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ゴスロリ貧乏貴族は天才発明家(男の娘)!? ~働きたくないので魔道具を作ったら、いつの間にか国家経済を支配していました~  作者: 星島新吾
第一章:黄金郷編

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おバカ貴族と風の靴

煙が充満する鉄板焼き専門店。


 カサルはナイフとフォークを使い分け、器用にホルモンを口に運んでいた。店主がジロジロとこちらを見てくるので、軽く親指を立てて応えると、店主は安堵した顔で更に追加の皿を焼き始める。


 隣の席をちらりと見やると、そこに座るのはベテランの風格を醸し出す炭鉱夫の老人だった。彼の靴は履き潰されボロボロだが、手入れが行き届いているのが分かる。


(ちょうどいい)


 カサルはグラスの水を飲み干すと、隣で食事をする老人に、靴のテストをしてくれないか助力を頼んだ。


「風の靴? ワシには普通の靴に見えるがね」


「一見普通の靴だが、少し魔法がかかっている。もし感触が良ければ教えて欲しい」


 食事を済ませた二人は、店先へ出た。店主や他の客が観客となる中、老人は試着を開始する。ボロボロの靴を脱ぎ捨て、年季の入った足を『風の靴』に入れた。


「どうだ、感触は?」


「ふむ……」


 老人は靴を履いて店の前を数歩うろつき、次に自分の重いリュックサックを背負い、また歩いた。


「何か不具合でも?」


「ああ。……こいつは、ワシら炭鉱夫をダメにする」


 老人は苦笑いを浮かべた。


「楽すぎるんだよ。こんなに足が軽けりゃ、俺たちゃ一日中休まず働かされちまう。限界ってのは、ある意味『救い』なんだ。それを伸ばすようなことはしないでくれ」


「限界が、救い……?」


「そうさ。足が痛くなるから仕事を止める。ワシらはそれをはかりにして仕事をしてるんだ。体が一番の資本だからな。だが……この靴はそのバランスを崩しちまう。最初の三日は良いかも知れんが、その後は足の疲労と体全体の疲労のつり合いが取れなくなって、いつかポックリ逝っちまうだろうさ」


 老人は『風の靴』を脱ぐと、今度は別の若い炭鉱夫がそれを履いて試した。その機能性に、集まった全員が驚嘆の声を上げた。


「おお! こいつはすげえや! 足から風が吹いてくるみてえだ! まるで休日の朝に散歩してるみてえな爽快感だあ!」


「荷物も軽いぞ!」


 ざわめきと共に炭鉱夫が集まり始め、テストは大きな賑わいとなり、店の前はちょっとした騒ぎとなった。


「お前たち、何をしている!」


 そこへ駆けつけた衛兵にカサルはいち早く気づくと、口元を「へ」の字に曲げ、素早く路地裏へ身を隠した。


(テストはまだ終わっていないというのに)


 しかし、図らずも耳に入った炭鉱夫たちの声の中でも、カサルは老人の言葉を一番重く受け止めていた。


(体のバランスを崩す靴か……。金を稼ぐのに余裕のない人間に力を与えたら、限界を超えて働いてしまうというのは盲点だったな。仕事が早く終われば、その分早く切り上げて余暇を作れるかと思ったが……。優れた道具が、必ずしもそこで働く人間の幸福に直結するとは限らんということか)


 あの『風の靴』は失敗作だ――そう判断し、カサルは開発を打ち切ることにした。もっと別の方法で、肉体の延長線ではないアプローチで鉱山夫を楽にさせる方法があるはずだ。


 カサルにとって、解決すべき新たな「面白い問題」が立ちはだかった瞬間だった。


 衛兵が一人一人取り調べを行い始めたので、彼は仕方なく『風の靴』をその場に放置すると、そのまま航空船へと逃げるように夜空の向こうへ消えていった。そして、この「遺失物」が、彼にとって大きな運命を引き連れてくることになるとは、カサルもまだ知る由もなかった。




 翌日。

 今度はマリエたち三人と共に、カサルはエルドラゴの観光へやってきていた。カサルは事前に決めたスケジュール通りに三人を先導し、ルートを指さしながら歩く。


「まずはマリエの見たがっていた新鮮市場に行く。次にゾーイの宝石市場、最後にリリの骨董店だ。皆、いいな?」


 三人は頷いて新鮮市場から買い物を始める。飲食店などは、鉱夫が帰ってくる夜に営業する店が多いため、朝はその仕込みのために食料を買い集める料理人たちで市場は賑わいを見せていた。


 なるべく長期保存の利くジャガイモや玉ねぎを調達しながら、特産品にも目を向けるマリエ。


「カサルちゃん、好き嫌いはある?」


「……味の薄い食事。あとは、えんどう豆のスープだ」


 カサルはきまり悪そうに告げた。ヴェズィラーザム領では死んでも口にしなかった本音が、マリエの前では自然と漏れる。しかし彼女はそれを聞くと、市場でえんどう豆が大量に入った袋を迷いなく手に取った。


「マリエ?」


「どうしたのカサルちゃん」


(オレ)が嫌いなのは『えんどう豆』のスープだぞ?」


「大丈夫。食べる時はなるべく煮てあげるから。味も濃い目でね」


「……そういう問題ではないのだが」


 乾燥した豆は栄養価が高く長期保存も利くため、マリエにとって買わない選択肢はなかったのだ。



 次に一行が訪れたのは、ゾーイが目を輝かせて走り回る宝石の卸売市場だった。エルドラゴの渓谷から採れたばかりの原石が、木箱に詰められてゴロゴロと並んでいる。


 宝石商が研磨技術を見越して原石をロット買いする中で、ゾーイは真っ先に研磨済みの完成品を手に取った。


「うひょー! これ高ーい!」


 ゾーイが選んだのは、白をベースに虹色に輝くオパール。エルドラゴの名産品だ。


「研磨済みの物でいいのか?」


「だって原石って、まだ誰にも価値が認められてないじゃん。私、そういう『不確かな石』に興味ないから」


 ゾーイが手に取るのは、すべて鑑定済みの高価なものばかり。カサルとは対極の価値観で動く彼女を、カサルは珍しそうに観察した。


「どんな石ころでも、高値がついたら欲しいのか?」


「分かんないけど、欲しいんじゃない? だって皆が欲しがるものなんでしょ? だったら多分いい物じゃん」


 カサルにとって「物」は機能や自己の美学に合致してこそ価値があるが、ゾーイにとっての価値は「社会的な交換価値」にある。彼女は物の本質以上に、その価値が衆目に認められていることを重視していた。


(……柔軟だな。(オレ)はそこまで、他人が決めた価値に賛同できない。やはり頭の固い男のようだ)


 カサルなりの客観的な自己評価だった。考えを改めるつもりはないが、自分より年下の少女がこれほど芯を持って生きている現実に、カサルは苦笑した。


 宝石市を見て回る中で、リヒャルトラインが足を止めてカサルの肩をツンツンと人差し指で突いた。


「リリ? どうかしたのか」


「あれ……カサル君が昨日作ったと言っていた『風の靴』では?」


「んん……? どれどれ……」


 見れば、木箱の上に置かれた『風の靴』に値札が貼られていた。


「確かに……(オレ)の作った靴が売られているな」


 驚いたことに、高級な革靴と大差ない値段がついている。販売元らしき小汚い男が、声を高らかに叫んでいた。


「さあさあ見てらっしゃい! あっしが心血注いで作り上げた魔法の靴だ!」


 嘘八百を並べる男を見て、カサルは「面白い」と呟き、その様子をしばらく眺めることにした。男は浮浪者のような風体ながら、活力だけは一人前の商人のようだ。しかし、道行く人々は彼の言葉を信用せず、素通りしていく。


(説得力がないな。魔法使いのようなローブでも着ていれば、また話も違っただろうに)


 男は業を煮やして自ら靴を履いて実演してみせたが、やはり客はすぐに離れていく。


「面白いショーも潮時か」


 カサルが去ろうとした、その時。男とカサルの目が偶然合った。販売人の男は、昨夜の特徴的な「美少女」を思い出したのか、カサルを見るなり目を見開いた。


「あ゛! アンタ……!」


 男の視線につられて、民衆の目がカサルに集まる。その瞬間、男は狡猾な笑みを浮かべた。


「そう、この靴のモデルになったのが、そこにいる麗しいお嬢さんなんでさぁ! 彼女も愛用している『風の靴』、どうだい!」


「お、おいお前……」


 男の機転により、民衆の興味は靴の性能よりも、カサルという美しい「広告塔」に釘付けになった。

「いくらだ?」「お嬢さんが履いてるのと同じなのか?」「それ欲しい!」


 次々に名乗りが上がり、客たちはカサルという「ブランド」を見て、靴の値段を吊り上げ始めた。


「皆さん、買い物をする時はどんな時も『保証』が欲しいようですね。特に美しい保証人がいるなら猶更です」


 リヒャルトラインの冷静な分析に、マリエとゾーイもつられて笑う。カサルは唖然としたが、自分という広告塔がどれほどの価値を生むのかというデータに興味を抱き、そのまま茶番を見守った。


 そうして競売が熱を帯び始めた、その時。


「──その競売、少し待ってもらおうか」


 凛とした声が響き、群衆を二つに割るようにレッドカーペットが敷かれた。その上を、一人の長身の女が歩いてくる。


 輝くブロンドは竜巻のように天へ向かって巻かれ、様々な貴金属がその「塔」を支えている。侯爵家の家紋が金糸銀糸で縫い込まれた白いロングパンツ。全身で領地の富を体現するような、豪奢で悪趣味な装いの貴族令嬢。


 彼女こそ、この街を支配するシソーラ侯爵令嬢、エディス・シソーラその人だった。


「不審な男が盗品を競売にかけていると通報があった。……貴様、行商許可証は持っているのか?」


 エディスが扇子で指し示すと、控えていた近衛兵たちが即座に男を取り囲んだ。男は悲鳴を上げ、あっという間に連行されていく。


「……ふん、ドブネズミの臭いがすると思ったが、やはり紛れ込んでいたか」


 エディスは一瞥して吐き捨てると、次の標的――目立つ姿の美少年へと向き直った。ガツンガツンと高いヒールを鳴らしてカサルの前に立ちはだかり、体をクの字に曲げてその顔を覗き込む。


「お前……やはり生きていたか」


「よぉ。息災か、ミス・エディス」


「カサル……フフフ。残念だ。残念で仕方ないが、やはり運命の赤い糸というのは、首輪のように頑丈にできているらしいな」


 エディスがシルクの手袋越しにカサルの首根っこを掴んで持ち上げた。まるで借りてきた猫のように軽々と持ち上げられたカサルは、宙ぶらりんのまま苦笑いを返す。この女の膂力りょりょくは相変わらず人間離れしていた。


「貴女は誰?」


 マリエの問いに、エディスはカサルを一度地面に降ろし、マリエと視線を合わせるように大股でしゃがみ込んだ。


「私はここの貴族令嬢だ。お前は逃亡中のマリエ・リーベだな。手配書の写真とそっくりだぞ」


 ピクリ、とマリエの眉が動く。


「カサルちゃんがお友達って言ってた人?」


「……まあ、友達でもあるが――」


 エディスは扇子を開き、事も無げに爆弾を投下した。


「元許嫁だ」


 五歳の時に結ばれた婚約は、あのお茶会事件の後に白紙となった。今はただの「古い知人」に過ぎない。まさかこんな最悪のタイミングで暴露されるとは思わず、カサルは沈黙を保った。

 だが、マリエの首がギギギと機械のように回転し、ハイライトの消えた瞳がカサルを射抜く。


「……カサルちゃん?」


「ん?」


「『ん?』じゃないね。本当なの?」


「まあ……そういう時期もあった」


 普段の適当な表情が消え、マリエが本気の不機嫌顔を晒す。一触即発の空気を割るように、エディスが言い放った。


「カサル、たっぷり話しを聞かせてもらうぞ。邸まで来い。構わんな?」


「選択肢などないだろう」


「ククク……当然だ。……それとマリエ・リーベ。お前にも山ほど聞きたいことがある。衛兵、彼女を捕らえなさい!」


 エディスが手を振り上げた瞬間――。


 ゾーイの肩に、マリエとリヒャルトラインが手を置いた。


「カサルちゃん、また後でお迎えに行くから」


 マリエが囁いた刹那。ゾーイがパチンと指を鳴らすと、三人の姿は市場から忽然と消滅した。

 ゾーイの魔法――『転移』。あらゆる場所へ一瞬で移動する、脱出に特化した力だった。


「……ちっ、逃げ足の速い奴らだ」


 驚く衛兵たちを余所に、エディスは逃げようとしていたカサルを再び摘み上げた。


「貴様は逃がさんぞ。カサル、たっぷりと聞かせてもらおうか」


「……むぅ。仕方あるまい」


備考:

シソーラ侯爵令嬢は2m8㎝。


リアクションされると喜びます。

それではまた、次のお話でお会いしましょう。(´・ω・)ノシ

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