表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
5/19

おバカ貴族と銀髪の空賊





外の喧騒(けんそう)をよそに、治癒院(ちゆいん)は静寂に包まれていた。


「うっ……ここは……」


少女が目を覚まし、辺りを見回す。怪我人の担ぎ込まれる治癒院だと悟ると、壁にもたれて腕を組む金髪の美少年に視線を向けた。


「あの……誰?」


(たわ)け。それは(オレ)のセリフだ」


アッシュグレーのロングヘアに深みのあるターコイズブルーの瞳を瞬かせ、彼女は(いぶか)し気にカサルを見つめる。


挿絵(By みてみん)




頭が混乱しているのだろう。カサルは足を組み換え、経緯を話した。


「……とまあそういうわけで、お前は航空船から落ちたんだ。そこを(オレ)が助け、この治癒院まで運んでやったというワケだ。感謝しろ」


「は、はぁ……ありがとうございます……?」


「ほぉ、礼を言えるとはな。賊にしておくには勿体ない愚か者だ」


カサルの言葉に、少女は手の甲の紋様を(あご)で示され、はっとした。


「手袋……落としちゃったんだっけ」


「何を盗んだかまでは()かん。問いたいのはただ一つ、コレをどこで見つけた?」


カサルがゴスロリ服の袖から異端核(ルグズコア)を取り出す。少女は目の色を変え、奪い取ろうと手を伸ばした。


寸ででカサルがそれを遠ざけ、不敵な笑みを浮かべる。


「ほぉ……やはりコレが何か、知っているな?」


「返して欲しいな」


「どこで手に入れた?」


「国の保管庫に盗みに入ったに決まってるじゃん」


「簡単に言うことか」


焦り顔で異端核に手を伸ばす彼女の目には、『これ以外何もいらない』という執念が宿っていた。


「まあまて。命の恩人の前だぞ。名前ぐらい明かしたらどうだ?」


「マリエ……リーベ、それより異端核……!」


「マリエか。何ゆえ異端核を欲しがる?亡命か、競売か?」


ふるふると首を振って俯くマリエ。零すように呟いた。


「それがあれば私も魔女になれるから」


カサルは首を(かし)げた。


「魔女? しかしお前……この異端核ではおそらく魔女にはなれんぞ」


「どういうこと?貴女、もしかして異端核について何か知っているの?」


カサルは耳を掻いた。話してやる義理も理由もない。無駄骨は嫌だった。


「訊いてどうする。どうせお前は死刑だ。異端核を盗んだ泥棒は等級に関係なく、そう決まっている」


「死刑……?そっか、私、捕まったんだ……」


自身の傷ついた体を見て、マリエはようやく状況を理解した。


「この部屋には(オレ)しかいないが、外には武装した兵士が待機している。逃亡は無駄だ」


「どうせ死ぬなら最後に教えて欲しいな。どうして私は魔女になれないの?ねぇどうして?」


マリエの言葉に、カサルは目を(つむ)った。答えてやらないのも可哀想だと思ったのか、重い口を開く。


「異端核には1から10の等級がある。等級が上がるにつれて適合者の数は反比例するのが通説だ。コレは6か5等級だろう。一番下の10等級でさえ、適合率は2%だ。この意味が分かるな?」


「それより等級の高い異端核はもっと適合率が低い……」


カサルは頷く。


「6等級以上と適合する確率は、およそ1万分の1。5等級ともなれば100万分の1にまで低下する。国が管理してようやく意味のある兵器であって、個人所有するモノではない」


「そんな……でもそれじゃあ数が合わなくない?魔女の数。道でたまに見かけるぐらいにはいるじゃない」


「……それが2%だ」


カサルは歯切れ悪そうに言った。それに違和感を覚えたマリエの追及は続く。


「何か確率を上げる方法があるんでしょ?そうなんでしょう?」


「……だとしたらなんだ?それを教える理由がどこにある」


「意地悪しないで。教えてよ」


「もうかなり喋ったぞ……。少々厚かましいとは思わんか」


「どうせ死ぬんだし。ココは一つ」


懇願(こんがん)するマリエだったが、流石にカサルもそこまで教える気はなかった。変に希望を持たせるのも彼女のためにならず、何より実体験を語らねばならなくなるのが嫌だったからだ。


「冥土の見上げは十分であろう?……異端核(ルグズコア)(オレ)の方から国に返還しておいてやる。せいぜい残りの時間、懺悔(ざんげ)に努めるんだな」


カサルは木の扉に手を掛ける。


「じゃあ最後に一つだけ……!名前!貴女の名前を教えて!」


(オレ)はこの領地の息子だ。ではな」


カサルはゴスロリ服を(ひるがえ)して病室を後にした。貴族が自ら名乗るなど通常ありえない。それは沽券に関わる問題だからだ。……だが、知られていないのは寂しいので、貴族は皆、それとなく「○○領の者です」と伝える。


そんな事情を知らないマリエは、去っていく彼の後ろ姿を見て釈然しない様子で呟いた。


「名前、教えて欲しかったんだけどなぁ……ん、あれ?」


彼の最後のセリフが引っ掛かり、しばらく反芻して疑問の正体を探る。


「オレはこの領地の息子……領地の息子……むすこ……男!? 」


突然マリエの脳内に溢れるカサルとの会話の数々。ボーイッシュな雰囲気の少女だとは思っていたが、まさか本当に男の子とは。マリエは驚いて自然に口元を隠した。


「男の子だったんだ……。めっちゃ可愛かったなー……思わず見惚れちゃった」


口元を隠しながらクスリと笑って、彼女は再び横になった。


「ふふふ……運命の出会いかも。私の方が年上なのかな。だったら私がお姉さん? もっとお話ししたかったなぁー……」


そう言って彼女は瞳を閉じる。


彼女の死刑は着実に迫っていた。


マリエは悪い子です。



※面白かったら、★を5つポチっとお願いします。

面白くないorちょっと合わなかったら、★を1つポチっとお願いします。

xもやっています。フォローをしたら最速でバカサルの情報を入手できます!

ハッシュタグは#バカサル です!

ではまた(´・ω・)ノシ

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ