第六話『夢みずき、眠れる桃神の囁き!? 禁断の果実の記憶、今ふたたび!』
桃楼宮の夜は、どこまでも静かで甘く香る。
だがその夜──葵は、夢を見た。
いや、それは夢ではなかった。
――薄桃色の大地。
――果てしなく広がる桃の木々。
――空に浮かぶ、ひときわ大きな“黒い桃”。
そして、誰かが……泣いていた。
「……まもなく、世界は……くさり……崩れ……」
(誰か……誰かいる……?)
「……“継承者”……きみ、が……わたし、を……」
(なに……この声……!)
そのとき、桃色の花びらが一斉に逆流するように舞い上がった。
光が砕け、世界が反転する。
そして、葵の中に“何か”が──入り込んだ。
――ズゥゥゥゥゥゥゥン……!!
「……ぅああああああああっ!!」
葵は跳ね起きた。
額に冷や汗。呼吸が荒い。心臓が、痛いほどに脈打っていた。
「……葵様っ! ご無事ですの!?」
駆けつけた清水白桃姫の目には、不安が浮かんでいた。
「ご気分がすぐれぬようでしたので、わたくし……結界を張っておりましたのに……まさか、“夢みずき”の記憶が動いたのですか!?」
「……夢、じゃない……。誰かが、俺の中に……入って……」
そのときだった。
「ふふふ……気づいたのね、わたしの存在に」
葵の耳元に、囁くような声。
「桃界の始まりにして終わり。すべての果実の母なる力──
それが“わたし”、《夢みずき》よ」
葵の瞳が、かすかに淡く輝いた。
瞬間、清水白桃が一歩引いた。
「……まさか、“桃神憑依”が始まっているのですの……!?」
♦ 桃神憑依とは
かつて存在した“桃の神霊”たちの魂が、継承者に一時的に宿る現象。
中でも最も危険とされているのが、《夢みずき》──
桃界を創造した始祖の魂であり、その記憶には桃界の真実と崩壊の鍵が封じられている。
「……ふふ、思い出したくない? でもあなたの中で、わたしは目覚めたのよ」
「……っ、頭が……!」
「いいえ、あなたは今から“見る”の。
桃界が滅びかけた、かつての……“果実戦争”を」
ズズズ……!!
空間がひずみ、葵の意識が再び異界へと引きずり込まれていく──
──そこにいたのは、
荒れ果てた桃界。枯れた果樹。散った姫たちの残像。
「このままでは、また……繰り返す。
だから“わたし”は、きみを選んだの」
♦ 一方そのころ…
「お、おい! なんか葵の部屋、めっちゃピンクの風が漏れてんだけど!?」
「これは……夢みずき様の気配!? ついに継承が……!」
川中島白桃、なつっこ姫、黄貴妃姫、さくら白桃、
各姫たちが緊急集合。
「こりゃあ放っておけないな。いっちょ、オレらの“桃魂”、見せてやるか!」
「ふふ、なつっこ魂は、火の中でも甘いのよ〜っ!!」
「……うるさいわね、あの子はまだ“わらわの”継承者なのよ……」
各姫たちが葵の部屋に突入したとき――
そこには、光と闇に包まれた葵が浮かび、瞳は完全に《夢みずき》そのものに……!
「――我は、始まりにして終わり……。
愛なき世界に、果実は実らぬ……」
次回予告!!
第七話『禁断の記憶と“桃界の裏歴史”!? 葵、覚醒と同時に消える!?』
桃界の謎がついに暴かれる! 葵は誰で、夢みずきとは何なのか!?
……そして“黒い桃の王”の影が忍び寄る──!!