二十一
馬車の中の空気がしんと静まり返り、私はあたふたしてしまった。だって、ね。この世界ではなかなか無い状況下にある私を連れて行くことに皆が不満を持ったり嫌悪すると思って。ここまで来ておいてなんだが、馬車から降りた方が良いだろうか。
まあ、どんな状況になってもこの話題について詳しいことは絶対話さないけど。話した瞬間多分殺され……
そんな想像をしてゾッと背筋を凍らせる。
私、まだ死にたくない。だから隠し通さなければ。私が──だということは。
そう決意した辺りで、馬車が再びカッポカッポと進み出した。あれ、私、馬車に乗ったままで良いのかなぁ。リコはどんな事情があろうと目的地まで連れて行くとは言っていたけれども。それでも不安にはなる。
「ではまず俺様の自己紹介を聞くが良い! 俺様はリー! 気軽にリー様と呼んでくれても良いからな!」
リーと名乗った人は、先程リオと呼ばれていた人だろう。馬車という閉鎖的空間において、その声量はちとキツイ。耳がキーンとする。あと、ヴァーゴサンの拘束は解けたんだね。良かったね。
「せ、拙はルグ。」
おどおどした力持ちはルグと名乗った。
ふむ、二人とも先程呼び合っていたのとは違う名前を名乗る。特徴的なその名前を伏せたい人物なのだろうことは分かった。
あれ、それならもしかしてこの二人の仲間らしいリコ達も偽名……?
「あ、えと、マロン……デス?」
「よろしくな、マロン!」
「よ、よろしく。マロン、さん。」
「よろしく。あ、私敬語分からないからタメ口でもいい?」
「特別に許可しよう!」
「べ、別にどちらでも。」
「ありがとう。」
それだけはまず確認しなければ。良好な人間関係を築くのは大事だって聞いたことがあるし。うん。確かそんな風に言ってた気がする。あれ、違ったっけ?
「さて、じゃあ自己紹介も終わったところで……どこから話せば良いかな?」
「あらリコ、マロンに話してしまうの?」
「リアス、小生はリコに賛成です。」
「せ、拙も話した方が良いと思う。外に出ると拙達を知る人もいるから、話を合わせておいた方が……」
「ふむ! そういうことなら俺様も異論はないな!」
「じ、じゃああたくしも良いということにしておくわ。」
むむむ? もしかして謎だらけのこの人達のことを知れるチャンスなのでは? (私の存在が謎だという意見は聞かないふりをしようっと)
「分かった。満場一致だね。じゃあマロン、話しても良いかい?」
「うん。」
「ありがとう。ではまず俺達の正体……って言う程のものでもないけど、まあ、正体はね……」




