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ゴスロリ貧乏貴族は天才発明家(男の娘)!? ~働きたくないので魔道具を作ったら、いつの間にか国家経済を支配していました~  作者: 星島新吾
第二章:王都シラクーザ編

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おバカ貴族と完全自動マニュアル

被検体だった少女達が航空船の客としてやって来てから数週間。


マリエ達が空賊稼業に出かけている間は、自然とカサルがそのおもりを任され、彼女達といる時間も多くなった。


少女達の数は全部で十五人。顔も名前も覚える気はないカサルが唯一記号で覚えていたのが、ずんぐりむっくりとした体躯で、もじゃもじゃ頭に大きな顔、それに狸のような垂れ目の女だった。


彼女はマリエに拾われてきた被検体の中でも最年長で、三十二歳と言った。他の非検体よりも研究施設にいた時間が長く、外のことはほとんど知らないらしい。田舎者より質の悪い研究所育ちの彼女は、空に浮かぶ航空船を見て驚いていた。


そんな彼女がカサルのお守り中に声をかけてきたのは微睡のやってくるオヤツ時のことだった。


「あの、カサル様……」


「タヌキか。何用だ? 」


もじもじとした様子でやってきたタヌキは、モジャモジャ頭の下に隠れた双眸を淡く光らせる。


「あの、カサル様のお役に立てることは何かないでしょうか」


”ない”、と突き放すこともできたが、カサルも暇をしていた。

話し相手に道化の相手をするのも一興だと思い、彼は読書中であった本を置いて彼女に向き直る。


「何ゆえ(オレ)の役にたちたい? 暇なのか? 」


「はい。今は皆お昼寝中ですので」


タヌキはそう言って欠伸を一つ。彼女の眼もとろんとしていて、眠たそうだ。


「眠ったらどうだ」


「その……私も何かお役に立ちたくて」


何か焦る気持ちがあるのかタヌキは言った。

カサルはしばらく考え、辺りにあるものを探す。

すると脇にあったのはこの航空船の家計簿だった。


「家計簿は付けれるか? 」


と聞いたが、”数字は苦手”だと彼女は言った。

言葉の意味を理解できなかったカサルは、どの程度数学が出来ないのか、幾つか問題を出したが、二桁の足し算がギリギリと言ったところのようで、掛け算などは習っていないとのことだった。


一体いつから研究室にいたんだ、という疑問は今はどうでもいい。

せめて支出と収入ぐらいの足し引きは出来た方がいいだろうと、カサルはタヌキに勉強を教えることにした。


「ふむ。恐ろしく物忘れが早いな。素晴らしい」


「えへへ……ありがとうございます」


褒められたと勘違いしたタヌキは、頬を染めてモジャモジャ頭を自分で撫でる。

今までにもこういった領民を数多く見てきたカサルでも、ここまで底なしにポジティブなのも珍しい。


「……まあよい。続けるぞ」


タヌキは優秀で、教えたことはすぐに忘れた。天性のアホと言っても過言ではない。

一時間もすれば全ての公式が頭から消滅し、同じ話しをすれば”そんな話しをしていましたね”と、カサルに謝る始末。


暖簾に腕押しのような感覚に時間の無駄を感じたが、それでもマリエ達が帰ってくる頃には、四則演算や四桁以上の足し引きは出来るようにタヌキはなっていた。


彼女はお礼を言って、自分の飛行船に戻っていく帰り道、申し訳なさそうにカサルに頭を下げる。


「ワタシ……たぶん、明日の朝には忘れてしまってます……すいません」


自信なさげなモジャモジャ頭を下げられても、カサルは返す言葉が見つからなかった。


「馬鹿だから仕方がない」


「ハイ……」


しょんぼりするタヌキに、首を傾げるカサル。

事実を言っただけで、彼女がそれでしょげる必要はなかった。


「忘れたらまた訊きにこい。頭に染みが出来るまで教えてやるから」


「……ハイ! 」


ブリッジを渡り帰って行ったタヌキを見送ると、カサルは自分の飛行船に戻り、マニュアル作りを始めた。もしもタヌキが完全にそのマニュアルを理解して金勘定を一人でできるようになったら、第二のタヌキを用意することも可能になる。


次の目標は、放置で育成できる自動育成システム(マニュアル作り)だった。


そしてまた夕食をとると、カサルは工房に引き籠り、分厚い家計簿マニュアルを作成し始めた。そして、三時間ほどで完成すると、こんどはそれに魔法で一工夫入れる。


そして翌日。


「これが『完全攻略マニュアル(カサル式)』だ」


 カサルは徹夜で書き上げた分厚い羊皮紙の束を、ドサリとタヌキの前に置いた。


「い、一から十まで……びっしり書いてありますね」


見る気の失せる物量に、さーと青ざめるタヌキ。

こんなモノは次のページをめくる度に、前のページの内容を忘れるに決まっていた。


忘れるということにおいては、彼女は確かな自信があった。

もはやポンコツの意地と言っても差し支えない。

ゴミのようなプライドだ。


しかしそんなことは、当然カサルもお見通しだった。


「ああ。だがお前のことだ。文字を見ても『これどういう意味でしたっけ?』と、それはもう、とても申し訳なさそうに聞いてくる未来が見える。課題を与えているのはコチラであるにも関わらず、だ」


「うぅ……否定できません」


相手の能力に見合った課題を与えないのは『教える側の落ち度』、と言うのがカサルの持論だった。

あえて難しい課題を与え成長を促す、という指導者もいることはカサルも良く知っていたが、それは高度なレベルの話であり、タヌキはそう言った学習上級者ではない。


だからそれに合った学習法をカサルは編み出したのだ。


「このインクには我の声を魔法で定着させてある。……ほら、ここをなぞってみろ」


 カサルに言われ、タヌキが『支出』という文字を指でなぞる。

 すると、インクがぼんやりと光り、紙からカサルの不機嫌な声が響いた。


『支出というのは、財布から出ていく金のことだ! 入ってくる金じゃないぞ! 間違えたら夕飯抜きだ!』


昨日作業終わりに録音したため、カサルは自分の声が若干疲れ声であることに気づき、すぐに修正したい気持ちに駆られるが、そこはグッと堪えてタヌキのフィードバックを待つ。


「ひゃっ!? か、カサル様の声が!」


「……忘れたら、何度でもこの紙に喋らせろ。我の喉が枯れる心配はないからな。名付けて学習用教材【教師の囁き(ウィスパーウィスプ)】だ」


そうして一週間もすると、タヌキはそのマニュアルを使って家計簿をつけれるようになった。

相変わらず”マニュアルがなければ忘れる”と本人は言っているが、彼女のモジャモジャ頭がから覗く目を見れば、彼女にミノムシばかりの自信がついていることは見て取れた。


そして副産物的なものとして、少女達がタヌキ経由でカサルのことを知ったのか、お留守番の時には少女達がちらほらとカサルの航空船に顔を見せるようになったのは彼にとっても嬉しい誤算だった。


「フッフッフッフッ……。タヌキのやつ、良いアジテーターになったようだな。おかげで(オレ)への忠誠心が可視化されて見えるようだ」


少女達の羨望の眼差しを受けながら、自分の仕事を押し付けるために彼女達に新たなマニュアルを授けるカサル。ゆっくりと、しかし確実にカサルの支配の手は広がりつつあった。








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