五 カプリコーン
ポラリスになり得る可能性がある人物を見つけた、とはパイシーズの言い分。その僅かな可能性を信じて、パイシーズとアクエリアスが泊まる宿へサジタリアスと共にやって来た。
部屋へと入ると、そこには……
短く切られた茶髪は所々ぴょんぴょん跳ねていて、背はサジタリアスくらいある少女がいた。女性にしては背が高いのだろう。しかしそれもひっくるめて可愛らしい人だった。
「あなたのお名前を教えてはいただけないだろうか。ああ、俺はリコだよ。よろしく。」
少女の前に傅き手を取る。周りからの評判がいい笑顔でそう聞くが、多分この少女は目を瞑っているので見えていないのだろう。全く頬を染める気配も無し。少し残念だ。
「私はマロン。」
「ああ、素敵な響きだ。」
声は少女としては低めなのか。そこもまた素敵だ。うっとりとその声に聞き酔いしれる。
「リコ、そろそろ離してやれ。」
サジタリアスにそう言われてしまったので、俺は渋々マロンさんから離れることにした。
「ジーも自己紹介したらどうだい?」
「ふん。……自分はジーだ。」
「あ、うん。よろしく……オネガイシマス? ジーサン?」
「爺さんはやめろ。」
まあ、仮の名前がジーだからね。さん付けしたらそうなるわな。どうしよう、じわじわと来る。駄目だ、笑っちゃ駄目だ。プクク……
駄目だ、これ以上笑ったらサジタリアスにぶん殴られる。それは嫌なので、笑いを堪える為にも話を変える。
「ま、マロンさん、言いにくいなら俺達にタメ口でも良いよ。」
「あ、それは……そうさせてもらう。ありがとう。」
「いいえ。」
「で、そろそろ本題に入ってもいいかしら?」
痺れを切らしたらしいアクエリアスはフーッと息を吐く。ああ、そういえばそうだった。
「サジ……ジーの服を貸して欲しい、だっけか。確かに背丈は合いそうだね?」
でも女性に男物を着せるのは……いいのだろうか? まあ、マロン本人が気にしないのなら良いけれど。
「まあ、同性だし背丈が合えば何とかなるでしょう?」
……あれ? アクエリアス、今なんて言ったんだ? マロンさんは少女だろう? それなのに……
もしかして、皆勘違いしているとか? 確かに背丈は女にしては高いし、声は低めだし、女性特有の丸みも無いし……
だが俺は分かる。男の格好をしている『女』である俺には。
「貸す程度なら別にどうでもいい。だが、こいつが本当に魔法を使えるのか?」
サジタリアスは訝しげだ。俺は魔法が使えないので詳しくは知らないが、魔法を使えるパイシーズとアクエリアスが魔法使いだと言うのだから信じても良いような気がするが……。
まあ、サジタリアスなりの考え、というのもあるのだろう。魔法が使えない俺は傍観することに決めた。