「ねえ、カサルちゃん」


 手術台の上で朦朧(もうろう)としながら(ささや)くマリエの口元に、カサルは耳を当てて何を言っているのか聴き取ろうとする。


「なんだ?」


「これって、生まれ変われるチャンスだよね」


「……うん?」


 睡眠薬の効果で、寝ぼけているのかとも思ったが、マリエはポツポツと言葉を紡ぐ。


「手術が成功したら……私……空賊を辞めるの……それで……魔女になって生きるの」


 前々から決めていたことのように言うマリエに小さく笑みを浮かべて、カサルは手を握る。


「今になって重大発表とは、驚かせるではないか……そう言うことは起きてからいえ」


「うん……おやすみなさい。カサルちゃん……」


 その言葉を最後にマリエは眠りについた。

 それを確認すると、カサルは指をパチンと鳴らす。

 

 ───ザッザッザッ

 

 外から死装束機関(シュラウド)のメンバー三名が、大きな機械仕掛けの腕のようなものを運んでくる。


 そしてそれをカサルの腕に装着すると、ボルトで最終的な固定を行った。

 武骨な歯車が剥き出しで回転する、機械仕掛けの長手袋(ガントレット)

 それは死装束機関(シュラウド)が製作した、最新鋭の魔法の杖だった。


 普段は片手で扱い、腰のケースに入れるため、日常に広まっているのは短杖型だが、今回のような精密作業をするにあたって、必要な動作を敏感に察知するためにはその形では不適当だった。


 それゆえに、カサルが図面を書き起こし、死装束機関(シュラウド)の技術の粋を結集して作られたのが、この長手袋(ガントレット)型。”名もなき未来の杖”だ。


(準備はいいか……マリエ)


 カサルはガントレットの指先を動かし、ギアの駆動音を確認する。

 手術台に横たわるマリエは、健やかな寝顔で彼の成功を祈っているかのようだった。


「手術を開始する」


 カサルは照明を落とすよう指示する。

 暗闇の中、ウィリアムが投射する特殊な青いライトだけがマリエの胸元を照らし出す。

 そこに浮かび上がるのは、彼女の心臓に寄生する「小さな異端核」の影。


「開始する。……タヌキ、常にガントレットがオーバーフローしないように温度計を読み上げろ。ジェーン、冷却水の準備を怠るな。ウィリアム、行くぞ」

 

 カサルがガントレットをかざすと、十本の指先から目に見えない「風の血管」が伸びた。

 それはメスよりも鋭く、絹糸よりも繊細な、魔力の延長器官。

 それがマリエの胸元に極小の穴を空けて侵入していく。


「第一段階、血管確保。……風よ、道を作れ」


 カサルの操作により、風の糸から送り込まれた「光る液体(異端核スープ)」が、マリエの鎖骨の下にある血管へと滑り込む。


 通常なら激痛が走るはずだ。だが、カサルの風が液体をカプセル状に包み込んでいるため、マリエは熱を感じるだけで済んでいた。


 そしてそれを可能にしているのは、カサルの並外れた魔法の操作技術と、魔力の出力操作をミクロ単位で可能にした、長手袋(ガントレット)のおかげだった。


 何度も血管に魔力を流す出力ミスをしていたカサルが最後に頼ったのは、彼が初めて空に上がった際、拘束に使用されたミスリル鉱だった。希少な鉱石だが、魔力を吸い込み霧散させる力がその石にはあった。


 その特性を利用して死装束機関(シュラウド)は、”決められた値の魔力しか出力しない”ように用途を限定して、長手袋(ガントレット)型の杖を開発することに成功する。


 例え直接は手術に関与せずとも、死装束機関(シュラウド)は、この手術の屋台骨を支える役を完璧にこなしていた。


狂人ども(仲間)の完璧な仕事だ)


 光る蛇のような液体は、カサルの指揮に従い、心臓の上部──異端核が巣食う「前縦隔」へと到達した。狂気の最前線に立つ男はメンバーの顔を思い浮かべて笑みを漏す。


それを遠巻きに見る死装束機関(シュラウド)のメンバーも、様々だった。


操作が問題なく行われていることに安堵するモノや、

近づきは厳禁と言われていながら、その様子を少しでも近くで見たいと希望する者、しかし全員が手術の成功を祈っていた。


「ここからが本番だ。……いいかマリエ、少し苦しいぞ」

 

 カサルはガントレットのギアを一段階上げた。

 ギュインッ、と駆動音が高まる。


「第二段階、強制共鳴。……起きろ、貪欲な居候め。食事の時間だ」


 カサルが指を弾くと、微細な振動波がマリエの胸を打つ。

 ドクンッ!!

 モニターの心拍数が跳ね上がり、マリエが背中を反らせて喘いだ。


「あぐっ……!?」


 光の中で、異端核が蠢く。

 振動に刺激され、無数の触手が「餌」を求めて鎌首をもたげたのだ。


「食いついた。……今だ、圧入(インジェクション)!!」


 カサルは両手を突き出す。

 風のカプセルを一斉に炸裂させ、高濃度にした異端核の餌を、開かれた核の「口」へと叩き込む。

 刹那、光が弾け飲み込まれる。


 マリエの体が暗い手術室の中で淡い光に包まれ、空気はビリビリと震えた。


「一度目……成功」


 手術室が静かな歓喜で満たされる。

 だが、カサルの表情だけが強張っていた。

 手元の計器──異端核成長度数計(満腹ゲージ)が、ほんの少ししか動いていなかったからだ。


 異端核が満たされれば、異端核はその本来の姿を取り戻す。


(……馬鹿な。最高純度の餌だぞ? なぜこんなにも反応が小さい?)


 カサルは冷や汗を流しながら、二度目、三度目の投与を同じ手順で行う。

 しかし、異端核は底なし沼のように栄養を飲み込んでいった。


(想定通りだが……嫌な予想が当たりそうだな……)


「お客様は大食漢のご様子。十等級…………そんな可愛らしいものでは……どうやらなさそうですね」


 ウィリアムも気づいたのか、飄々と言う。

 自分達が相手にしているのは、やはり普通の異端核ではない。

 マリエの中に巣くっている異端核は、四等級──あるいはそれ以上の、「怪物」の赤子だった。


 最高の結果(五等級以下)、は霞となってカサルの手から滑り落ちた。

 だが手術が失敗しているワケではない。

 辛い、果てしなく長い戦いが始まっただけの話だった。


「安心しろ。まだ慌てるような時間じゃない」


 カサルの掛け声に暗闇の中、全員が頷く。

 多くの仲間達が見守る暗い手術台の上で、嘲笑うかのようにテラテラと特殊なライトを照り返す異端核。

 絶望と表裏一体の餌やりが幕を開けた。



遂に始まったマリエの魔女化手術。

パート3か、あるいは4まで続く予定です。

内容はぼんやりとしか決めていませんが、

多分明日と明後日の自分が何とかしてくれると思います。



※蛇足※

2章も終わりが近づいてきましたが、今までにないぐらい読まれていて少しビックリもしています。

後は継続して、品質の向上に努めながら毎日投稿をしていこうと思っています。

推敲の時間も取っているので、文章もそれほど多く書けませんが、

それでも程よい密度で、面白おかしく書いていこうと思います。

2章の終わりまでお付き合い頂けると幸いです。




リアクションされると喜びます。

それではまた、次のお話でお会いしましょう。(´・ω・)ノシ


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