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コンカフェの森のたぬきちゃん

作者: いぬよし

 かわいい森の仲間たちのなかで、可愛くないよね、たぬき。 

 いや、頑張れば可愛くなるのか?そうなのかもしれないけど。

 店長はお前の思うままに、可愛くしていいぞ。どうぞ、どうぞ、と言うけれど。店長は、あたしがあんまり化粧が上手くないの知ってる。それに、元がそんなに良くないし。だから、あたしが、美容系YouTuberの真似事して、涙袋描いて、アイライン引いて、目を大きく見せるために、目の上下にアイシャドウ付けるのを、やればやるほどたぬきになるな、と、ひいひい、喜んでいる。さすが、森のお笑い担当だ。さすがオレ、見る目あるな。オマエ、ほんとに根っからの笑かしたぬきだよなあ、とあたしに対してか、自分に対してか、妙に感心してたりする。なんか、おもしろくなーい。


 だいたい、衣装がさあ、たぬき、って。茶色って。丸い耳はいいよ。でも、腹の出てる衣装はちょっと。それに、長靴だよ。ブーツとかじゃなくて、長靴。そして、悲しいことにエプロンドレスじゃないの。紺色の前掛け。長靴と前掛けは店長譲れないんだって。本来なら絶対前面に出したかったたぬきの象徴であるおっきな股間のブツがでてないだけでも、感謝してほしいくらいだ。ほんとなら、それが一番のお笑いポイントだったのに、だって。


 都会に出て、バイトしながら、ようやく採用してもらったコンカフェの担当がたぬきなんて。うへー、だ。

 でも、辞めない。

 だって、あたしは買い物も映画もランチもデートもディナーも人生のここ一番が何でもかんでもイオンモールっていう田舎から、可愛い、可愛いコンカフェ嬢になりにきたんだもん。


 人気者になったりしたら。雑誌に取り上げられたりするかもしれないでしょ?そしたら、雑誌にモデルで出ませんか?、みたいになって。テレビにも呼ばれちゃって、アイドルに混ざったりするの。

 まあ、それは、夢やトップオブトップの話だけど。


 今はしがないたぬきだけどね。でも、たぬきでも、とにかくしがみついていなきゃ。

 田舎から出てきて都会に住んでるっていうのに、全国チェーンのイオンですらない、弱小スーパーの品出しバイトしているよりは、たぬきでもコンカフェ嬢でしょうよ。

 たぬきがんばってれば、ウサギさんとかコグマちゃんとかになれんじゃね。あたしは期待してるの。

 店長はそんなあたしの期待の眼差しなんか全然意にかえさず、たぬきー、とっとと客引きに行ってこい、ティッシュ配って、店に客連れて来い、って、蹴り飛ばす。ひっどーい。ふっとい尻尾がついててよかったわ。

 だいたい客引きって、禁止されてるんじゃないの?

 カゴにティッシュいれて、お店の宣伝っていう体なら、いいとか。でも、目的地は、お話しして、お店までお客様をご案内すること。

 でも、たぬきじゃダメだって。遠くから、きゃーおもしろーい、っていう男にぶら下がってるタマタマみたいな女達は発生するけど、あたしに、っていうか、たぬきに興味持つオトコはいねえよ。


 はあ。つっかれた。なんか、衣装、つうか、あたしのたぬきドレス、手足は出てるけど、ほぼ着ぐるみじゃん。暑いんだよ。重いし。ケツついて座りたいけど、そしたら、衣装が汚れるとかで、店長からクリーニング代とか取られる。ただでさえ大した時給もらってるわけじゃないのに、そんなのごめんだよ。だから、ティッシュの入ったちっこいスーパーのプラスティックのカゴみたいなのをぶら下げて、突っ立ってる。

 たまーに、店長のお気に入りのウサギ達とかくまちゃん達がほんとに店が暇でティッシュ配り兼客引きに外に出さられるときは、サボってるのをちくられないように、かわいい動物ちゃん達が待ってるだなも、って、あたしもティッシュ配りしてるよ。あ、だなも、ってさ、お店でたぬき役で話すときには語尾につけろって、店長が。

 なんなの、だなもって。

 もう、可愛くないスーパーのプラカゴもどきを手に下げて、ダナモダナモ言わされて、声かけられる人も何が面白いんだっつーの。

 あーあ、このカゴだって、うさぎちゃんなら、おリボン飾りの付いた可愛いバスケットなんだけどな。


 そんなわたし、たぬきにも、少しは運が向いてきたのよ。

 なんと、固定客がついたの。一人だけどねえ。でも、太客だよ。

 これには店長もびっくり。

 ちょっとキモ系だけどさ、別に付き合うわけでもないし。


 ねえ、飲み物頼んでいいだなも?って聞くといいっていうし、食べ物頼んでいい?っていうと、いいって言うし。

 見た目はいけてないけど、いい客でしょ?

 それに、あたしの友達の分も奢ってくれる。

 なんか、この、キモメガネが客になってくれてから、あたしに初めての友達ができたんだよねえ。

 この女は、タヌキじゃないんだけどさ、あたしに言わせりゃたぬきみたいなものよ。その他大勢。

 でも、お笑い担当ではないの。だから、あたしなんかには絶対太客なんかつかないって思ってたんでしょうに。ガッカリしたと思うよー。いい気味。もちろん、この女が、本当はあたしのこと友達だなんて全然、全く思ってないことなんてとっくのとうにお見通し。でも、あたしの友達だっていうとキモメガネからお金引っ張れるって思ってるから、あたし達仲良しー、友だちー、って、あたしにひっついてくるようになった。だから、あたしもこの女を羨ましがらせるためだけに、友達認定してる。この子、友達だから、一緒に飲み物注文していい?なんて、キモメガネに聞いちゃう。

 で、も、プレゼントは、あたしだけがもらえるようにしてるんだ。もちろんだよ。

 そんな時もこの友達女がいると盛り上がる、、わー、可愛い、って羨ましがってくれたり、あたしも欲しいって言ってたり。

 ほーんと、そうだよね、プレゼントって、マジスペシャルじゃん。あんただってすぐにプレゼント持ってきてくれる指名がきっと取れるよ。取れると思うだなも。あんた可愛いもん。いつまでも友達のヘルプなんかしてるのが不思議なくらいだなも。

 なあんて、心にもないことあること言っちゃう。もーう、優越感。


 それから、キモメガネの悪口言ったり、店内の一桁ナンバーの嬢の悪口言い合うのにもちょうどいい相手なんだ。前はあたしが下だったけど、今はあたしの方がちょっと上って関係も気持ちいい。


 結構、キモメガネ気前いいから、あたし、ちょっと調子にのっちゃった。あれが欲しいな、これが欲しいな、っておねだりしてきたけど、そろそろ行っちゃえー!って、超お高級ハイブランドバッグをお願いしたの。

 キモメガネ、へえー、たぬきはそんなたぬきなのに、そういうのが欲しいんだ、だって。

 たぬきなのに、って、なによ。

 こりゃ、ダメだな。

 なんて、思ってたら、なんと、、キモメガネ、持ってきてくれましたあ。

 全く、本当なら、こういうの、箱に入ったやつをさらにショッパーに入れて持ってくるものなのに。なんか、現物を、ほいって。しかも、中古。思わず、えー、新品じゃないのお、って、唇尖らせちゃった。そしたら、さ、アタシのトモダチが涎垂らしそうな顔で見てるじゃない。アタシがいらないって言ったら、じゃあもったいないから、って、窄めた唇が、もう、じゃあの、じゃ、を言いたがってる。ばーかばーか、オマエになんかあげるわけないだろ。

 しっかたないなあ。もらったげる。で、も、今度は違う色で新品持ってきてくれないと、許さないだなも。

 アタシはお友達に見せつけるみたいにバッグを持ち上げると、膝に置いた。

 やったー。中古ってのがイマイチだけど、自分では中古だって買えないもん。初めてのハイブランドバッグだよー。うっれしー。


 でも、キモメガネがあたしに新品のバッグを買ってくれることはなかった。

 キモメガネは、中古のハイブランドバッグをあたしにくれた後、ぶっつりと店に来なくなった。

 どうしたの?中古って言ったから怒ってるの?あたし毎日バッグ持ってるんだよ。不貞腐れないでお店に来てよ。

 LINE送っても既読無視。

 キモメガネさあ、そのバッグかったから、お金なくなったんじゃない?たった一人の指名が来なくなって残念だよねー、って、慰めてる口調がすっごく嬉しそうなのが腹立つわあ。

 キモメガネが来なくなったから、また、わたしはチビスーパーカゴを持たされて店の外に追い出されるし。

 キモくていいから、会いに来てよ、マジでそう思ったんだけどね。

 でも、もちろん、お店でだよ。お店であたしにお金を落とせってことだろがよ。

 なんで、うちにいるんだよ。

 なんで、あたしのアパートがバレてるの?

 あたし、出かけるとき鍵閉めたよね。

 叫ぶよ、そりゃ。

 知ってはいるけど、まさか、家の中にいるわけがないと思っている相手が自分家にいたら、そりゃ、普通ヒトはびっくりして叫ぶものだよ。そのあと、どうして、とか、そういう会話になっていくんじゃないに?少し落ち着いたり冷静になったりしてさ。

 なんで、その、次の段階を待つ前に、首を絞めにかかるかな。

 苦しいじゃん。

 苦しくてあたしジタバタしてるのに、全然力緩めないし。息が、酸素が、苦しい。放してよ。キモメガネの腕に爪を立ててもダメ。ダメどころか力が入らない。アンパンマンみたい。


 一瞬くだらないこと考えちゃたら、あたし、死んでたよ。

 死んでるね。

 死んだわ。

 もう、なんてことすんのよ。

 あたし、死んじゃったじゃない。

 だって、あたし、あたしのこと見てるもん。なんか、涙とか舌とか、オシッコとかうんことか出てるよ。ぐっちゃぐちゃ。

 死にたくないよ。死にたくはないけど、死ぬとして、こんな最期ある?あたし、まだ、20才になってないんだよ。ピチピチなのにぐっちゃぐちゃ。死体として全然美しくないよ。乙女なのに、この、ビジュはないわ。 

 できるなら、自分でなんとかしたい。

 でも、できない。

 なんとか、しろよ。

 おい、このクソキモメガネ、あたしの死体を綺麗にしろ。

 でも、寝やがった。なに、このヒト?なんで、あんなになったあたしをほっといて、ああ、疲れた、みたいに寝れるの?しかも人の部屋で。

 もう、勘弁してよ。

 あたしのスマホに触んないでよ。

 何チェックしてんだよ。

 あたしも読みたい。誰から?

LINEきてるの?どうすれば読めるの?近付いてみるかな?

 あ、無断欠席ね。

 心配してくれてる?

 やっぱ持つべきものは友達じゃーん。 

 あたしを見つけに来てよ、もう助からないとは思うけどさ、なんで思ってたら、後ろですっごく不穏な音がするんですけど。


 ひえ?え?いやー。やめてー。見るもんじゃないわ。でも、ちょっと見ちゃった。うげー。

 うげー、って、あれ、あたしのからだよね。

 あたしの身体だけど、もう、なんてことするのよ。あたしの身体に傷つけるなんて。傷どころじゃないよね。切ってたよね。


 あたし、死んでるのに怖いよ。なんであの男は、そんなことができるの?

 すごく血も流れるのに。

 切断だよ。切断。 

 なんで、あたしの頭と身体を切断するんだよ。

 怖いじゃない。

 あーあ。あたし、死んでるね。完璧に。だって、あんなことされて、うんともすんとも言わない。

 言わないけどさ、普通、切断する?

 あ、持ってかれちゃう。

 あんた、あたしの頭どうすんの?身体のとこに置いといてよ! 

 だって、見つけた人が怖いじゃない。


 持っていくなって。

 もう。あたし、なんでこの男を止められないの?あたしの声は、全然聞こえないの?

 ほら、見なよ。

 あんたが殺したあたしだよ。

 あんたがあたしの首を持ってったから、思わずあんたにくっついてきちゃったよ。

 あんたの殺した女の幽霊だよ。

 目撃して衝撃うけて気でも狂え。

 でも、キモメガネはボーリングのボールみたいに運ばれてるあたしの首に話しかけたりすることはあっても、この男の、周りをぐるぐるしているあたしには全く気が付かないでやんの。気がつけよ。

 

 たまにすれ違う人がギョッとした顔してるの、って、あれはあたしが見えてんのかな?

 そんな知らない奴が見えたところで役に立たないんだよ。


 キモオタ、変にあたしの、頭に執着するな。身体のとこに返せ。たとえ返しても、あたしはあたしを殺したあんたを、あたしの身体を二つに分けたあんたを絶対に許さないけどね。でも、嫌なんだよ。アンタがあたしの頭を待ってるのが。しかも、時間が経つに従って、気持ち悪くなっていくし。なんで、あんな気持ち悪くなってるなに、平気なのかね。


 あたしはとにかくあんたにつきまとってやる。あんたが絶対に絶対に幸せにならないように恨んでやる。

 でも、どうすればコイツは不幸になるの?

 コイツが人の中で生きていたら、あたしだってそれなりに努力して、コイツが不幸になるように立ち回るのに。

 なんでコイツはヒトから離れて世捨て人みないな暮らしをしてるの?あたしが何もしてないのにボロボロの見た目になってるの?

 ボロボロの格好で、骨だけになったあたしの頭に話しかけてるのって、どう言う感情?

 勝手に不幸にならないでよ。

 あたしがあんたを不幸にしたいのに。

 一瞬、一瞬だけ、川の水に映ったあんたの顔にアタシの顔が重なって映ったんだよ。あんたは気が付かないみたいだけど、その時、あんな、無意識に笑ったんだ。

 あたしに会えて嬉しい、みたいに。

 違う。

 そんなしみじみした感じじゃない。今度こそ捕まえてやろう、みたいな。

 キモメガネ、あんた、もう、恐怖でしかないよ。


 いつのまにかキモメガネは、あたしの頭蓋骨と一緒に河川敷のホームレスみたいな、暮らしを続けていた。あたしは、なるべくイヤな匂いになるように、とか、キモメガネの棲家にある食糧が早くいたむように、と働きかけたけど、そうなったとて、キモメガネが、何も気にしないって、どうなの。

 あたしの頭蓋骨にすりすりするな。気色わる。


 そしたら、ある時からキモメガネ、あたしが務めてたコンカフェあたりを真夜中に、うろつきはじめた。

 あたしのお化けが出るんだってさ。出ねえよ。だって、あたし、ずっとこのキモメガネにくっついてるんだよ。

 店長かな、店長か、あたしのコンカフェ友達が、面白おかしく広めたんしゃない?根も葉もない噂。だって、怪談って、面白いじゃない。

 知り合いが殺されたんだもんね。しかも猟奇的。惨殺。これは、幽霊でましたー、見ましたー、って、大声あげて人気者になりたくなっちゃうでしょ?

 店長なんて、まあ、時流に乗っかって森の動物カフェやめて、恨みを残して亡くなった恐怖のコンカフェにしてるかもね。ここに勤めてたうら若き美少女が変態男に殺された、って、実しやかに毎晩客寄せで話してるかも。

 流石に、話は盛るでしょ?お笑い担当のたぬきが殺された話にしちゃうと、誰も怖がらなくなっちゃうしね。

 あたしの死なんて、お金にしたいヒトにただ弄ばれるだけなんだ。

 そう言う意味では。この、クソ男は。自分で殺しておいたくせに、しつこくあたしに、会いたがる。会いたがってるわけではなくて、支配したがってるのか。

 なんだ。

 あたしは今まで、この男に張り付いて、この男の望むことをしていただけじゃん。

 バイバイ。

 ようやくあんたが一番嫌がることがわかった。あたし、アンタから離れるわ。

 そう思うだけで胸がすっとする。

 アタシの持ってる禍々しい気より、よく考えたら、この男の発する気の方が濁ってない?

 離れよ、離れよ。

 こんなオトコにまとわりついても、これ以上この男を不幸にすることなんてできないんじゃない?

 かえって、あたしが憑いてることが逆にこの男の支えになってたりして。そんなことない?でも、コイツのメンタルは、謎で鋼だから、結果嬉しがらせてたりしてない?

 それこそ本末転倒。

 キモメガネの思うままになってるじゃん。

 あたし、この男を不幸にすることに執着しすぎて、最近とか、自分が誰かすら忘れそうになってるし。

 こんなんじゃああたしの苦しみが終わらない。

 イヤだ。そんなの。

 あたしコイツから離れなきゃ。

 オマエは寂しく生きていけ。


 あ、光だ。

 

           終

 

 


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