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お墓で人は死んでいない  作者: 月這山中


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20/20

番外編 君の黒髪


 まだみおりがウロに憑かれていた頃のこと。

「そういえば髪ってどうしてるの?」

 自分のポニーテールの先をつまんで瑠佳はたずねた。

 みおりはキョトンとして、そんなことをたずねてきた人間ははじめてだというように、戸惑いながら答える。

「切ってるよ。二週間にいっぺんくらい」

「でもウロがいるじゃん」

 ウロの祟りによって普通の人間はみおりに触れれば死ぬ。自分で切ってるとしてもショートカットはざんばらには見えない。自分で短く切るのは難しいのだ。瑠佳はチャレンジしたことがあるから知っていた。

「んー、それはー……」

 机に突っ伏して、みおりは面倒くさそうに笑った。

「教えてよぉ」

「じゃあ今日、放課後に来てよ」

 実際見たほうが早いから。みおりは頬杖をついて、窓から墓を眺める。

「わかった」

 自習ばかりの授業が終わって、瑠佳は鞄を抱えたままみおりについていった。

 

 墓所は静かだ。いつか泊まった時のように妖怪変化がうろついてるわけでもなく。

「ここでいっか」

 みおりは言うとひとつの墓の前に荷物と寝袋を置いて、手を合わせて、座った。

「いつも違う所で寝てるの?」

「うん、私は飽きっぽいからね」

 ぐうっと伸びをして、みおりは墓所を眺めはじめた。瑠佳も彼女の隣に座って、視線を遠くに向ける。

「誰か来る」

 黒い人影が近づいている。瑠佳は墓場泥棒を思い出して身構えたが、どうやら違うようだ。

 黒い法衣を纏った男だった。本来は黄色であるはずの袈裟すら黒い。艶のある色黒の肌は若く見えるが、目元のシワや落ち着いた態度は歳を重ねているようにも見える。男は不機嫌そうな顔で瑠佳を見やった。

「誰だ」

 こっちの台詞ですけど。瑠佳は言いそうになったがみおりが代わりに応じる。

「友達。ウロにはやられないから安心して」

「そのようだな」

「じゃ、よろしくお願いしまーす」

 みおりは男に背中を向けた。

 男はため息を吐いて、袈裟をはずすとみおりの首から下をすっぽり覆った。そしてハサミを取り出した。散髪に使う細長いものだ。

 男は膝立ちになってみおりの髪を切り始めた。

「誰?」

 結局瑠佳はたずねた。

 男の代わりにみおりが答える。頭が動きそうになったので、手のひらで戻される。

鑑刃(かんじん)さんだよ」

「へえ」

「なんかね、殺し屋なんだって」

 殺し屋。瑠佳は目を瞬かせて鑑刃を見た。

「余計なことを言うな」

「おっといけない」

 みおりは舌を出す。

 瑠佳はまじまじと鑑刃を観察する。たしかに眼光がするどい気がする。などと考えていると鑑刃はため息を吐いた。

「依頼が来る。それにできる範囲で応えているだけだ」

「へえ」

 瑠佳は気のない返事をした。

「私は髪の先までウロに憑かれてるからね、こうして呪いの道具として仕入れに来るのだ」

 くすくすと笑い、また頭が動いたので戻される。みおりは楽しそうだった。

「とんでもない破戒僧だ」

 瑠佳は正直な感想を述べた。

「僧侶ではない」

 あ、そうなんだ。瑠佳の勘違いだったようだ。

 それからしばらく、みおりの髪が整えられていくのを見ていた。

 ビョウ、とこの世ならざる獣の声がする。

 同時にカキン、と硬いものが打ち合わされる音。

 瑠佳が振り返ると、塔の上に妖怪がいた。虎のような模様で尻尾は蛇のうろこに覆われている。

 妖怪だなあ。と、のん気に瑠佳が思っていると襲ってきた。

 妖怪は鑑刃の首を狙って噛みつこうとした。しかし右手のハサミに顎を貫かれる。法衣の殺し屋は妖怪を見やりもせず引き裂いた。

 黒い血が瑠佳の制服を汚した。染みがシュウシュウと煙を上げて消えていく。ウロの祟りによって妖怪の痕跡は消えた。

「殺しちゃったんだ」

「いいや、この程度で鵺は死なない」

 鑑刃はつぶやく。ハサミに残った黒い跡を振り落とし、髪を切るのを再開する。

「妖怪にも格はある。鵺は特に行き来できる世界が多い。追い払っただけだ」

「世界っていくつもあるんですか?」

 初歩的な質問かな、と思いながら瑠佳はたずねる。

「位相の違う世界が重なっている。この世とあの世は重なり合っている。そういうことだ」

 鑑刃は相変わらず不機嫌そうな顔だが、叱ったりはせずに答えた。

 最後の一断ちが入って、鑑刃はみおりの髪をクシャクシャとはらった。掛けていた袈裟を巻き取って、切った髪の毛を落とさないように集める。袈裟ごと大きな鞄に詰めた。

「んー、スッキリした」

 みおりは両手を挙げて、伸びをした。

 鑑刃は立ち上がって、何も言わずさっさと立ち去っていく。

「じゃあねー」

 みおりは鑑刃に手を振った。瑠佳も釣られて手を振る。


 みおりがウロと分かれて、大学生になってから。

「髪、伸びたね」

 瑠佳が言うとみおりは肩にかかった襟足をつまんで、答えた。

「そうだね。そろそろ切るか」

「ロングも似合うと思うよ」

「でもお風呂とか面倒くさそうだしなあ」

 みおりは背もたれに背中を預けて、伸びをする。

「じゃあ一緒に行かない? おすすめのヘアサロンあるんだ」

 瑠佳は指を立てて提案した。

「うーん、パス」

 ずっこける。

「もうウロはいないんでしょ?」

「やっぱ慣れてる人がいいから。私のカリスマ美容師に頼むわ」

 みおりはスマートフォンを取り出して、どこかへメッセージを送る。


 翌日。大学のカフェ。

「ねえ、みおり」

「なに」

「目立ってるって」

 カフェのテーブルでみおりは髪を切らせていた。黒い袈裟ですっぽり首から下を覆って、ヘアサロンのように雑誌を読んでいる。

 髪を切っているのはやはり、鑑刃だった。相変わらず不機嫌そうだ。

「ウロの力はもうないけど、今度は縁起物になってるんだって。化け物に憑かれて生還した女の髪ってね」

「大学で切ることないじゃん」

「いつもは家に呼んでるんだけどね」

 それを聞いて瑠佳はショックだった。顔なじみとはいえ、そんな関係ではないとはいえ、男とふたりきりで部屋に……。

「みおりの浮気者」

 瑠佳は頬をふくらませる。

 みおりは視線だけでそんな瑠佳を見て、くすくすと笑った。頭が動いたので戻される。

「じゃあ今度は瑠佳が切ってよ。髪の毛あげるから」

 みおりは言った。

 瑠佳はキョトンとして、それから鑑刃を見て、すこしだけマウントを取る気持ちで視線だけで見下ろした。

「ふふーん」

 鑑刃は無視した。

 ビョウ、とこの世ならざる獣の声がする。

 テラスに鵺がいた。ガラスが三角形に切断される。散った破片を踏みながら鵺は蛇の尻尾を振った。学生たちは逃げていくが、何人かはスマートフォンで撮影を始めた

 鵺は鑑刃の首を引き裂こうとしたが、カキンと硬い音がして尻尾は弾かれた。ハサミで弾いたのだ。みおりの髪を切りながら。

 鑑刃はやはり鵺を見ようとしない。

 鵺が飛んだ。高い天井のライトに爪を食い込ませ、それから鑑刃の真上に落ちてくる。ビョウ、とまた鳴いた。

 鑑刃はため息を吐いた。

 ハサミを真上に投げた。みおりの髪が絡まった刃は鵺の額に突き刺さり、爆発した。赤い血が雨となって瑠佳たちに振り注いだ。

 瑠佳は一連の戦いを、ぽかんと見つめていた。

「今度は殺した」

 鑑刃はつぶやく。

「ウロに憑かれていた頃より強力だ」

 鑑刃は口の端をあげて、微笑んでいるように見えた。

「そりゃどうも。別にうれしくないけどね」

 みおりが手のひらを上に向けて、言った。


 おわり

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