八十五 カプリコーン
「マロン、あなた……食事にこの臭いを感じていたって言うのは本当なのかしら?」
「え、うん。まあね……」
「そう……」
アクエリアスはそれだけを言って黙り込む。その様子に痺れを切らしたのはマロンではなく俺だった。
「ねえ、その薬草がどうしたっていうんだい?」
問い詰めるような言い方になってしまったのは申し訳ないが、それでも、これは詳しく聞いておかないといけないような気がしたのだ。
「これは毒消し薬を作る際に必要な薬草なの。でもね……」
ふっと顔を暗くするアクエリアス。その言葉の次が知りたいのだ、と今度はスコーピオに顔を向ける。アクエリアスに報告したのは彼女だ。ということは彼女も事情を知っているはずだと踏んで。
「……マロン、体に支障はないかしら?」
「え? ぜんぜん。すごく元気だよ?」
「そう……リアス、ワタシから話してもいいかしら?」
「……」
神妙そうにゆっくり頷いたアクエリアス。それを確認したスコーピオは重く口を開く。
「その薬草は元々毒がある、いわば毒草。それを然るべき手順で毒を抜いてから毒消し薬としてようやく使えるようになるの。」
「へえ……」
なんとなくそのあとの展開が読めてきた気がする。
「毒の有無は臭いで判別出来る。ね? ここまで言えばわかるわよね?」
マロンは食事からその臭いを感じた。ということは、その食事には……
そこまで考え至り、サァっと血の気が引いた。
確かに俺らくらいになると、耐性をつけるためにアクエリアスが食事に死なない程度の毒を混ぜることはある。しかしマロンは一般人だ。毒の耐性をつける理由がない。
「……ねえ、やっぱりマロンの元居た場所の領主ってやつを調べるべきじゃない? だって一般人にそんな酷いことするなんておかしいよ。」
「あ……だ、駄目……」
マロンがされた仕打ちに対して罪を償ってもらおう、そう俺が提案すると、マロンがサッと顔を青ざめさせ提案を拒否した。
「もしかして……脅されている?」
「……」
何も言わず下を向くマロン。その態度は肯定を示している、と言っているようなものだよ。
内心でそう呟いたが、勿論マロンに聞こえるわけもなく。さてどうしたものか、と思案しているとアクエリアスが口を開いた。
「マロン、言いたくないなら今は聞かないわ。でもね、これは貴女を心配して言っている、ということは分かって頂戴。」
「……」
彼女の言葉を聞いてゆっくり頷くマロン。ひとまずアクエリアスの言葉は届いたみたいだと安堵しながら、俺はこの空気を変えるために明るい声を意識して出す。
「……さ、今日はお出かけを楽しむんでしょう? 次はどこに行」
ドォン……
その時、俺の言葉を遮るように轟音が辺り一面に鳴り響いた。




