おバカ貴族と謎の少女集団
エルドラゴ出発から、数カ月後。
「マリエ、こいつらは? 」
カサルは目の前の光景に溜息をつく。
航空船に上がってきたマリエと、その背後に並んだ少女達とを交互に視線をやれば、彼女達が何処からかマリエに攫われてきた少女達であると見当はつく。
問題はその捨て犬をどうするつもりか、という至極当然のこと。
「ヒッ……」
小さな悲鳴を上げる、見た目の年齢も10歳~30歳とばらけた少女達が各々違う震え方をしているのを見てカサルは悪役の気分を味わう。
彼女達は彼の睥睨する態度に、委縮し雛鳥のようにマリエの背後に隠れ息を顰める。マリエはそんな彼女達を守る親鳥といったところか。
彼女達がどれだけ複雑な感情でこの航空船にやってきたのかは定かではない。
しかし、何らかの理由で自分を彼女達が恐れていることは彼にも理解できた。
「今日から皆新しい家族だよ~。みんなぁ、この子はカサルちゃんって言うんだよ。貴族だけど、他の貴族とは違うから安心していいからね」
空賊稼業から帰ってきたマリエ達が連れ帰ってきた少女達はどの子も襤褸切れを纏っており、まともな環境で生活していたとは思えぬ風体だった。
カサルは彼女達に背を向けて去ろうとする後ろ姿のまま、
「……体調を取り戻した暁には謁見の許可を出してやる。……しばらくこの航空船で養生していろ」
と言い残して去っていった。
怯える少女達に視線を一瞬やるが、やはり全員カサルを恐怖の象徴のように見たので、カサルはそれ以上彼女達に近づくことはしなくなった。
居住スペースも新しく買った飛行船に用意しているようで、リヒャルトラインやゾーイ、それにカサルとは別で彼女達は生活をするだが、カサルは彼女達のことが気になる。
連れ帰ってきた三人の内、手の空いているものがゾーイだけだったので、艦橋で船の進路を確保しているゾーイにカサルはおもむろに声をかけた。
「ゾーイ。訊きたいことがある」
「私知らないよー。マリエから何も訊いてないもん」
そう言ってゾーイは耳を塞ぎ、航空船の先ばかり見つめている。
「しかしお前も一緒にモノを盗みに行ったのだろう? 今回行ったのは龍災があった場所ではないようだったが? 」
カサルは今回彼女達がどこに行っていたのか、詳しく訊いていなかった。
殆どを他の人間に任せているとはいえ、ギルド長と枢機卿とヘルメス商店の帳簿を確認する暇つぶしに彼は忙殺されかけていたからだ。
「何にも知らないって。忙しいからあっち行ってー」
「教えてくれたら大人の化粧教えてやるぞ? 」
「マリエとリヒャルトラインと私は元々、色んなところから連れてこられた実験体?だったんだ。そこを抜け出して今は空賊やってるんだけど、今度また同じ境遇の子を見つけたから衝動的に助けちゃったの……ハッ⁉」
言ってしまった、と口を塞ぐゾーイ。
カサルにとって良い情報提供者だった。
「なるほどそう言う過去が……約束通り一段階上の大人なメイクを教えてやろう」
「わーいヤッター! 」
カサルに手鏡を持って化粧を教えて貰いながらガッツポーズをとるゾーイ。
彼女は十五とかそこら辺の少女だが、マリエやリヒャルトラインよりも逞しさで言えば、ピカ一だ。
「実験体ってなんの実験をされてたんだ? 」
「……」
「俺のコレクションから一つやるぞ」
「……」
「宝石のネックレスで───」
「異端核の適合実験を受けてたの。そこで成功した人は施設で育てられて、失敗作の私達はずっと実験の繰り返し……アソコ酷いところだったなー……ハッ!? 」
「なるほどそんな辛い過去が……」
エルドラゴからの献上品で手に入った金貨十枚の高級品をゾーイの首に巻いてやると、ガッツポーズをとるゾーイ。やはり彼女は逞しかった。
「異端核の適合実験か……合法なものがある以上どこかで非合法なものもあるとは思っていたが……。あの娘たちの反応を見るに貴族がやっているのか? 」
「わかんない。でもこわいんだ」
話すゾーイの肩が震えているのを見て、カサルはそれ以上深入りすることをやめた。もし本当に貴族の中でそんなことをしているものがいるならば、それは貴族の恥さらしであり、シラク―ザ王国の歴史に泥を塗る大罪人である。
異端核は努力するものにこそ相応しい道具であり、強制されて生み出されるものではない。そして何より、選ばれた魔女や魔法使いの誇りを軽視するそのやり方が気に食わなかった。
(恥さらしは粛清せねば……俺達の血統まで薄汚れたものになる)
カサルは速やかに枢機卿の地位を利用して、教会に情報を探らせる手紙を送った。襤褸切れを着せられた少女達を見れば、間違った方法で適合実験が行われているのは間違いないからだ。
仮にカサルと同じ方法で適合実験をしようとしているならば、彼女達の顔はふっくらとして、化粧をされていなければおかしい。それが痩せこけて、栄養失調一歩手前という連中である時点で話しにならない。万死に値する悪行である。
「どうやら、次にやることは決まったようだな」
「また何か作るの? 」
ゾーイが不思議そうに訊くが、カサルは首を振った。
「いいや。今度はダイヤの原石を磨く」
そう言ってカサルは腕まくりし、メイク道具を手にもって宣言する。
「望む奴らは全員俺が魔女にしてやる」
貴族の汚名を濯ぐカサルの新たな戦いが始まった。
さっそく彼女達が保護されている航空船に飛び移り診察を開始した。
「ひっ……!? 」
「動くな。……まずは『検体』のチェックだ」
カサルは少女の頬を両手で包み込み、至近距離でジロジロと観察し、ぷにぷにと指で弾力を確かめる。
端から見れば、美少年が少女を口説いている(あるいはセクハラしている)ようにしか見えない光景だ。
「ふむ……骨格に問題アリだが、まあ改造し甲斐のある顔だな。合格」
「あ、あの……?」
石化している少女。目の前で顔を覗き込む男に恐怖し、精神を手放しているようにも見えた。
そしてその背後から、近づく影が一つ。
「……ねえ、カサルちゃん?」
振り返ると、腕を組むマリエが立っていた。
「問診中だ。後にしてくれ」
「やめて上げて欲しいなぁ」
迸る闇のオーラで、カサルは思わず手を止める。
「怒っているのか? 」
「なんでそう思うの? 」
「普段より二オクターブ声が低い。それに君は普段表情は適当に作っているが、今日は珍しく困り眉だ。どうやら相当場違いなことをしてしまったらしいな。───驚かせてすまなかった」
カサルは立ち上がると、涙目になっている少女に謝るとハンカチを差し出す。
しかし少女は石になったままカサルのハンカチは受け取らず、航空船の奥へと転がっていった。
「あのね。ココには男の人が苦手な子もいるんだよ。だからカサルちゃんはまだ来ちゃダメ。ごめんね? 」
マリエにそう言われ、自分も女性に抱き着かれるのに生理的嫌悪感を抱くカサルは、納得顔で手を引いた。彼も似た境遇を持つ人間の一人だったからだ。
「一応聞いておくが、俺が男に見えるのか? 」
そう見えないように仕掛けた細工が見抜かれているということは、知らずに自分の技術の衰えを気づかされるようなもの。彼は懐から取り出した手鏡で確認を取りながら、不安げに自分に施した化粧の綻びを探す。
「んー。わかる子にはわかるのかも?……それにもう、悲しい思いはさせたくないから……」
手鏡から視線を上げた彼の瞳に映ったのは物憂げなマリエの眼差し。
それに降参したカサルは素直に計画を練り直すことに決めた。
「ふむ……お節介だったらしいな。詫びにあとで菓子でも置いといてやろう。何がいいか訊いておけ」
カサルは踏み込み過ぎたことを理解し、元の航空船に戻った。
艦橋の上でドレスの裾を持ち上げ足を組み直すと、椅子の背もたれに座り一息つく。
「あの娘は触れてはならんのか……よし。ならば二~三か月は菓子で餌付けし、経過観察を続けるとしよう」
それからというもの、カサルは真剣な顔で各領地の特産スイーツのチラシを吟味し始めた。
「ふむ……栄養失調にはこれがいいだろう。『マムシの肉』か精力増強に効く『竜の生き血』か……」
そして同じく艦橋の中でチラシを見ていたゾーイが、彼の呟きに反応し、ドン引きした顔でツッコミを入れる。
「……カサルちゃん。それあげたら、あの子たち泡吹いて死んじゃうよ?」
「栄養価は高い。コレがベストな選択だ」
「普通のクッキーにしときなって! ……はぁ、前途多難だなぁ」
第二章開幕。
第二章は成長をテーマに、空賊団がエルドラゴのお金で大きくなっていく様を書きます。
船の乗組員も増えたり?航空船も少し変わったり?
成り上がり成分多めの予定です。
リアクションされると喜びます。
それではまた、次のお話でお会いしましょう。(´・ω・)ノシ




