第2話 過去を振り返る。
なぜ、わたしだったのか。
それは妖精が王国に帰ってしまった今でもわからない。
ただその出会いは偶然のように見えて必然で、小学校の時から、からかわれた名前はこのためのものだったのだと今ならわかる。
ともかく、中学三年生を迎えようとしていた春休みのある日、母から頼まれたおつかいの帰りにわたしは道端に落ちていたぬいぐるみのようなものに手を伸ばした。
「ランボウにあつかうな、メル!」
ぬいぐるみがしゃべったと、腰を抜かしたあの衝撃は忘れない。
頭を掴み上げただけなのに、それはじたばたと暴れだしてわたしに暴言を吐いたのだ。
「な、なにこれぇっ」
わたしは恐怖のあまり後ずさった。
当たり前だ。道端に落ちていたぬいぐるみが、途端流暢に話しはじめるのだから。しかし《《それ》》はわたしのひきつった表情に目もくれず、ぺらぺらと回る口を開いた。
とても長い話だったように思う。
母からおつかい用に渡されたお金の残りの金額で買ったアイスクリームが溶けてしまうと、途中からは舐めながら話を聞いていたからだ。今の自分であればさっさと帰宅していただろう。しかしあの時、人一倍以上の責任感と、おせっかいと、放っておけない自称姉御肌が悪い特徴だったわたしは律儀にも話の徹頭徹尾に耳を傾けてしまっていた。
妖精──メルメルの話は簡潔に言うならば、こうだった。
──出身の王国が危ない。
どうやらメルメルはその王国の騎士団長の一に値する存在らしく、とある魔法道具でその世界の人間を強化させて兵士として使うのだと。
なぜあの時、わたしはその話を聞いて目を輝かせてしまったのか、わからない。
とりあえず、メルメルはそんなわたしに魔法のコンパクトをちらつかせた。
「追手がこっちににもきてる、メル!」
危機の理由とは具体的に、敵国が王国を襲おうとしていて、その目当ては王国の存続に関与している『プリティキー』なのだという。
あっという間に中学三年生の乾燥を知らない手のひらに、カギが落とされた。
「コンパクトをこのかぎであける、メル!」
メルメルに言われた通り、コンパクトについたカギ穴にカギを差し込み、ぐるりと半回転。