八十一
朝食も終え、出かける準備をする。と言ってもいつも着ている簡素なシャツとズボンしか持っていないから、服装で困ることもなく。
さらに特に何か買うこともしないだろうとお金も持たず──元々一文なしだろうというツッコミは聞かないフリ──、結局手ぶらで待ち合わせ場所である城の入り口に到着した。
「準備も何もなかったから一番乗りだー」
まあ、待ち合わせの時間はあと三十分くらいはあったような。そんな取り止めのないことを考えて時間を潰す。
街はどんな景色なのだろう。城での勉強期間が終わったら私はどうなるのだろう。一人でいるのつまらないな、早く誰か来ないかな。
取り止めのないことを考えているはずが、だんだんマイナス思考に落ちていく。あの時のように自分の目に暗い闇が広がっていく様を自覚する。
「お、君は……噂の?」
「え、」
そんな時まさか十二星座の皆以外の人から話しかけられるとは思わず、間抜けな声が出た。
「おー、本当に眼帯してる〜」
どこかカプリコーンのようなお調子者感というか、いかにも笑い上戸感というか、陽気そうな人だった。でもこの人私知らない。
「俺、は……通りすがりのモブAとかだと思ってさ、ちょっとお喋りに付き合ってよ! 俺、今暇でさ!」
「は、はあ……」
ちょっとこの異様に高いテンションについて行けず、曖昧な音しか声にならなかった。
良くは分からないけど、Aさんということで……いいのかな? 彼は明るい茶髪を楽しそうに揺らし、緑色の目をキラキラと輝かせていた。
「で、マロン、ちゃん?」
「あ、はい。……あれ、名前教えましたっけ。」
「ああ、それは君がこの城で今一番話題に登る人だからだよ!」
バチコーンとウィンク……だっけか。片目をパチリと閉じて、まるで決め台詞のようにそう言った。
「噂、ですか……?」
私、勉強のおかげで敬語も随分流暢に話せるようになった。そのことに少しドキドキワクワクしながら次の言葉を待つ。
「そ! 君はなんか強いんだって〜? こんどおじさんとも手合わせ願いたいなぁ〜って思ってたと、こ、ろ!」
「あは、はは……そんな、まだまだ私は若輩者ですから……はは」
あ、カプリコーンとは違うタイプのお調子者だわ。意識を彼方に飛ばし、現実逃避しながら話半分でその人に答える。
だってこのテンション疲れるんだもの!
「謙遜しなくても良いんだゾ! 次代の十二星座は歴代最高と言われる程の戦力を持ってるって噂だし? その人達と対等に渡り合ってるって聞いたら気になるジャン?」
キャピッ! と可愛い子ぶってそう言う。あー、誰か助けてくれないかなー。この人と話してると体力がゴッソリ持っていかれる。だーれかー!
その声が届いたのか、我らがカプリコーン様が向こうから歩いてきた。あ、どうしよう。お調子者にお調子者をぶつけたら、もっと酷いことになりそ……
「マロン、遅くなってごめ……ポラリス様!」
陽気なおじちゃんに向かってカプリコーンは首を垂れる。ポラリス様って……え、もしかしてこのおじちゃんが世界のトップ!?
二重の意味で驚き、思考もストップしてしまったのも仕方なかろう。




