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ゴスロリ貧乏貴族は天才発明家(男の娘)!? ~働きたくないので魔道具を作ったら、いつの間にか国家経済を支配していました~  作者: 星島新吾
第二章:王都シラクーザ編

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おバカ貴族とコープスパーティー

 

 深夜10時。神聖なるシラクーザはその姿を魔都に変貌させる。

 街中には死体を集める収集家と殺人鬼が会釈をして談笑しては、獲物を見つけては狩りをする。

 そんな子供厳禁の夜。


 成人済みのカサルとリヒャルトラインは、お土産のワインを持って再び『ウィリアム治癒院』に訪れていた。辺りは深淵の闇に飲まれ、物音一つ聞こえない。新月の夜は容易に全ての物を取り込み同化している。


 カサルが持つ強い光を放つランタンの燐光だけが、ぼんやりと周囲を薄緑色に照らすだけの寂しい世界となっていた。


 しかし中に入ってしまえば、すぐに人工的な蝋燭の温かな光が彼らを迎える。


「……悪趣味なサロンだ」


 そこは、昼間の廃墟同然の姿とは打って変わっていた。

 壁にはビロードの垂れ幕、床には磨き上げられた大理石。

 そしてホールには、仮面やマスクをつけ、黒服に身を包んだ「同好の士」たちが二十人ほど、グラスを片手に談笑していた。


 ただ一つ、普通の夜会と違うのは──テーブルの中央に鎮座するのが、ローストビーフではなく、丁寧に解体された「人体」であることだけだ。


「おや、新しいゲストかな?」


「随分と可愛らしいお嬢さんだこと」


 カサルたちに視線が集まる。新たな知識の友を迎え入れる温かな視線の数々、今まで向けられた事のない奇妙な視線にリヒャルトラインは僅かに身を硬くする。だが、カサルは悠然と歩を進めた。


「見世物ではないぞ。……ウィリアムはどこだ? 『メインディッシュ』が硬くなる前に」


 カサルがワインボトルの入ったバスケットを給仕に手渡すと、奥から白衣を鮮血に染めたウィリアムが現れた。


「お待ちしておりました、Mr.カサル。……さあ、特等席へ。今宵の『テイスティング』は、きっと貴方の知的好奇心()を満足させるはずです」


 ウィリアムが指を鳴らす。

 会場の照明が落ち、スポットライトが一点を照らした。

 そこには、異様な脈動を続ける、ガラスケース入りの「女」が運ばれてくるところだった。


 ジェーンが嬉々として覆いを取ると、会場からどよめきが上がる。

 切り開かれた胸部。そこには心臓の代わりに、赤黒く変色した異端核が埋まり、そこから無数の血管が植物の根のように伸びて、肋骨や肺に癒着していた。


 それを見た貴族や研究者たちが口々に感想を述べる。


「……なんとおぞましい」


「異端核による『浸食』か。まるで悪性腫瘍だな」


「いや、寄生虫に近い。宿主を食い殺して繁殖しようとした成れの果てでしょう」


 集まった闇医者や研究者たちが、口々に持論を述べる。

 彼らの目には、その死体が「病魔に冒された失敗作」としか映っていないようだった。


「……些かその感想は、悲観的過ぎるようにも聴こえるな」


 静まり返った会場に、冷ややかな声が響く。

 カサルだった。彼はグラスを回しながら、周囲を見渡す。

 自分と同じ感想の人間がいないかの確認だった。


 しかし誰も、カサルと同じ意見を持つものはいないようだったので、カサルはその重い腰を上げた。


「 これは『浸食』などという破壊的な現象ではない」


「ほほう? ……それでは貴女にはこれが何に見えますか。お嬢さん」


 老齢の闇医者が興味深そうに、新たな友に問う。

 カサルは、ガラスケースへと歩み寄ると、その変質した心臓を指差した。


「適合……いや、『共生』だ」


 ざわざわと会場が騒ぎ始める。

 新たな進化論を提唱する若者が学会に現れたことが、小さな喜びの波紋を生みだしたのだ。


「以前、高性能な魔導レンズで植物の細胞を覗いたことがある。

 そこには、細胞とは明らかに違う動きをする『小器官(微小な住人)』がいた。

 (オレ)は思うのだ。あれは元々、別の小さな生物だったのではないかと。

 太古の細胞がそいつを喰らい、消化せずに腹の中で飼い慣らし、『動力炉』として利用した……それが生物進化の鍵だったのではないかと、な」


「人間もまた異端核を腹の中で飼い慣らし、貴女のいうように、進化の過程にあると?それは余りにも……いや、面白い意見だな」


 少女の姿をしたカサルにあまり強い言葉を言っては可哀想だと、研究者たちは言葉を考える。

 せっかくの小さな芽を摘み取るのはこの学会にとって大きな痛手だと思ったからだろう。


 しかし研究者たちは複雑な構造である人間が新たに何かの生物を取り込んで共生する、という発想はあまりに短絡的で幼稚な考えという結論に至っていた。


「そもそも神は我々を完全な姿で創造なされた。君の進化と言う言葉には神への不信が感じられるが、そうではないのだろう?」


 宗教的立場をとる研究者からはそのような言葉がでてきて議論は大いに盛り上がったが、結局誰にでも自分の考えがあり、それを誰も変えようとは思っていなかった。


 大体全員「やってはならない」と言われていた禁忌を犯してまでここに集う狂人たちだ。独自の思想や価値観を持っていないワケがなかった。


 とどのつまり、カサル含め全員頑固者であり、端から他人の意見で自分の主張を変えようなどとは微塵も思っていない。


 しかし、だからと言って、カサルの言ったことが全て無駄かというとそうではない。


 彼らは主張を曲げないだけで、そう言う意見もあるのかと取り入れ、次の研究をする時にその話をふと思い出すかもしれない。そんな時のために互いに自分の発表をするだけなのである。


 ココは真偽と善悪が交差し、誰もが皆一つの真理を目指して話を行う。そういった知的探求の場所だ。


 そんな素敵な場所でカサルとリヒャルトラインは、その後も人間の構造や異端核を話題に研究者たちと食事をしながら、優雅な一時を堪能した。


 偶に胸倉を掴んでの一触即発が隣の席などで起きたりもしたが、そこはご愛敬。お互い真面目に本気で話しているのだからそう言うこともあると、カサル達はそれを見て笑って楽しんだ。


 そして時間はあっという間に過ぎていき、お土産としてウィリアム兄妹は異端核保持者の死体の白黒写真を全員に配って渡して歩いた。


 そしてウィリアムとジェーンがカサルの席にまでくると、にこやかに笑って今日の『テイスティング』に来てくれたことにお礼を交えて談笑した。


「いかがでしたか? 少し刺激が強すぎたかもしれませんが」


「悪くない余興だった。……だがウィリアム。土産は『写真』だけか?」


 カサルは渡された写真をテーブルに放り投げた。


「おや、お気に召しませんでしたか?」


(オレ)が欲しいのは実物だ。……そのメインディッシュ、言い値で買おう。包んでくれ」


 カサルの発言に、周囲の研究者たちがざわめく。

 ウィリアムは困ったように眉を下げた。


「お戯れを。あれは貴重なサンプルです。今後、解剖してホルマリン漬けにする予定で──」


「解剖? 殺す気か?」


 カサルの声色が、スッと冷える。

 場の空気が凍りついた。


「……殺す、とは? 彼女はもう死んでいますが」


 ウィリアムの不思議そうな言葉に、カサルは一瞬何を言っているのか疑問に思ったが、そう言えば前提条件としてカサルが話していないことがまだ一つあった事を思い出す。


(オレ)は一度たりとも、それを『死体』と言った覚えはないぞ」


 カサルに集まっていた視線が一斉にテーブルの中央を移った。


「脳は恐らく死んでいるだろう。しかし完全に人間が死ぬと、異端核はその体から離れるのだ。つまり───」


 カサルは立ち上がり、ガラスケースの前へと歩み寄る。

 そして、制止するジェーンの手をすり抜け、ケースに指先を押し当てた。


「論より証拠にみせてやろう。……少しばかり『燃料』を注いでやれば分かる」


 カサルの指先から、微細な魔力が放たれる。


 ──ドクン。


 静寂に包まれたサロンに、あり得ない水音が響いた。

 死体のはずの胸部、その赤黒い異端核が大きく収縮し、血液を送り出し始めたのだ。


「なっ……!! う、動いた!?」


「馬鹿な、蘇生魔法か!?」


 野太い歓声を上げる研究者たち。死体が動くなんてなんてロマンチック!?

 そんな素晴らしい話があっていいのかと、研究者たちはガラスケースに齧りつき、我先にとその死体に群がった。


「蘇生魔法ではない。休眠状態のようなものに『燃料』を入れて動かしているにすぎんさ。直に外部からの供給が途絶えればまた停止する」


「こんなに素晴らしい実験結果を黙っていたなんて、君も人が悪いな」


 研究者たちは人体解剖の専門家である。

 したがってもう一つの禁忌、異端核の解剖という二重に禁忌を犯している人間は、この場でカサルしかいなかった。ゆえに、この可能性を予見できたのも彼しか存在しえなかった。


「見ろ。これは『共生』の証明だ。

 ……ウィリアム。この『新しい生命』を管理できるのは、この会場で(オレ)だけだぞ?」


 圧倒的な説得力。

 カサルは懐から小切手帳を取り出し、ニヤリと笑う。


「さあ、公開商談といこうか」


 世界一自分勝手な男の商談が始まった。








リアクションされると喜びます。

それではまた、次のお話でお会いしましょう。(´・ω・)ノシ

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