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お墓で人は死んでいない  作者: 月這山中


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第十二話 ドラキュラと日焼け止め


「血乃池城城主の浦戸貞守(うらどさだもり)は敵兵を槍に刺して城門に飾ったという。そのことから付いたあだ名が『串刺し大名』だ」

「へえ」

 パンフレットの解説をそらんじる黒井戸に、瑠佳は相槌を打った。

 瓦屋根と漆喰でできた城は荘厳な雰囲気を漂わせている。

「中学生の時に来たことがありますわ」

「ええ、よい思い出です」

 犬神と小埜寺が懐かしそうに目を細める。

 転校生の瑠佳だけが初めて来たようだ。

「ようこそご婦人方、我が血乃池城へ」

 甲冑を着込んだ女性が現れた。切れのある美貌の上にメイクで鼻筋を通している。

「公式コスプレイヤーだ。去年から宣伝活動をしている」

 黒井戸が説明した。観光客が囲んで撮影をはじめる。

「私の名は浦戸貞守。麗しきご婦人、ぜひとも我が城を探訪していただきたい……」

 犬神の顔に手が添えられる。頬が染まった。

「料金はチケット売り場の看板をご覧ください……」

「はい……浦戸様……」

 彼女はすっかり落とされてしまった。

「せっかくですし、天守閣に登りましょうか」

 小埜寺が提案する。

 犬神がブラックカードを取り出して四人分のチケット代を払った。『血乃池城の歴史』というパネルが貼られたスペースで料金を割り勘した。

「行きましょう」

 犬神と小埜寺はさっさと狭い階段を上がり、瑠佳と黒井戸は展示パネルを読んでいった。

 血乃池城の歴史は平安時代に遡り、浦戸氏も源氏武者の血筋だと言われている。

「戦国時代からのお城じゃないんだね」

 瑠佳は呟いた。

 城は幾度か潰れては再建を繰り返していて、近年になって建築基準法から内部を改装されている。残されていた建築図面が展示されていた。

 世界各地の歴史と対比した年表を読み飛ばしながら、瑠佳は黒井戸に話しかける。

「そういえば、思い出したんだけど」

「なんだ」

「烏鷺山高校のお墓って、外側のほうが古いんだね」

 黒井戸があごに手を当てる。

「そのことには気付いていた。だが、理由を書いた確かな資料がない。あるのは俗説だけだ」

「俗説って」

「ウロを封印するためにあの墓所は作られた」

 黒井戸は言った。瑠佳は彼を真似てあごに手を当てる。

「荒唐無稽だろう」

「いや、案外当たってるかも」

「また直感か」

 呆れた様子でため息をつき、黒井戸は階段へと向かった。

 二人は天守閣に到着する。

「あれっ」

 犬神と小埜寺の姿がなかった。階段ですれ違ったりはしていないのに。

「別の階段があるのかな」

「これだろ」

 黒井戸が指したのは身障者用のエレベーターだった。

「犬神が疲れただのと駄々をこねて、これで下へ降りたんだろ」

「そんなこと言うかなあ」

 お嬢様への偏見を隠さない黒井戸は、天守閣からの景色を撮影しはじめた。瑠佳も記念に一枚写真を撮った。

 天守閣から一階のお土産コーナーに降りる。

「居ないね」

 公式コスプレイヤーのブロマイドやアクリルスタンドが売られていた。あの状態の犬神なら食いつきそうなものだが。

「もう外にいるのかも知れない」

 城を出たが、黒井戸は二人を見つけることができなかった。

「瑠佳、犬神に連絡してくれ。……」

 黒井戸は振り返るが、瑠佳はそこにいなかった。


 瑠佳は闇の中にいた。

「どこ、ここ」

 両足が短い鎖で繋がれていて、うまく歩くことができない。両手も身体の前で繋がれている。

 ほかに分かるのは、冷たい床があることだけ。先の見えない闇は質量すら感じさせる。大きな頭が、視界の端に見えた気がした。

「麗しきご婦人……」

 声がした。女性の声だ。

「異界へようこそ」

 闇の中に浮かび上がったのは、地上で見た公式コスプレイヤーだった。切れのある美貌はメイクを落としている。

 微笑んだその口元に、鋭い牙が見えた。

「とりゃ!」

 瑠佳は両足で蹴りを放った。

「ぐぶっ」

 すねを蹴られて女性は倒れた。

 瑠佳は床を這って出口を探す。

「未成年略取は犯罪っ。っていうか、出口どこ?」

「麗しきご婦人、話を聴いてくれますか」

 うずくまったまま女性は言った。すぐに回復して立ち上がる。

「我が名は浦戸貞守、千五百歳の吸血鬼です」

 瑠佳は床に座った状態で首をかしげる。

「吸血鬼って、公式設定?」

「設定ではなく本人です」

「失礼ですけど、女性ですよね」

「女城主でした」

 それはともかく。と浦戸は自分の鼻筋に指を添える。

「あなたには我が魅了が効かないらしい。ならば率直に頼むだけ。血を分けていただきたい」

「嫌です」

 瑠佳は即答した。

「献血にご協力ください」

 言い方を変えられても瑠佳は嫌なものは嫌だった。しかし閃いて、拘束されたまま人差し指を立てる。

「じゃあ、交換条件で」

「パックジュースでしたらいくらでも」

「いや、この女の子に見覚えはない?」

 瑠佳はどうにかして上着のポケットから、みおりの写真を出した。貞守は受け取ってまじまじと見つめる。

「我が贄には居ないタイプです」

「探してるの。あの、私は烏鷺山高校から来ていて」

「烏鷺山高校……」

 貞守は震え上がった。

「なに、なに」

「もしや、この娘はウロに憑かれている……」

 貞守の手が写真を取り落とした。

 それを瑠佳は拾う。

「そうだけど、ウロを知ってるの」

「ああ、忌まわしき記憶だ」

 貞守は語りはじめた。

 

 貞守はかつての名をシイと言い、海岸沿いに住む豪族の家に生まれた。

 ある日、物陰に見慣れぬ船が流れ着いていた。割れた隙間から灰が落ちていて、気になったシイは船を持ち上げようとした。すると、シイの指を傷つけた。

 赤い血が灰に落ちた。

 瞬間、灰は牙を剥いてシイに噛みついた。

 その船は吸血鬼を海へ流すためのものだったのだ。

 不完全な復活を遂げた吸血鬼は朝日によって死滅したが、シイは吸血鬼になっていた。白い肌が日の光に焼かれる。シイは陰に隠れて生きることになった。

 その頃、飛鳥の推古天皇は……


「あの」

 瑠佳は手を挙げた。

「すみません、もうちょっと端折れますか」

 言われて、貞守は鼻筋に指を当てる。


 時は平安。

 シイは雪姫と名を改め、源氏の武者と婚姻した。

 大陸へ渡ったことがある高僧が来ていると聴き、雪姫は会ってみたいと所望した。返答はそっけないものだった。

「化け物を調伏するために、いかねばなりません」

 それを雪姫は面白いと思い、従者を引き連れて高僧の旅について行った。

 場所は何の変哲もない山だった。しかしその上に不吉な暗雲が立ち込めている。

 高僧と共に山麓へと辿り着いた雪姫は御簾越しに見てしまった。

 そこに立っていたのは幼い少女だったのだ。

「この者が、化け物なのか」

 従者を介してたずねた。

 高僧はうなずいた。

 少女は、不安そうに高僧と雪姫のいる籠を交互に見上げていた。


「ここから先は、とても恐ろしくて語ることはできない。我は人間の醜さを見てしまった」

「……」

 その先を瑠佳は知っている。

 ウロに憑かれた人間を生前に葬る(・・・・・)ことで調伏した。

 かつて黒井戸に言われた言葉を、瑠佳は反芻する。

「……いやがらせだ」

 貞守は妙なことを言った。

「はい?」

「少女に山菜のおひたしを食べさせ、固い干物を食べさせ、念仏を写経させ、ありとあらゆるいやがらせを行った」

「なんで?」

「我にもわからぬ。泣きわめく少女を我は見ている事しかできなかった」

 瑠佳は思案する。

「私が聴いたのは、高僧はウロに憑かれた人間を生前に葬ることで調伏した。というもの」

「我が見たのは、少女のもとに高僧は向かい、先ほどのような所業を行ったこと。それだけだ」

 話が食い違っている。

 貞守の話が真実であれば、生前葬が唯一の手段では、ない?

「交換条件はこれでいいだろうか」

 貞守が瑠佳の顔に手を添えた。考え事していたので、反応が遅れた。

「失礼」

 牙が首筋に突き立てられる。

 チーン、とベルが鳴って、壁の一部が開いた。

「大丈夫か!」

 エレベーターに乗っていたのは黒井戸だった。状況を見た瞬間、飛び出して貞守に蹴りを入れる。

「えげげ」

 美しい吸血鬼は床を転がる。

「エレベーターに細工がしてあった。異界行きの操作はチケット売り場の職員が知っていた」

 電灯がついて部屋が明るくなる。異界の正体は、城の地下倉庫だった。展示物の箱やイメージキャラクターの等身大パネルや着ぐるみなどが置かれている。

「む、むーっ」

「犬神さん」

 部屋の隅にお土産タオルをかまされた犬神と小埜寺が転がされていた。

「警察には連絡してある。吸血鬼・浦戸貞守、神妙にお縄につくんだな」

 黒井戸は宣言した。


 浦戸貞守と血乃池城の職員は逮捕された。

「ひとつ聴かせてくれ。なぜ、地下に居るとわかった」

 パトカーに乗り込む直前の貞守に、黒井戸は答えた。

「直感だ」

 貞守は、ふっ、と短く笑って、パトカーに乗り込んだ。

 夕日が空を赤く染めていた。


 ……余談だが、貞守は連続誘拐の罪に問われたものの刑期はかなり軽く済んだ。

 略取された者たちはすぐに解放していた上に、全員に魅了の効果が残っていたため不起訴になったのだ。

 本人も「千五百年の人生の中で五本の指に入るほど人間扱いされている」と喜び、刑務生活を模範囚としてエンジョイすることになる。差し入れに、UVカット製品と日焼け止めを貰いながら……


「絶対違うでしょ」

 瑠佳は黒井戸を膝で小突いた。

「……このアプリ、起動していただろ」

 黒井戸は自分のスマートフォンを見せた。口裂け女を追い込んだ時に使ったチャットアプリが表示されている。

 瑠佳の位置情報は黒井戸の現在地と重なっていた。

「あっ」

「電力を食うからやめといたほうがいいぞ。まあ、今回は功を奏したな」

 黒井戸はスマートフォンをしまう。

「そうだ、黒井戸。私、貞守からウロの退治方法聴いちゃったかも」

「話は後だ。今は病院へ行け」

「え、別に、どこも痛くないけど」

 瑠佳は何かを投げ渡された。日焼け止めだ。

「吸血鬼になってるかも知れないだろ」

 黒井戸の目は真剣だった。


「ちょっとよろしいでしょうか」

 二人に声をかける者がいた。警察の関係者かと瑠佳は思ったが、少年が着ていたのはどこかの学校の制服だった。

「あなたたち、烏鷺山高校の人ですね」



 つづく


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