パイシーズ(うお)
小生とアクエリアスが音のした方をバッと振り向くと、
「……誰?」
殺気をこちらに放つ第三者が現れたらしいのです。高くも低くもない、心地良い声が暗闇から聞こえてきました。
アクエリアスが持っていた明かりで第三者を照らしてみますと、ぼんやりと顔が見えてきました。茶髪は短く切られ、目は閉じていると思われる程細い。そんな中性的な少年でした。
「……あなたたちは、私の敵?」
「いいえ。あたくし達は……ま、ままいまい」
迷子と言うのはアクエリアスのプライドが許さなかったのでしょう。それなら小生が言ってしまえば良いことですね。
「迷いました。小生らは迷子です。」
「……。」
小生がそう言ってもまだ警戒心を解かない第三者さん。さてどうすれば警戒を解いてくれるのでしょうか。うーん……難しいですね。
「私を殺す気は無い、って事で良いわけ?」
「もちろんです。」
随分物騒なことを言う方ですね。ワケありでしょうか。それなら詮索は無しですね。小生らもあまり言いふらせない秘密(十二星座であること)がありますから。
「……なら、森から出るのを手伝うから、私も一緒に森の外へ連れてってよ。」
「良いですよ。ね、リアス。」
「え、ええ。まあ。着いて来たいなら勝手に着いて来れば良いのではなくて?」
アクエリアスのいつもの返答に小生は思わず苦笑してしまいましたが、第三者さんは気にするわけでもなく淡々と話を進めました。これがあのスルースキルとかいうやつでしょうか。素晴らしいスキルをお持ちだ。
「……じゃあよろしく、リアスサン。と……」
「小生はシーズです。」
「そう、シーズサンね。」
「よろしくお願い致しますね。」
「ああうん。よろしくー。」
第三者さんはヘラっと笑いながら小生らによろしくと言ってくださいました。
小生らは普段、抜きん出た才能に怯えられることはあれど気軽に話しかけてくれる方はいません。あ、十二星座の皆さんは例外ですが。
まあ、そんなことがあって、この方の気軽さに嬉しさを感じてしまうのも必然というものでしょう。アクエリアスも同じように感じているらしかったです。ほんの少しだけ、頬が緩んでいます。
「ああ、そうでした。あなたのお名前を伺ってもよろしいでしょうか?」
この方、第三者さん、とずっと小生の頭の中で呼んでおりましたが、この方を名前で呼びたいと思います。そう思った小生は名前を伺いますが……
「名前……名前? 私の名前は……なんだっけ?」
第三者さんは首を傾げました。