二十一・二
ガン、ガキン、と模擬戦用の剣がぶつかり合う音が響き渡る。剣一本の先生と、双剣の私。一見剣の本数的に私が有利と思いきや、全くそんなことはない。
十二星座の皆と手合わせをしている時のような緊迫感に、ツゥッと一筋の汗が顎を伝う。
「そういえば俺は次期カプリコーン様と同門でな。」
剣を振りかざしながらそう言葉を零す先生。あ、まさかの手合わせ中にお喋りですか? 先生、相当余裕ですね?? そう困惑してしまうのも仕方ないと思う。
体力のない私なんてだんだんと防戦一方になり、返事をする余裕すらなくなってきているっていうのに。
力の差を見せ付けられたようで、先生の剣を受け止めながらギリッと歯噛みする。
「っ、」
「お前さんは少し、その時の……つまり、訓練生の時のカプリコーン様と似ている。」
一際重い剣が降り注ぎ、間一髪で右によける。しかしあまりの勢いにピッと左頬から血が飛んだ。まあ、それを気にしている場合ではない。
「カプリコーン様はいつも顔色一つ変えず鍛錬に明け暮れるばかり。他のことに全くを向けない。それにあの時の誰よりも力と技術もあれど、己が一番弱いと思い込んでいた。だから、相手の方が幾度となく怪我をさせられたというものだ。」
色々言われたが、後半のことなんて耳に入らなかった。だって、さぁ……
あの笑い上戸のカプリコーンが顔色を変えない、だなんてこと、信じられるわけないじゃないか。
何かあれば笑う、何もなくても笑う、箸が転がるだけで笑う。そんなカプリコーンが顔色を変えないなんて、俄には信じ難い。
そんな動揺に付け込まれるように、先生の剣が右側頭部に当たってしまった。模擬刀とはいえ、相当の力で当たれば怪我をするのも当たり前で。
「っ……!」
その衝撃にグラリとよろけてしまうが、なんとか倒れ込まずいられたからヨシとする。
「あ、悪い。寸止めにするつもりが。」
「っ、いえ。避けきれなかった私が悪いので。ありがとうございました。」
頭からツーっと流れ出る赤を気にせず先生に一礼する。
「あ、ああ。」
そんな痛みに声をあげない私を気味悪がったらしい先生は、曖昧な返事をしていた。まあ、そんな深くもない傷一つに一喜一憂していては仕事にならなかったからな。何もおかしくはない。
……いや、普通でありたかったら『痛〜い!(裏声)』とか言った方が良かったのか?
「授業はもういいから、とにかく早く医務室に行け。誰か、付き添いを!」
「いえ、一人で大丈夫です。」
「だが……」
「ただのかすり傷程度ですし、それにほら、私に近づきたい人なんていないでしょう?」
そう言葉にすればグッと言い淀む先生。そうだよね、私のクラスでの立ち位置、知らないはずもないものね。
授業中でもハブられ、何なら幾度となく多数対一でボコボコにされそうになっていたものね。……まあ、返り討ちにしちゃうけど。
そんなくだらないことを考えながらも、私はとりあえず一人で医務室を目指して授業中の静かな校舎内をうろつくのだった。