episode2 日常
夕方____
夏華は目を覚ましてあたりを見ると家に帰っていることに気が付く。
(お兄ちゃんと会って…たしか…車で送ってくれたんだっけ…)
冷蔵庫を開けるといろいろともらってきたものが仕舞われていた。申し訳ないと思いながらフッとダイニングテーブルを見ると凌雅からの置き手紙があった。
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夏へ
今日は疲れていそうだから軽めのスープを作ったから
お腹すいたら食べてな。
パンの量が多いから少し部下に配っちゃった。
クリームチーズの総菜パンもらっていくね
凌雅
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夏華はもう一度冷蔵庫を開けてパンを見ると
どれも夏華が食べられるものばかり。
【ありがとう…お兄ちゃん】
声は出ないが一人、感謝をする夏華。
(今日はお兄ちゃん、帰ってこないかな…)
スープを温めている間、置き手紙を寂しそうにみつめる夏華だった。
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場面は変わり、黎蓮会アジト__総帥の執務室
凌雅は激怒していた。
「す…すみま…せん…でした……黎さん」
叱られているのは、夏華の護衛をしていた人達。
凌雅は、容赦なく殴る。
「あのさ~、何度も言っているよね?夏は体が弱いって。なのに…あんな荷物を運ばせてさ?」
「す…すみません…、以前、お手伝いを…申し出たら、断れまして…」
殴られている部下ら必死の思いで弁明をするが、それを聞いて、黎は鼻で笑う。
「ハッ、夏は断るに決まってるでしょ…。俺たちに迷惑かけないようにずっと生きてきたんだから…。本人が自分でやるっていうならいいけど、今回のは限度ってもんがあるだろうがぁ!」
「…すんません!!グフォッ」
扉の外まで聞こえる暴行音と、悲鳴のような謝罪。
外で待機している部下たちは青白くして事が終わるのを待つ。
「…やっぱり、夏華様については黎さんの唯一の地雷だよな」
「あぁ、本当に…。でも俺も一瞬しか見たことないが、あんなに美しくてしかも心優しいと来たら、執心しちゃうなぁ」
「お前ら、死にたいのか?奥方様について話したらあいつ等みてぇになるぞ」
部下たちが夏華の話をしているとそれを静かに諫めた__男
凌雅の右腕 劉・雲嵐。
黎蓮会のトップを支える3大家紋の一つで、劉家は、古くからの黎家に遣える家で武力において、とてつもない影響力があり、忠誠心がより強い家紋である。
また、凌雅の幼馴染であり、凌雅と夏華を一番近くで見てきた人物だ。そんな彼の言葉を聞いて、おびえた部下は口を閉じる。
(まぁ、凌があそこまで夏華を特別視しているのも…、あの事件がきっかけだからな…。今の若い奴らは知らないことだ…。)
劉は2人の過去を知っている。
(それに夏華よりも凌雅の方が後悔している現状だしなぁ)
事件後、元々、抑えていた気持ちが爆発してちょっと間違えたら束縛になるレベルギリギリの過保護を発揮している。そして、もう一つの問題は…。
(その過保護に夏華が全く気付いていないということだ)
夏華の状況的にそういう認識にならないのも納得だが、それにしても鈍感すぎる。
兄妹のような関係のため凌が夏華を引っ張っていけばいいのに、過去のこともあり、ヘタレと溺愛のせいで夏華に強くもいけない。
黎夫婦事情を知っているため呆れる劉。
音は激しくなりそうな雰囲気を醸し出しているため、劉は止めるため中に入る。
「失礼します。黎さん」
中に入ると凌雅は、部下の一人の胸倉を掴み殴ろうとしていた。劉は冷静に凌雅に声をかける。
「これ以上されますと、万が一、なんらかの形で奥方様に伝わってしまいますと、奥方様がショックを受けてしまい、さらにお気持ちが離れていってしまいますよ」
「……」
その言葉に凌雅の動きが止まる。
彼のすべての行動は【愛する夏華のため】だ。
その想い人がこの事を聞いたとしたら、彼女は心を痛めてしまうだろう。
「…クソッ、もういい。いけ」
凌雅はイラつきながらも部下を部屋から出ていき、自身は乱暴にソファに腰掛ける。
劉は部下が全員出て行ったことを確認してから
気にせず、凌雅に報告する。
「最近、狼牙の様子が怪しくてな。日本のヤクザの中畑組と頻繁に密会しているらしい」
凌雅はスーッとマフィアのボスの顔へと変わる。
「あぁ、それはユナさんから聞いた。なんでも若い女をターゲットに誘拐して、上流階級様方に売り捌いてるってさ。本当金のためなら手段を選ばない奴らだ。あいつらのやり方は好きじゃないね」
「…あぁ。だがそれについて警察から協力要請が来ていたが…」
凌雅は被せるように冷たく答える。
「放っておけ」
黎蓮会は中国マフィアでありながら、横浜の裏社会を牛耳る組織だ。警察ではできないような汚い仕事を全て請負っている。そのため、警察は黎蓮会に逆らったりすることができない。
しかし、普段なら受けるような事案なのに彼は久しぶりに断った。雲嵐は、内心驚きながらも、理由を尋ねる。
「いいのか?警察から謝礼として膨大なお金が入るし、今回のを断れば、警察との関係にヒビが入りかねないぞ。本当にお断りしてもいいのか?」
凌雅は深いため息を一つしてから話し始める。
「…狼牙の奴らは今回のことで、逆に俺たちが動くことを望んでいる。抗争を起こして、うちの島を乗っ取るつもりだろう」
「だが、このままにするとさらに被害者が増え続けるぞ」
「わかっている。でも俺たちは正義のヒーローじゃない。それに、警察だって俺らが潰れて、警察と狼牙が手を組むってなるのをできるだけ避けたいはずだ。だから、俺たちはあくまでも傍観する」
劉は納得せずにはいられない。
あくまでも自分達はマフィア。
その事実は変わらない。
「わぁったよ。周にもそう伝えとく」
「よろしく」
雲嵐が部屋を出た後、凌雅はもう一度ソファに横になる。
「夏…」
その声は、静かに部屋に消えていく。
凌雅したこの決断が、彼を苦しめる事件になるとは、
この時は誰も知らなかった。
読んでくださり本当にありがとうございます。




