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ゴスロリ貧乏貴族は天才発明家(男の娘)!? ~働きたくないので魔道具を作ったら、いつの間にか国家経済を支配していました~  作者: 星島新吾
第二章:王都シラクーザ編

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おバカ貴族とメディシス投下

カテリーナ・メディシスには野望があった。

 研究室で非道な人体実験を受ける中、いつかこの檻を抜け出し、世界一輝く存在になるという壮大な夢だ。


 そのためならば、自分より年下の生意気な金髪の小僧にも媚びへつらうことが出来たし、油臭い航空船の中だって黙って掃除もした。


 しかし、その対価に金髪の小僧──カサルが自身に支払ったのは、鉱山夫の溢れる汗くさい土地への出向だった。


「なんで……私がそんな汗くさい場所なんかに……! 」


 自分には煌びやかな舞台が相応しい。それこそ広報として自分を正しく活用すれば、世の男性を虜にできる。彼女にはそんな根拠のない自信が溢れていた。


「それじゃあよろしくね」


 そう言って見送りにやって来た命の恩人であるマリエさんは、ほとんどあの金髪の小僧の言いなりになってしまっている。それだけが彼女の唯一にして最大の欠点ともいえるんじゃないだろうか。彼女はあんなクソガキにいい様にされて、それで幸せそうな顔をしているのだから本当に困る。


 しかしそんな悩みとも今日付けでサヨナラだ。カテリーナ・メディシスは今この時を以て航空船から射出されるのだから。


 冷たい風が吹き込む航空船で、背後には少女達が不安げにメディシスがこの後どうなるのかを見届けるために集まっていた。


 そしてその前に立つのは悪の親玉である金髪の小僧とメディシス。彼女は背中にパラシュートのバッグを背負わされ、諦観の念で出口の前で立っていた。


 体側につけた拳を握り締め、小さく深呼吸をする。


 冷たい空気が肺の中に入って、それがじんわりと横隔膜から胃へと落ちていくような感覚にぶるっと肩を震わせ、パラシュートの紐を握るために必要な動作を何度か不自然なぐらい確認をとる。


 風の音がいつにも増して、聞こえてくるような錯覚を受けたメディシスは薄く笑う。


「ふふふ……不本意ながらも、一度やったんですもの。二回目なんてそんな───」


 メディシスの強がりに被せるように、カサルの無情な声が航空船に響く。


まさか自分のタイミングで飛び降りさせてくれないのかと、彼女が振り返った時にはもう時すでに遅く……。


「手紙は持ったな。では行ってこい」


 無情なカサルの言葉を最後に、エルドラゴ上空からパラシュートをつけたメディシスは外へ蹴りだされた。

 一瞬の無重力。

 空で自由になれたようなその刹那、メディシスの体は自由落下する。


「覚えてなさぁぁぁぁぃぃぃぃーー!! 」


 最後に視界の端に捉えたのは、最後の最後まで自分の価値を理解することのなかった浅はかなあの小僧の、忌まわしいニタリ顔だった。


 高度からのパラシュート降下など初めて行うメディシスにとって、目的地にまで到着できるかが、初めに大きな問題となった。


近くには渓谷もある。

下手な落ち方をすれば一瞬で地獄行きだ。

もはやこの世が地獄のようなものだが、そこで命を投げ捨てるほど彼女は諦めのいい性格ではなかった。


「フハハハハハッ! 傑作だな。次から(オレ)に魔法を使ったヤツは全員この方法にしよう」


 航空船の中から小さくなっていくメディシスを見て、哄笑を上げるカサル。

 そしてそれを見てドン引きをする少女達。


 マリエだけはカサルの頭を撫でて、「寒くない?」と呑気な事を言っていた。

 普通に航空船をエルドラゴに停泊させて降ろせばよかったのだが、彼も底意地が悪かった。

 一度見てみたいという理由でメディシスにパラシュート降下を命じたのだから。


「わ、私アレは嫌ですぅ……」


 落下して行くメディシスを見て、タヌキが青ざめた顔でカサルに懇願した。


「心配するな。あれはよっぽどのことをしなければない。タヌキ、お前は自分の務めを果たせ」


 ガクガクと首を振ると、散って行くタヌキ。少女達もそれについて行って、蜘蛛の子を散らすように逃げていった。

 残ったのはマリエとリヒャルトライン、それにゾーイのいつもの三人だ。


「心配だなぁ」


 マリエは落ちていくメディシスを心配して、最後まで彼女が落下して行くのを視線で追っている。

 そんな彼女を慮ってか、カサルは微笑を浮かべてその心配を払拭させるように言った。


「心配ない。(オレ)が最後まで見ているからな。途中でどうあれ、最後はちゃんと店の前に着地するように風の流れは操作できている」


 カサル達はメディシスの最後を皆で見届けた。

 一方で落下中のメディシスはというと、開かないパラシュートに絶望していた。


「な、なんで!? 開かない! 」


 早めに開こうとしたパラシュートの紐を引っ張っても、なぜかバッグの反応がない。事前の説明では、バッグが開いてそこからパラシュートが出てくる算段のはず。


 まさかあそこまで説明しておいて、全てが自分を絶望させるための丁寧な仕込みだということはないだろうかと、メディシスは考える。そしてあのカサルならやりかねないとも思った。


「んもぉお! バカ!バカ!バカ!バカ! 」


 一言一言、力を込めて呪詛を唱える。

 あの陰険な金髪人形に天誅あれと、カテリーナ・メディシスは切に願った。

 その金髪人形が命綱を握っているとも知らずに。


 当然ながら、その呪詛も風に乗って彼の耳に届いているため、「バカ」と聞こえるたびに、彼女が減速するタイミングを後にズラして行った。


「ヒャアアアアアアー!! 」


 情けない声を上げながら投下されたメディシスは賑わう店先、ヘルメス商店前で風のクッションを受けながら尻もちをつく。


 ドスンと土煙を上げながら腰を上げるメディシス。


「いやぁ、すいませんすいません。ウチのものですんで。へい、すいません」


 ヘルメスが騒ぐ客を華麗に捌きながら、人込みを掻き分けてメディシスに近づく。そしてヘルメスはメディシスと目が合うと、その余りの美貌に一目で心を奪われそうになった。


(ど、どえらいベッピンさんだな……旦那は性格の悪い悪女を一人送るって手紙に書いてあったけど……そうは見えねぇなぁ)


 商売柄多くの美人を相手にしてきたヘルメスだが、メディシスの色気にはとことん参ってしまうほど、彼女の外見的な魅力はすさまじいものがあった。


 長い青みがかった黒髪に、鮮やかな蒼の瞳。ツンとした態度もどこか魅力的に映る彼女は、ヘルメスを見つけるとすたすたと歩いて手紙を渡した。


「今日から……その、よろしくお願いします……」


 恥ずかしいところを見られ赤面するメディシスは、腕を組んで自分の新しい上司であるヘルメスに一応の挨拶をする。本来であれば【魅了】の魔法でこんな男はすぐに手駒にできるというのに、という思いが透けてみえるようだ。


 しかし彼女にはそんな魔法を使えない理由があった。


 彼女の首に付けられた黒色のチョーカー、そこにはミスリルの装飾が施されていたからである。


 ココにメディシスがやってくる前、様々な事前情報をマリエ達によって伝えている間に、カサルが作成した特注品の首輪だった。メディシスがその首輪を自分で外すことは出来ないし、それが可能なのは外す手順を知っているカサルとそれを手紙で伝えられているヘルメスだけ。


 無理やり外そうとすればすぐにカサルの下へ通知が行くようになっているため、メディシスは仕方なく、労働に従事しなければならないようになっていた。


「よろしくなメディシスさん、あっしはココの店を任されてるヘルメスだ」


 笑顔で握手を求めるヘルメス。

 だが、メディシスはその手を握ろうとはしない。

 彼女は好きでもない男の手を握る気はなかった。特に、誰彼構わず媚びへつらうような手合いは生理的に無理だった。


「おっとと……ヘヘッ、そうでしたね。店の中を案内しやすよ。今は改装工事中でちょっと見栄えは悪いけど、完成したら白亜の城みたいに綺麗な店内になるんすよ」


「へぇ……」


 とつまらなさげに、聞き流すメディシス。

 しかしヘルメスは美女の部下を持てたことをカサルに感謝していた。


(だ、旦那ぁ! 一生ついて行きます!! )


 ヘルメスが天を仰いで感謝していると、ふと店の前が騒がしくなったことに気づき足を止めた。


「おい、なんだあの美人は?」


「空から落ちてきたぞ! 新しい踊り子か? 」


 メディシスの圧倒的な美貌に釣られて、暇を持て余した男たちがゾロゾロと店の周りに集まり始めたのだ。


 それを見たメディシスは、フン、と鼻を鳴らした。

 悪い気はしない。

 むしろこうやって囲まれてこそ、自分の価値が証明されるような気がして、感情が高ぶってくる気さえした。


「……見世物じゃないわよ。何か用?」


 髪を(なび)かせた彼女の冷たい一(べつ)と、胸元の開いた服から覗く扇情的な谷間。

 そのギャップに、男たちの視線が釘付けになる。


「お、おい姉ちゃん! 一晩で、いくらだ!? 」


「俺とも遊ぼうぜ! 」


 彼女がただ立っているだけで、鼻の下を伸ばした客が勝手に財布を開き始めたのだ。


「アンタ達みたいなの、相手にしてらんないわ。せめてココの商品を買ってからにしてくれる? 」


 ヘルメスは驚愕し、次いで商人の顔になってニヤリと笑った。

 彼女に店の中は相応しくない。

 外に立ってこそ価値のある人材だと商人の勘が囁いた。


「へへ……こいつはすげぇ。旦那の狙いはこれかぁ……勉強になるな……」


 カサルの狙い通り、野心家の悪女と、やり手な商人の最強タッグがここに結成された。


 しかし喜ぶのはまだ早い。


 カサルは既にヘルメス商店を販売強化したことにより、計画を次の段階へと移していた。


(販売窓口が広くなったおかげで売れるスピードも速くなった。これからは盗品だけじゃ店を回していけない。そうなれば次の段階だ。交易船団を作り、空の支配権を手に入れる。そうすればマリエ達はもっと(オレ)を崇め、感謝するはずだ。そうなればもっと貢ぎたくなるはず……)


 地上の権力を手に入れたカサルが次に狙うのは、自由の象徴である天空だった。


(空さえ手に入れれば、ついに永久機関の完成だ。(オレ)がマリエ達を育て、そしてマリエ達が金を稼ぎ(オレ)に貢ぐ。あぁ、なんと素晴らしい完璧な計画だ……)


 杜撰以外の何物でもなかったが、カサルはそんな夢を見て突き進む覚悟を決めていた。目下課題はそれをこなすための人材不足と、空の支配権が人間にないことだろう。

 カサルの生活圏である空には、人では到底太刀打ちできないが存在することも大問題だった。


 もはや地上のベッドでは寝たくないカサル。彼は空の旅が好きだった。

 カサルは龍と戦うための準備を、特に必要な魔女の育成を視野に入れつつ、着実にその歩みを進ませていく。


 夢は死ぬまで空の上で暮らし、働かないこと。

 そしてタイムリミットは、マリエ達が働けなくなるまでだ。


(完成させなければ……カサル経済圏を)


 


リアクションされると喜びます。

それではまた、次のお話でお会いしましょう。(´・ω・)ノシ

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