おバカ貴族と運命の歯車
2025/11/26 大幅な加筆修正
逃げる一隻の航空船を後ろから追いかける複数の航空船団、その内の一つが爆発し、瓦礫と共に二つの影が投げ出された。
一人は少女、もう一人は屈強な軍服を着た男。
二人とも爆発の衝撃で意識を失っているのか、重力に身を任せ頭から落下してきている。
「風よ! 我に従え!」
暴れる気流をねじ伏せ、カサルはまず一人目の影──屈強な男の元へ肉薄する。
意識を失った男の体を風の膜で包み込み、落下速度を強引に殺して空中へ縫い留めた。
「次ッ!」
後ろから落ちてくる小さな影に注視し、刹那に魔力を練り上げる。
彼を浮かせる黒のブーツは風魔法によって加速し、垂直落下の只中にある銀髪の少女に瞬時に追いつく。
そこまでは良かった。だが、体を抱き留めようと腕を伸ばした──その瞬間だった。
(……ッ!?)
カサルの全身に、おぞましい悪寒が走った。
視界に飛び込んできたのは、少女の豊満な胸元。
腕に伝わる、内臓を圧迫するような生々しい肉の感触だった。
鼻をつく甘い匂いと生温かい体温が、母親の幻影を暴力的に引きずり出した。
(クソッ……こんな時に!)
拒絶反応で指先が震える。胃液が喉元までせり上がる。
だが、理性という名の杭がカサルの腕を少女に縛り付けた。
(……ええい、ままよッ!)
カサルは引きつった顔で少女を抱き寄せると、墜落に近い軌道で地上へ突っ込んだ。
ドォン! と風の塊が石畳を叩く。
着地の衝撃を魔法で相殺しきれず、カサルは膝をついて荒い息を吐いた。
「ぜぇ、はぁ……。危うく呼吸困難で死ぬところであった……」
顔面蒼白で、口元を押さえるカサル。
この領地で雇われている魔女たちが慌てて駆け寄ってくる。
「カサル様!? 大丈夫ですか!?」
「顔色が真っ青ですわ! 」
「……触るな」
差し伸べられた手を彼は拒絶した。
カサルは女性のことが大好きでも、女性に触れられると拒絶反応が出る、いわゆる女性恐怖症だった。
(クソが……我がこれしきのことで……)
カサルは震える足で立ち上がり、虚勢を張って髪を整えた。
「領民を……いや、人を救うのは貴族の義務だ。この程度どうということはない」
強気な態度を示す彼に魔女たちは呆れたが、安堵の色を浮かべて彼を見る。
カサルは乱れた呼吸を整えながら、魔女たちを置いて横たわる二人の元へ歩み寄った。
屈強な男の背中には、軍人を証明する認識票と、お隣の貴族の家紋が刺青で彫られていた。
彼は軍人でどうやら間違い。それも隊長クラスのエリートだ。
そして少女の手の甲には──
「おい、この女……泥棒だぞ‼」
野次馬の一人が叫んだ。少女の手には、盗人の証である罪人の紋章が刻まれている。
だがカサルが注目したのは、少女が固く握りしめている掌サイズの球体だった。
脈打つ金属の球体。内部で幾層にも重なる幾何学模様。
彼はそれが何なのか知っていた。
(……馬鹿な。異端核だと!? )
カサルは懐から「単眼鏡」を取り出し、装着した。
複数のレンズがカシャカシャと回転し、異端核の構造を拡大する。
(間違いない、本物だ)
魔法使いの変身道具にして、国家機密級の戦略兵器。
なぜ盗人の少女が、国を揺るがす『兵器』を握りしめているのか。
「なぜこんなものを……いや、それどころではないな」
カサルは野次馬の視線を遮るように屈み込むと、素早い手つきで異端核を自らの懐に収めた。
「怪我人だ。二人とも治療しろ」
カサルの言葉に医者は驚きを隠せない。
「女は罪人ですがよろしいのでしょうか?」
そう訊いたところで、カサルは怪我人から視線を外して医者を睨みつけた。
「彼女が後で罰を受けるから治療は結構です、とでも言ったのか? 」
カサルの声から道化の色が消えた。
絶対零度の理性が医者を射抜く。
「目の前に命がある。ならば救う。医者のルールはそれだけのはずだ。そこに『損得』だの『保身』だのという不純物を混ぜるな。命を秤にかける傲慢は、神だけに許された特権だぞ」
「ひっ……!」
慄く医者と、カサルの言葉に尊敬の眼差しを向ける民衆。
カサルはそれに小さく舌打ちをした。
「……と、父上が言っていた気がするが我にはよくわからん! フッハッハッハッハッ!
……だからさっさと治せ、藪医者。後、慣れてるからって早く隠れないとぶっ飛ばされるぞ、お前ら」
カサルがそう言うと、ペントの街の人々は「助かって良かったなぁ~」なんて呑気なことを言いながら、公設された街の防空壕に繋がる階段を一人ずつ降りて行った。
カサルもまた到着早々に非難しなければならない状況だが、そんな彼の裾を医者が摘まんだ。
「ですがカサル様、我々だけで罪人を治したとあっては、後で魔女様に何と言われるか。どうかご同行願えませんか」
医者に言われ、カサルは懐の『異端核』の硬さを服の上から確かめた。
本音を言えば一刻も早く邸に持ち帰りこの玩具を解析したい。
だが、もしこの少女が目覚めて「私が持っていた玉がない」などと騒ぎ出せば、それこそ面倒なことになる。
「っぐぬ……分かった。お前達だけでは心もとないというのなら仕方あるまい。連れて行け」
「ハハァ~!」
その避難所に向かう道すがら。
胸に埋め込まれた『異端核』が、トクントクンと脈打った気がした。
(……お前も不安なのか? )
カサルは胸元を抑え、空を見上げる。
今もなお古龍はペント上空を悠々と泳ぎ、街に嵐を巻き起こしていた。
街の人間は殆どが公設された防空壕へと避難が済んだのか、当たりにはもう殆ど人は残されていない。
彼は担架で運ばれる少女に視線を落とし、共に避難所へ向かった。
カサル君は男の娘であると同時に女性恐怖症でした。
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