八十六
「なんだ……?」
「おらぁ! 爺さん金出せ!」
おお、分かりやすい強盗さん四人が薬草店に押し入ってきた。だがそこまで殺気も感じないし、動きに無駄が多い。
多分、素人だろうな。そうあたりをつけ、それなら私はどう動こうかと思案する。
「おら早くしろ!」
店員のおじいさんに刃を向けて急かす強盗その一。このままだと一般人に危害が加わってしまう。
そう判断した私はその一の背後に音もなく近づき、いつも隠し持っているナイフをその一の首に回すように押し当てる。
「ねえ、その一……強盗は悪いことだって知らないの?」
「ひぃっ」
耳元で喋りながら、その一の殺気よりも濃い殺気を彼に浴びせると、もう怯えに怯えて当初の目的すら忘れたような雰囲気を纏いだした。
ふっ、これしきで怯えるくらいならこんなことやらなきゃいいのに。私はそう内心で笑いながら後ろを振り返る。
ああ、その二以降はカプリコーン達に捕らえられていたらしい。皆地に伏せ縄でグルグル巻きにされている最中だった。その縄、どこから取り出したんだろう、だなんて今関係ないことに頭が働く。
「さて、未遂だとしてもその二以降が物壊したりなんだりしたんだ。充分罪になるだろうね?」
「ひぃ」
「お……お前らは……何もんだ……?」
その三がそう聞く。はて、それを私達に聞いてどうなるというのか……?
「アタシたちはね、通りすがりの市民よー」
「そうそう。俺達はちょっとばかし腕っ節の強い、ただの市民ね」
「名乗るほどもない程度の、ですわね」
涼しい顔をしてそう言い放つスコーピオたち。どんな華麗な沈め方をしたかは見えなかったが、ただの市民ではないことはばれているのだろう。それでも身分は明かさない方向で行くらしい。
「さて、あとは警備隊の人に明け渡して……」
カプリコーンがそう言って店の外を見回す。
「あ、いたいた! ねえ、強盗を捕まえたから引き取って欲しいんだけどー」
「ああ、分かっ……こ、これは! 申し訳ありません! 今すぐそうさせていただきます!」
ああ、多分あの人は十二星座の顔を覚えているんだろうなあ……。そんな警備隊の人の随分かしこまった物言いに、強盗さんたちは戦々恐々とした顔を浮かべる。ああ、なんとなく察せられたらしいね。
顔を真っ青にしながら引き渡されていく強盗さんたちに内心合掌し──だって相手が悪すぎたんだもの。自分たちの運のなさを恨みなさいな──その様をぼんやりと見つめるのだった。




