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きっとどこかに

作者: 吉川明人

 よう、久しぶり。

 長い間、顔見なかったけど、出張でも行ってたのか?

 違う? 入院してたって?

 どうしたんだよ、健康を絵に描いたようなやつだったじゃないか。


 事故? そりゃあ、また災難だったな。

 ま、こうやって外に出られたってことは無事、退院できたってことだろ。

 知らなかったとは言え、遅ればせながら退院おめでとう。ツレ集めて退院祝いするか?

 それよりも事故をする前に、オレに借りてた金を返したい?


 そんなのあったっけ?

 いいよ。いくら貸したのかも覚えてないし、チャラで。

 入院してたんなら何かと物入りだろ、キツイよな三割負担って。

 おちおちカゼもひけないもんな。


 それより久しぶりに会って、退院したばかりで金返すなんて、実はお前は幽霊で思い残しを無くすために、ツレを1人ひとりまわってるなんてオチだけは止めてくれよ。

 ワハハハ、それは無いってか? そりゃあそんなに笑う幽霊なんているはずないか。


 それより、本当に金を返さなくてもいいのかって?

 しつこいな。だいたい、オレはいったいいくら貸してたんだ?

 24万円?

 ウソだろ、オレがそんなに金持ってるハズないだろ。


 1回じゃなく、何度も借りているうちに増えていった?

 ああ、それならそうかも知れないな。

 自慢じゃないが、オレはいつも金持ってないからな。

 まあ、いいじゃないか。急にそんな大金持ったところで、どうしていいか分からないし。


 どうしても受け取ってくれって? 返した後はどうしてくれてもいい、どこかに寄付してくれてもいいからって?

 あ、押しつけて行っちまいやがった。

 変なやつだな。まあ、いいけど。


 お、あいつは!

 よう! 珍しいところで会ったな。例の彼女とはどうなった?

 え、オレを探してた? 彼女のための買い物にオレから借りていた金を返したい?

 何だか今日は同じ話をよく聞くな。


 まあいい、お前にもいくら貸したのか覚えてないから、別に返さなくてもいいよ。

 どうしても受け取ってくれ? これまで借りていた全額67万円?

 オレそんなに貸してたのか。

 あっ!! 走って逃げて行きやがった。何なんだ。盆と正月が一緒に来たのか?




 今日はずいぶんと妙な日だった。

 行く先々で貸してた金を返されて、家に帰るころには400万円以上手にしてるじゃないか。

 さぞかし妻と娘は驚くだろう。


 意気揚々と家に入ると、妻がキッチンで呆然としていて、オレにどこに行っていたのか金切り声でわめき散らした。

 いったいどうしたのか、なだめて問いただすと、今日、公園で遊んでいた娘が突然倒れ、救急車で運ばれたが、診断の結果、何やら難しい名前の病気で手術をしなければ命の危険があるとのことだ。


 今は容態が安定したため、完全看護の病院で眠っているが、手術の費用に400万円はかかるらしい。

 妻が呆然となるのも無理はない。

 考えてみると金に無頓着な、幾つになっても子どもみたいなオレは稼いだ金をまともに家に入れた覚えがなかった。


 返された金を取り出して妻の前に並べると、目をむいて言葉を失う。

 オレが良からぬことをしたのではと思っているようなので、今日の出来事を話したら、半信半疑ながらも納得した。




 娘の手術は成功し、経過も順調で、まだ幼いため成長とともに手術の傷跡もほとんど目だたなくなるとのことだ。

 あれからオレもむやみに人に金を貸さなくなり、働いた金はちゃんと家に入れて、妻も楽になった……やっと人並みの生活になったと言ってくれている。


 奇跡とも思えるあの日のことは今でもよく夫婦の話題にあがるが、結局、本当のことは分かっていない。

 金を返したやつらに尋ねても要領を得た返事は1つもなかった。



 妻がふと、こんな事を言った。



「あの日って、クリスマスイブよね。ひょっとするとサンタクロースからのプレゼントだったのかもね」


 オレたちへのプレゼントか? と聞くと、サンタからのプレゼントは子どもだけと相場が決まってるでしょう、と笑った。


 オレは娘が大きくなったら、サンタは本当にいるんだと教えてやるつもりだ。


 子どもみたいだったオレに、こんな素晴らしいプレゼントをくれたやつがいないなんてこと、オレには信じられない。

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