おバカ貴族の視察
普段書いている重たい話の息抜きにこっちを書いています。
ゆる~い炭酸抜きコーラみたいなお話です。
これはかつて神童と呼ばれた少年が、全てを捨てて愚者となることを選んだ喜劇の序章である。
早朝の日差しが差し込む中、貧乏貴族の御曹司、カサル・ヴェズィラーザムは机に突っ伏していた。
「カサル様!今は休息の時間ではありませんぞ!ウゥ……しっくしっく……貴方様がかつて神童と呼ばれたあの日から、もう随分と月日が流れてしまわれました……いい加減あんぽんたんから元の偉大な貴方様に戻っては頂けませんか」
隣では御曹司カサルの教育係を務める男の高い声が響き渡る。
「ウルさい、なぜ誕生日の朝に我は机で勉強などしておるのだ。パーティーはどうした。水着のギャルはどうした。この部屋で勉強していれば用意ができるのではなかったか。とりあえず朝ごはんを食わせろ」
カサルはそうわがままを言った直後、彼の脳裏にかつての「神童」だった頃の記憶がフラッシュバックした。
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”高貴なる者の務めを忘れてはならないよ”と言った父の振る舞い。
”最年少の魔法使いだ!歴史的偉業だ!”という周囲の歓喜。
”貴方は偉大な魔法使いにならなければならないのよ”という母の言葉。
”どうして兄さんだけ……”という弟の痩せこけた姿。
”人間は平等ではない”という師匠の教え。
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カサルは頭を押さえて、しばらくその頭痛に耐えると、扉の向こう側から自分の影武者を盛大に祝う人々の拍手喝采が聞こえてきた。
カサルはそれで今日で十八歳の誕生日を迎えたことを知った。
「殆ど学園にも通わず遊び惚けておられる貴方様の身を案じ、旦那様がご決断なされたのです。コレを気に心を入れ替え、この国の繁栄を主導する貴族としての振る舞いを……お茶会事件前の貴方に戻って下さればそれで良いのです」
涙ながらに語る教育係の下手な演技にも飽き飽きしていたカサルは、愉快そうに含み笑いを後から被せた。
「フフフッ………お前、名前は何と言ったかな」
「バドでございます」
「おお、そうか。バドよ。お前にはもっと素晴らしい主に仕えられるよう我が父上に進言しておいてやる。俺には勿体ない教育係だ。今日までご苦労だった」
カサルは滑るような筆捌きで一筆したためると、手を叩いて執事を呼びつけた。
「コレをパーティーで忙しい父上に。我は朝ごはんを街に食べに出ると伝えておけ」
「かしこまりました」
カサルは金髪の髪を掻き上げると、椅子と体を縛り付けていたロープを鋭い風の刃で切断した。
「な、なりませんカサル様! いくら低級の魔法しか使えないと言っても、そのようなことに魔法を使っては! 魔法は神聖なモノなのですよ! 」
「戯け、魔法は道具だ。崇めるものではないと知れ」
革のブーツの紐をきつく縛ると、ゴシックなドレスを翻して体の柔軟を手早く済ませる。そしてふりふりのドレスの裾から手鏡を出すと、今日も可愛いベビーフェイスを確認。笑顔が朝日に照らされてキラキラと輝いていた。
「ヨシ、今日は肌のノリがいい感じだな。テンション上がるぜ」
「カサル様!? 」
慌てふためく教育係のバドを置いて、カサルは手を小さく振って別れの挨拶をした。
「───それではバドよ、ご機嫌よう。またどこかで会えたら会おう。まあその前に、せいぜい父上に首を飛ばされぬよう今度は上手く演じてみせることだ。フッッハッハッハッハッハッ」
猫なで声で自らの教育係を慰撫した後に、カサルは哄笑を上げながら書斎の窓に足をかけ、そのまま風に乗って鳥のように飛んで行ってしまった。
「ビキニギャルとついでに馬鹿に効く薬でも調達してきてやろう! 」
そんな書き置きをいつの間にか残して。
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