第二話『川中島白桃、川からドンブラ登場!? 葵、桃の戦士にされかける』
「……ふぅ」
とりあえず、落ち着いて状況を整理したい。そう思った葵は、ふかふかの桃色草の上に座り込んでいた。
空は桃色。空気も桃色。香りも……なんかずっと桃。
目の前では、白くしっとりとしたドレスをまとった一人の少女が、雅に扇子を仰いでいる。
「……あの。改めて聞いてもいい?」
「ええ、なんなりと」
「き、君……いや、あなたは誰?」
「ふふふ。改めまして──」
少女は、扇子でそっと口元を隠し、にこりと微笑んだ。
「わたくしは清水白桃。桃の王国が誇る十二姫のひとりでございます。
清流に育ち、朝露を味方に持つ“香霊の姫”。清き甘さは、心も身体も癒やしますのよ?」
どこか浮世離れした、透き通るような声。
その微笑みは、まるで高級和菓子のように上品で、どこか人を溶かす甘さがある。
髪は白に近い淡桃色で、陽に透けるとほのかな金がきらめく。
瞳は瑞々しいピンクシャンパンのようで、じっと見つめられると、なぜか胸が苦しくなる。
その仕草の一つひとつが、まるで百年前の宮廷画から抜け出してきたようで……
「ちょっと清楚すぎない!? いや、ありがたいんだけど!!」
「まあ♪」
葵のツッコミに、姫はくすりと笑い、扇子で口元を隠す。
……たぶん、これが彼女の“普通”なのだ。すごい。
「さて──ではそろそろ、“出会いの儀”と参りましょう」
「であいのぎ?」
「桃魂を継ぎし者と、最初の桃姫が行う儀式。
心を通わせ、世界に“選ばれし者”であることを示す、大事な儀式です」
「まって、心の準備が──って、うわああああ!?」
突如、遠くの川から――
どんぶらこっこーーーーーん!!!
ゴゴゴゴゴ……!!
川を割って、巨大な桃が流れてきた。
「でっっっっっっか!!! いやこれ絶対桃ちゃうやん!! 建物やん!!」
その桃の裂け目から、ぬぅっと顔を出したのは……
「――っしゃぁあああああ! ただいま到着!!!」
豪快に水しぶきを跳ね飛ばし、桃の中から筋肉モリモリ、短髪の少女が飛び出した。
「川中島白桃だァ!! 桃王国の突撃砲台、参上っ!!!」
がっしりした肩に、褐色の肌。背負った斧は桃の木でできているらしく、刃の部分に“ももも斬”の文字。
「おいしそ~なやつが来たって聞いて、清水姫より先に迎えに来ようと思ったんだが〜! 先越されたかー!」
「そなた、礼儀がなっておりませんわよ?」
「うっす、姫〜! 今日もキレイっすね! 拝んどきますっ!」
ぺこぺこっ!!
そう言って、川中島白桃は勢いよく地面に手をついて土下座……したかと思えば、
「ってことで、そこの兄ちゃん!! オレの戦士になれ!!」
「えっ!!??」
「いきなりっ!?!?」
「いや〜、だって姫じゃ戦えないでしょ? この子、魔力の香りスゲーし。
夢みずきの魂なんだろ? なら鍛えればすぐ“桃斬刀”を使える!」
「ま、待って!? なんで戦う前提!? おれ、まだ世界がなんなのかも……!」
「よぉし! 今から特訓だ! 桃で叩き起こしてやるぜェッ!!」
「だから落ち着けってばあああああ!!」
パラ・ペーシアの風が、今日も香り高く吹き抜けていく──
こうして葵の【戦う気ゼロの異世界桃姫生活】が、少しずつ、とろけていくのであった。
次回予告
「なつっこ姫、バーベキューで参戦!? 桃魂試練の食材バトル!」
果たして葵は“桃の戦士”になってしまうのか!?




