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ゴスロリ貧乏貴族は天才発明家(男の娘)!? ~働きたくないので魔道具を作ったら、いつの間にか国家経済を支配していました~  作者: 星島新吾
第二章:王都シラクーザ編

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おバカ貴族と鉱物放送局

カテリーナ・メディシスの野望は、順調にその根を広げていた。

 相棒のヘルメスが白鯨(大ギルド)狩りに精を出す一方で、彼女の狙いは小さなギルド(小物)だ。

 錬金術や魔道具といった「ニッチな技術」を持つ小規模ギルドを次々と取り込み、彼女は独自の派閥を作り上げていた。


 それは彼女の野望、魔道具を使った大規模なメディア侵攻の布石でもあった。

 場所はヘルメス商店三階、黄金の間。

 デスクに両肘をつくカサルと、その前に立つメディシス。


 邪魔者(ヘルメス)が席を外した今こそ、自分の力をお上(カサル)に伝える時だと確信した彼女は、温めていた企画を持ち込んだ。


「カサル様、見てくださいこの新聞。私が今やエルドラゴのメディアの一翼を担っていると書いてあります」


 メディシスは軽めのジャブと言わんばかりに新聞記事を指差し、自信満々に続ける。


「エルドラゴではよく”鉄は熱い内に打て”と言います。偶然にも私には、こんなにも沢山の企画があるのです。……残念ながら、資金面で足踏みしていますが」


 彼女は流れるような手つきで、十枚にまとめられた企画書を次々と机に並べた。

 カサルは椅子に深く座り直し、それらに目を通す。

 どれも簡潔で要点がまとまっている。説得力もある。


 だが、一つだけ異質なものがあった。


「……この、おそらく目玉であろう企画だが。『(オレ)の声を民衆に届ける鉱物ラジオ放送局』というのは、なんだ?」


「その名の通り、私があなたの代弁者となり、民衆に声を届けます。この街の人間であれば誰でも鉱物なら手に入るでしょう? 私がその鉱石を通じて、あなたの思想──考えを伝えたいんです」


 メディシスは自信満々に語る。

 思想家の貴方にとって、広く声が届くことは喜ばしいことでしょう?

 そんな「都合のいい話」ばかり並べる彼女を、カサルは当然のように疑った。


「それで? ……お前に何の得があるんだ?」


「私は……もっと注目されたいんです」


「…………なぜだ?」


 金銭的なメリットの話を期待していたカサルは、思いもよらぬ回答に虚を突かれた。

 だが、彼女の目は本気だった。


 ギラギラと燃える、底なしの承認欲求が彼女に活力を与えている。

 常に注目され続け、それを疎ましく思ってきた貴族(カサル)には到底理解できぬ、「見て欲しい」「認めて欲しい」という渇望。


(……よく分からん)


 片や人間の視線から逃れ、空までいった男。

 片や研究室に閉じ込められ、誰にも見向きもされなかった女。

 理解し合えるはずがなかった。


「カサル様、どうか私を世界一目立つ存在にしてください。私は世界で誰よりも注目されたい!」


 机を叩いて迫るメディシス。その狂気じみた情熱に、カサルは少し引いた。

 だが、それとは別に「商人としての悪魔的閃き」が、天才の脳に舞い降りる。


(……待てよ。こいつの声を電波に乗せて、エルドラゴの民に聞かせるだと?)


 カサルは懐から、少女たちが作った「のど飴」を取り出した。

 エルドラゴの鉱夫たち全員が、この飴の存在を知っているわけではない。周知させるには、新聞や貼り紙では限界があるだろう。


 もっと多くの人々に知らせる方法はないか──そう考えていた矢先の話だ。

 渡りに船とはまさにこのことだろう。


「メディシス。……そのラジオで、お前は他に何を喋るつもりだ?」


「私の美しさについて……あと、最近流行の歌とか? みんなが喜ぶゴシップなんてのもどうです? 名案でしょう?」


「ああ、いいだろう。だが条件がある。番組の合間に、必ず『この飴』の宣伝を入れろ」


「飴……ですか?」


「そうだ。お前の声で大衆を扇動し、歌わせ、笑わせ、喉を乾かせろ。

 そして枯れた喉に、この飴が効くと刷り込むんだ。……言っている意味が分かるな?」


 メディシスは一瞬きょとんとし──次の瞬間、口元を三日月のように歪めた。

 それは、共犯者の笑みだった。


「……つまり、放送を楽しんでいる人々が、無意識のうちに『のど飴』を欲するように洗脳しろと?」


「人聞きが悪いな。新聞がやっていることを口にするだけのことだ。字が読めるのかも怪しい鉱夫には、鉱石ラジオは必ず流行る。仕事中の休み時間にでも聞けるように工夫すれば、なお良いだろう」


「ハァー……! 勉強になります!」


 思わず感嘆の声を漏らすメディシス。

 そこまで相手の需要(と弱点)を計算していなかった彼女にとって、カサルの視点は常に数手先を行っている。


「人のために動きなさいってのは聖書に書いてあるからな。何か困ったら聖書を読め。笑えるし勉強にもなるぞ」


 カサルは皮肉な笑みを浮かべて言った。


「そう言えば、腐っても枢機卿でしたね。私にも布教ですか?」


「講釈を垂れるつもりはない。だが聖書とは、世界で最も成功した『大衆扇動(マーケティング)』の教科書だからな」


 カサルは中指に嵌めた指輪を弄びながら、冷ややかに告げる。


「あれは信仰の書ではない。人心を掌握し、財布の紐を緩めさせるための『極意書』として読め。

 作り手がどういう思惑でその教義を作ったのか……神の視点(出版元)になって読むんだ。そうすれば、まぁ勉強になる」


「ひっどい……教会の人が聞いたらなんて怒るかしら」


「馬鹿言うな。神の意志を正しく読み解こうとする、コレが正しい神との向き合い方だ」


「神様はひねくれものがお好きなのね」


「好きに言ってろ。とにかく、企画はこのまま続けるといい。金ならヘルメスが出す」


「ありがとうございます。あなたの声を少しでも早くエルドラゴにお伝えできるよう、頑張ってみます」


「あー、それとな。声を届けて欲しいのはエルドラゴだけじゃない。シラクーザの全てで聞こえるように、鉱物ラジオの放送局は作ってくれ」


「え?ちょ、ちょっとそれはまだ技術が……!」


「ああ。頼んだぞ」


「ムリです! そんな技術はこの世には」


「ないなら作れ。でないと出資の話は取り消すぞ」


「そんな! 横暴です!」


「自分勝手すぎる、普通じゃない」と愚痴を零すメディシスに、カサルは哄笑を上げた。


 そして笑い涙を浮かべながら彼女に教えてやる。


「あのな、(オレ)は人為的に魔女を作ろうとしているような人間だぞ。そんな禁忌に肩まで浸かった人間が普通なわけあるか」


 そう言って立ち上がると、カサルは金の間を出て行った。

 取り残されたメディシスは、決められた期日までにシラクーザ全土で鉱物放送局を運営するよう厳命されてしまったのだ。


(無茶苦茶……だけど、やりがいは……ある!)


 失敗は許されない。どんな手を使ってでも、メディシスは自分が輝けるよう準備をする必要があった。

 カサルの要求も、いずれはする予定だったこと。少しばかり計画が前倒しになっただけだ。

 むしろ、喝を入れて貰ったのだと解釈すれば、カサルへの留飲も何とか下がる。


(やってやろうじゃない。あのクソガキの驚く顔が今から楽しみだわ……!)


 彼女は腕を捲ると、とりあえず店を出た。

 物理的に吹き飛ばされたオーナーの捜索に向かうために。


リアクションされると喜びます。

それではまた、次のお話でお会いしましょう。(´・ω・)ノシ

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