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episode3 『濱田 誠』

♪〜♪〜


事務所に鳴り響くメロディ。

事務所のソファに男が1人。

目を開けず手探りで携帯を探す。


「……んっ…と…」


テーブルに置いた携帯を必死に左手で

探すが見当たらない。


「……わっ!!」



ドンッ



「ってぇ〜」



男はソファから落ちて頭を軽く打つ。

打ったところを片手で抑えながら

携帯のアラームを切る。


「……あぁ」


男は1つ欠伸をして周りにある書類を

ぼーっと眺める。


すると、事務所のドアが開く。

入ってきたのはチャラい格好の若い男だった。


「…おはざまーすって、寝起きなんすか!誠さん」


「ん、はよ。ちーくんは相変わらず朝早いね〜」



濱田は煙草に火をつける。

ちーくんこと、渡 千紘(25)は、探偵事務所の秘書という名の世話役。チャラい見た目の割に根が真面目であり、3人兄弟の長男で家事がすごくできる。


それに対して、濱田誠(30)は、探偵事務所の探偵だ。しかし、彼は生活能力レベルが終わっている。

普段は、厳しい妹がいるため成り立っていたが、現在いない。面倒見る人がいないと仕事人間になり、その他がおざなりになるため、社長からの御達しで生活力神レベルの渡が相方のパートナーになった。


「誠さん。理世ちゃんのこと、遅くまで調べてたんですね…」


渡は散らばった書類を一つにまとめながら声をかける。

____濱田理世。


それは誠の実の妹であり、最近行方不明なった女性。

アルバイト帰りに誘拐された。

その犯人が中華系マフィアだということが分かったが

、それが黎蓮会か狼牙…なのか。もしかすると外部の新勢力の中華系マフィアかもしれない。

誠は少しでも早く妹を連れ戻すために中華系マフィアについて調べている。



「まぁな。早く見つけてやりてぇのに……クソっ」



濱田は吸っていた煙草の火を灰皿で消して、上着を手に取る。



「出かけるんですか?誠さん」


「もう一度、あたりを見て回ってくる」



渡は濱田をみて、焦るように声をかける。

それに対して、軽く返事をする濱田。



「ちょっと待ってください!誠…さ…あぁ行っちゃったよ。どうすんだよ…この山のような依頼書…」



渡はまた社長に怒られると頭を悩ませたのであった。



****


住み慣れた横浜の街。

濱田は散歩しながら調べた内容を頭で整理をする。

確かに昔から治安がお世辞にもいいとは言えないが、それでも黎蓮会が牛耳るようになってからはあまり気にならなかった。しかし、ここ近年やたら中華系マフィアと思われる誘拐・犯罪が増えてきている。


(黎蓮会か…。はたまた新しい組織なのか…今のところなんとも言えない…)



黎蓮会のアジトを調べようとしたが…そんな簡単にわかるはずもない。


「…あんまり使いたくねぇけど…あの人に連絡してみるか」



濱田はとある人に電話をかける。




「もしもし、江崎さんお久しぶりです。濱田です」


「おぉ、濱ちゃんじゃねぇか?どうした?お前から俺に連絡するなんざ珍しいなぁ」


出た男は低い声で嬉しそうに答える。

電話の相手は江崎 光雄。江崎財閥グループ代表にして裏の顔は非合法組織XCの首領である。

昔、濱田が江崎からの仕事を受けてから、濱田の性格を気に入り、時折酒を飲む仲となった。


「すいません。ちょっと…お願いがありまして…_____」


濱田は神妙な様子でお願いをする。


「なんだよ…改まって…。濱ちゃんもしかして今外か?」


江崎は濱田の様子から何かを察して濱田に尋ねる。



「え…まぁ、そうですね」


「なら、今日の夜10時にブライトっていうバーに来い」


「フッ、さすが江崎さん。わかりました。10時にブライトに行きます」


返事をして江崎は電話を切る。

今はまだ昼だ。

ちょっとぶらつこうと歩き始め、商店街に入ると

ふと、前方で小さな騒ぎに気づく。


「俺たちと遊ぼうぜ!!」


「楽しいことたくさん教えてあげるよ」


濱田は足を止める。声のする方を見ると

若い女が、男数人に囲まれて身動きできずにいた。

手を掴まれて必死に抵抗している。

しかし、叫べばいいものを女は時折口を動かすが、声は出ていない。



(…喋れないのか…。しっかし人目が多い…でも放っておけない)


彼は何も言わず、ゆっくりと女の方へ歩み寄る。


「…女が嫌がってんのに、良い大人が寄ってたかって恥ずかしくねぇのかよ」


「あん?何だテメェ」


絡んでいた男たちは、声のする方を向いた。

濱田は軽く体を入れ、女の前に立つ。

女は驚いた目を見開くも、目には恐怖の色が映っていた。


「俺はただの通りすがりだよ」


「はっ!なら黙ってろよ!おっさん!」


男たちは濱田に殴りかかろうとする。

しかし、濱田は得意の合気道で相手を倒す。



「他に俺とやりてぇっていうなら、俺は構わないけどどうする?」



絡んでた男たちは濱田の圧倒的な強さに、足早といなくなる。



「大丈夫か?…って喋れないんだったな」



濱田は後ろにいる女に声をかけるが、相手が喋れないことを思い出し、どうコミュニケーションを取るか悩む。その間に彼女は携帯を触る。


『助けてくださりありがとうございました。何とお礼をしたら良いのか…』


携帯から話される言葉に合わせて頭を下げる女。

携帯が代わりに話すのをみて安心と同時に感心する濱田。



「へぇ〜、それを使って会話するんだな。世の中便利になったなぁ〜。お礼はいいよ。俺が好きでやったことだから…ん?」



濱田は女と話しているといつの間にか黒のスーツを着た男たち数人に囲まれていた。


「你竟敢对我夫人出手,我绝不会原谅你。(奥様に手を出したお前を絶対許さない)」


(…中国語?この雰囲気…中国系マフィアか)


濱田は、不審に思った。

見るからに面の人間じゃない目つきと雰囲気。

日本のマフィアのようなバッジもないことからきっと中国系マフィアの構成員。

濱田からしたら接近できるのは願ったり叶ったり。

しかし、今は後ろに声が出ない女がいる。

濱田は困惑していると、マフィアと思われる男たちが襲い掛かってきた。


「……!!?」


悩んでいた濱田は反応が遅れてしまい、女を庇おうとするが夏華は片手で携帯を突き出す。



『这个人是我的恩人,如果伤害他,我不会原谅(この人は恩人です。傷つけたら許しません)』


男たちは立ち止まり、女の意思を汲んで手を引く。夏華は安心したように肩の力を抜き、濱田に小さく頭を下げる。


濱田は突然の中国語。

そして、明らかにマフィアらしい奴等に物怖じせず、命令する彼女に寝不足の頭には処理できず、呆気にとられていた。


彼女は濱田の方を振り向き、再度頭を下げる。


『うちのものが失礼いたしました』


「え…えっと…いや~別に…」


『ふふっ、助けていただき本当にありがとうございました。それでは』



女はそれだけで感謝を伝え、再びゆっくり歩き出す。

それに続くように黒スーツの男たちも歩いて行ってしまった。


頭の整理が追いつかない濱田は、寝不足の頭をフル回転させるがどうも整理つかないことにイラつきを抑えようとタバコを吸う始める。


「____一体…あの子は何者なんだ…?」


中国語を話せて、黒スーツの奴らに何かを伝え攻撃をやめさせた。

しかし、彼女からは裏の人間の匂いがしなかった。

でも黒スーツの奴らはきっと中国系マフィア。

しかも、彼女は『()()()()()が失礼しました』と言った。


「…ふぅ、中国系マフィアの関係者なのは間違いない…。あのお嬢さんには悪いが調べてみよう」


中国系マフィアについて近づきたい濱田に希望の光が差し込みそうになるが、

そこで濱田は重要なことに気づく。


「あのお嬢さんの名前...なんて言うんだ?あぁぁぁ、俺としたことがぁぁぁあああ」


濱田の絶望の叫びが商店街中に響き渡った。


*****


場面は変わり、濱田と別れた夏華は商店街を抜け、車に乗り込む。

助手席に座る護衛のリーダーに夏華は携帯を使い声をかける。



『别告诉我丈夫这件事(このことは夫には言わないで)』


ですが…


『如果向丈夫报告的话,你们肯定会受到惩罚吧(もし、夫に伝えたらあなたたちは罰せられるでしょう?)』


護衛の人は口を紡ぐ。

いくら罰が嫌でも、総帥の溺愛している奥方に危険があった。

それを伝えない方が罰は重くなる。

しかし、罰を好き好んで受けたいという者など誰もいない。


マフィアの血の掟に背く行動をすればどうなるかを皆が知っている。

どうしたものかと困る護衛一同。

その様子をみて夏華は再度文字を打ち込む。


『若事败,此次是我主动请求不随行护卫的。我会向丈夫说明是我的判断失误,请您放心。(もしバレたら、今回は私が護衛に同行しないよう頼んだの。夫には私の判断ミスだと説明しますので、ご安心ください)』


護衛のリーダーはため息を一つ。

総帥である凌雅は彼女の言うことにすべて従えという。

彼女がそういうなら受け入れないという考えは彼らにない。



「明白了,夫人。不过今后若再发生类似情况,您将无法自由活动,请务必注意。(承知いたしました、奥様。ただし今後同様の事態が発生した場合、ご自由に行動できなくなりますので、くれぐれもご注意ください。)」




『嗯。明白了。谢谢你。(えぇ。わかったわ。ありがとうございます)』



自由というのは、一人でどこかに行くことができなくなること。

しかし、夏華は知っていた。夫である黎・凌雅が常に自分に護衛という名の監視をつけていることを。

だから、自由なんて最初っからないに等しい。しかも、それは愛情からくるものではなく…父、李・泰然の娘として、形だけの夫婦ごっこということも。

日が暮れて夕日が海に沈むのを車から眺める。


(…どんな形でもいい。ただお兄ちゃんと少しでも長く一緒に入れれば…)



夏華の淡い願いを夕日に託した。




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