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ゴスロリ貧乏貴族は天才発明家(男の娘)!? ~働きたくないので魔道具を作ったら、いつの間にか国家経済を支配していました~  作者: 星島新吾
第二章:王都シラクーザ編

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おバカ貴族と王都到着

生きのいい死体を求めて、カサル一行は王都シラクーザに到着する。

航空船から眼下に映る景色は圧巻の一言に尽きた。


「うわぁ……やっぱりおっきいね! 」


ゾーイが興奮する様子で、何度見ても見飽きない壮大な景色に、感嘆の声を漏らす。

巨大なデルタ地帯に流れる大河の河口に作られた、無数の運河が走る水上都市シラクーザ。


七色の霧から覗く街並みは壮観で、上層には煌びやかな貴族街や教皇庁のある一方、海辺に近い下流にはスラムや排水区が設置されている。


まさにこの国の縮図を現したかのような都市だ。


カサル達は交易船として、上層と中層の中間に位置する航空船専用の空港に船を降ろす準備に取り掛かる。


「わぁ~リリちゃんアレはなんですかぁ、アレはぁ~」


初めてシラクーザを見るタヌキがリヒャルトラインに、視線の先にある七色の河を指さして訊く。

そんな好奇心旺盛なタヌキに、年上への敬意を忘れないリヒャルトラインは、航空船のガラス窓に顔を張り付けてみるタヌキに丁寧に教えた。


「アレは七色運河(ケミカルカナル)と言って、工場の廃棄物によって染まってしまったものなんですよ、ゴンザレス(タヌキの本名)さん。それとシラクーザを歩く時はコレを身に着けてください。中層の空気も少し悪いので」


ゴンザレス(タヌキ)はリヒャルトラインからマスクを受け取ると、その不思議な形状に首を傾げる。鼻の部分が鳥のくちばしのように長く顔全部を覆い尽くす茶色の無骨な革製マスクで、被ると鼻先からハーブの良い匂いがした。


「良い匂い~」


くんくんと鼻を鳴らして、幸せそうな顔をするタヌキに、席に座って到着を待つカサルが肘置きに腕をつき、法杖を突きながら「カードリッジの無駄だからココでは吸うな」とタヌキに命令する。


ハイッ、とそれに返事をしながら、タヌキは全員を見て、自分だけマスクをつけるのかと疑問に思う。


「皆さんはもうマスクを持っているんですか? 」


タヌキのその言葉を待っていたと言わんばかりに、その場にいる全員が自分のマスクを取り出す。

全員自分のマスクを自慢したかったのである。


操舵をするマリエは装飾のない、白磁の鳥のくちばしを模した美しいマスク。

ゾーイは羽と宝石がくちばしの先にまで散りばめられた、一目で高級なものと分かるマスク。

そしてリヒャルトラインは鼻の少し短い、古風で歴史的価値のありそうな狐のお面だ。


そして最後にカサルはというと、漆黒のレースと銀細工があしらわれた白いガイコツのような鳥のマスクを取り出して、ヒラヒラと自慢した。


「わぁ~皆さん全員違って良いですねぇ~! 」


タヌキの言葉に、全員がスッと仮面を被って照れ顔を隠す。


全員今回が初シラクーザであるタヌキの観光案内を心待ちにしていた。


マリエ達は一度、教皇選挙の時にシラクーザへはやってきており、カサルに関してはココに学園があるため、もはや第二の庭のようなものである。

都会人マウントを取るには、施設育ちのタヌキは絶好のカモだった。


物資調達という名目の下タヌキを招集するため、今回は十三人の少女達にはお留守番を頼み、カサル達はシラク―ザへ降りる。


こうして上空から地上が段々と近づき始めた頃、カサルは川を見下ろすと七色の運河(ケミカルカナル)の中に「黒い小舟の行列」が視界に入った。


(アレは……水葬の列か……)


人口爆発で墓に困った人間が非合法に死体を海へ流す水葬の現場をみて、

やはり魔導革命に人間の営みがついて行けていないな……と悩む開発者としての思考と、

死体の調達が意外に簡単そうだと、不謹慎にも思う科学者の思考の二つがあった。








国で一番の賑わいを見せるシラクーザは当然のことながら空路も渋滞しており、領地から様々な形の航空船がズラリと見本市のように並んで見えた。


蒸気を上げて二隻の航空船が着陸すると、ガスマスクをつけた厳めしい八人の検疫官は扉を開けたカサル達の前に立ちふさがる。


「検疫だ。……全員、止まれ」


 拡声器も使わず、しかしよく通る冷徹な声。

 ガスマスクをつけた長身の検疫官が、無機質な瞳で航空船の扉を開けたカサルたちを見上げていた。

 背後にはミスリルの刀身を仕込んだ錫杖を手に、部下たちが一糸乱れぬ隊列で控えている。


(……相変わらず物々しい連中だ)


 カサルもこの時ばかりは緊張する。

 この男達は、エルドラゴのゴロツキとは違う。

 王都の治安を維持する「番犬」だ。


「入市税と、マスクの性能証明書を」


 教皇選挙の時にはいなかった長く尖がったクチバシを持つ、黒いカラスのマスクをつけた男は、カサルの恰好や後ろのマリエ達一人一人に視線を動かしながらブツブツと何かを呟いている。


「どうかしたのか」


 カサルが書類と金貨を差し出すと、検疫官はそれを受け取りもせず、マリエたちに黒い双眸を光らせる。


「……妙ですね」


 ガスマスクの奥で、男が目を細めた。


「装備は上流階級のそれですが、足運びが『堅気』ではない。……特にそちらの銀髪の女性。重心の置き方が、軍人か暗殺者のそれだ」

 

 裏稼業の人間と言われたマリエは、仮面のせいでどんな表情をしているかは分からない。

 ただ、マリエの黒い殺意が背後で鋭くなるのをカサルは感じて、言いようのない焦燥に駆られ、急いで何か言い訳がないかを考える。


 彼女にしてみればココで不祥事を起こしたところで、しばらくシラクーザを離れればいいだけのこと。

 殺人罪は空の女には通用しないため、ココは彼が何とか納める必要があった。 


「それ以上の侮辱は止めて頂こうか。我々は教会の交易船だ。彼女はその護衛の一人だから、そう見えるのも致し方ないと言えばそうだが。だとしても不躾にもほどがある」


(こ、これでどうだ……!? それっぽいだろう!? )


 焦る気持ちでカサルは押し付けるように書類を検疫官に渡す。

 マリエを侮辱されたことよりも、ソレによって検疫官がこの場でどんな目に合うかを恐怖して、彼の言葉を止める。目の前の男は、この場で一番誰を怒らせたら怖いか理解していないのだ。

 

「……まあ良いでしょう。念のため、別室で精密検査を行います。全員、マスクを外してこちらへ──」


 マリエ達の剣呑な気配に気づいているのかいないのか、検疫官は慇懃な態度で検査を続けようとしたので、カサルは彼の命を本気で心配する。


(オレ)だけで十分だ。普段はこんなことはしないだろう? 何が目的だ?」


 カサルが静かに制止する。


「疑わしき者を通すわけにはいきません。これは規則ですので。例外は認められません」


 検疫官は一歩も引かないし、その勘はとても正しい。正論と職務への忠誠心。これこそが王都の壁だ。だが、命を守るためには『例外』も時には必要なのだ。


 一触即発の雰囲気にカサルは溜息をつくと、ゆっくりと右手を掲げた。

 咄嗟に気のいい言い方の出来なかった言葉足らずな彼の敗北宣言である。


「……例外なら、ここにある」


 薬指に嵌められた、深紅の指輪。


 一等級異端核の輝きが、検疫官の網膜を灼く。

 その瞬間。

 検疫官の動きが、機械のようにピタリと止まった。


「──確認しました。お帰りなさいませ猊下。そちらの方々は護衛の者達ということで処理しておきます」


 動揺はない。悲鳴もない。

 あるのは、上位命令に対する絶対的な服従のみ。

 カツン、と踵を鳴らし、検疫官は直立不動の敬礼を捧げた。


「特例法に基づき、検疫を免除いたします。……部隊、道を開けろ!!」


 ザッ!!

 号令と共に、部下たちが海が割れるように左右へ展開する。


「……ご苦労。……スマンな」


 カサルは検疫官に会釈をしながら通り抜ける。

 背後で見ていたタヌキが、ポカンと口を開けていた。


「す、すごいですカサル様……! あの怖そうな人たちが、一瞬で……!」


タヌキの言葉に、マスクの裏で頬を赤く染めながら頭を掻くカサル。本人もまさかここまで恥を晒すとは思いもよらなかったのである。彼らは仕事に忠実であり、自分達は間違いなく危険人物だ。

それをこのような形で無理やり通り抜けようとしたことを彼はとても恥じていた。


「恥ずかしいからすぐに行くぞ。こんなもの恥以外の何者でもない」


 カサルは溜息をつきながら、そそくさと空港を抜けた。

 無能な役人は金で転ぶが、有能な役人(エリート)は権力に従う。

 王都シラクーザ。ここは、カサルのような「持てる者」のために設計された都なのだ。


リアクションされると喜びます。

それではまた、次のお話でお会いしましょう。(´・ω・)ノシ

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