二十二・二
一応血が床に落ちないように体育着の裾で頭を何度も拭いながら医務室へと歩く。
授業中ということもあり、シィンと静かな廊下。なんだろう、いつもは体験できないことにワクワクしている自分がいる。
「失礼しま〜す。」
ほら、ワクワクで声も上擦っちゃった。医務室の戸をガラガラと開けながら出た声に己自身がビックリしてしまったではないか。
「はーい、どうしたのか、しら……」
そして医務室にいた校医が私の浮かれた声に返事をしながらこちらを振り向いた。そして私の姿を見るなり顔色をサッと青く変えた。
「き、キャーーーー!?」
「うわっ!?」
まさか叫ばれるとは思わず、その声にビックリして後ずさった。
「ちょ、早く手当て手当て! そこ座って!」
あまりの剣幕に圧倒された私は指定された丸椅子に大人しく座り、バタバタと忙しなく動き回る校医をボーっと眺めるしかできなかった。
額の傷を消毒、その後ガーゼで覆われ、極めつけに包帯を巻かれた。
え、ここまでする?というくらい大げさな処置を受けたような気がするが、まあ、治療の専門家に口答えする権利はないので閉口する。
「もう、ここまで酷い怪我をして……一体何をしたらこんな傷ができるのかしら?」
「ええと、授業で……」
「まあ! 誰の授業かしら? 生徒にこんな怪我をさせたとなれば、ただじゃあ済まないから!」
このかすり傷に対して相当お冠らしい校医をどう宥めたものかと思案する。だってこれは私の不注意だったんだから。
「えーと、その……」
かくかくしかじか。己の不注意を前面に出した言い回しでことのあらましを伝えてみると、しかし校医はしかめっ面を隠しもせず私に見せ付けてきた。
「生徒同士なら加減ができなかったと言い訳もできるかもしれないけれども、先生相手でソレはさすがに言い訳もできないわね。」
「いや、でも、ちゃんと避けきれる一打だったのにソレができなかった私が……」
「はいはい、生徒が先生を庇わなくていいのよー」
私の話を聞いているんだか聞いていないんだか分からない返事をされ、全面的に先生の立場が悪くなりそうな雰囲気を感じ取ってしまった。
「でも……だって、厳しさだったら十二星座の皆の方が……」
──鬼畜。
その言葉は辛うじて口から出ないように気をつけたが、言外に口に出してしまったようなもの。ハッと口を噤んだが、校医はその発言でいろいろ察した顔をした。
「ああ、そう。あなたが噂の『十二星座のお気に入り』君ね。なるほど、確かに十二星座の皆様と日常的に手合わせをしていたら、それくらいの怪我も日常茶飯事、か……。でも厳重注意くらいはさせてもらうわよ。」
お、十二星座という言葉を出しただけで解決したなんてラッキー。そうそう、だから何も気にしなくていいんだよ。これは私の不注意なんだから。
一気に解決したことにフンフン、と鼻歌すら出てしまいそうになった。




