十一・二
ガキン! バキッ! ドカッ!
速く重いリーブラの攻撃たち。それを私は命からがら受け流すしか出来なかった。つまり、私から攻撃することが一度も出来ていないのだ。
「あれ? マロンさん、受け流してばかりでは終わりませんよ?」
「くっ……!」
双剣でリーブラに一撃入れるにはある程度距離を縮めなければならないというのに、リーチの長い大鎌がそれを許してくれない。
というかあんな大きな武器をあんなに速く重く振り回せるって、どんな鍛錬を積めば良いんだ?
「考え事とは余裕ですねぇ。じゃあ、もう少し力を出しても……おっと、」
火事場の馬鹿力とでも言うのか、右手側の剣先から火魔法で火球を放つ。目眩し程度に考えていたそれは役割を果たし、リーブラに一瞬の隙が生まれた。そこを突くように左手側の剣を突き刺すように振りかぶる。
「わあ、今のはビックリしました〜」
が、ギリギリ避けられてしまう。いや、その発言を見るとまだ余裕あるよな、と乾いた笑いが口から漏れる。
「じゃあ、そろそろトーラスさんも戻ってくるでしょうし、決着をつけましょう!」
ニコリ、と殺気に見合わない笑顔を浮かべたリーブラは更に速く重い攻撃をぶつけてきた。うわ、天使みたいに可愛い顔なのに、その大鎌といい黒いローブのようなものといい、どこか死神を彷彿させる。ゾワリと悪寒が背中を走ったような気がした。
「……ハァ、ま、まいり、ました」
先程までの攻撃ですら受け流すのに四苦八苦していたんだ。更に速く重い攻撃に対処出来るはずが無かった。力で押し切られ、床に背中を付けた私の首に大鎌を当てられて、ついに降参してしまった。
少しは私も成長したと思っていたが、やはり十二星座は格が違う。鍛錬する相手としては最高だが、負ける悔しさは毎度変わらない。ぐぬぬ、と顔を顰めて次はどう勝つかを考える。
「マロンさん、筋は良いですねえ〜。でも経験値が浅い。それに時間と共に動きが遅くなる。体力はもっとつけないといけませんね!」
「うわあー、やっぱりそうだよねえー!」
床に寝転んだままゼエハアしながらリーブラの講評を聞く。皆から毎度言われている『体力をつけろ』。なかなか一朝一夕では身につかないと分かっていても気は急いてしまう。
前職暗殺者として私は優秀すぎるくらい優秀だったが故に、ターゲットすら気が付かない程素早く一撃できちんと殺してきた。だから誰かと長い時間戦ったことも無く、体力が程々だったとしても何ら支障なかったのだ。
まあ、それが言い訳になるかと言われたら『ノー』なのだが。だって喫緊で武術大会もあるし、なんか良く分からないがナガミーレにどんな面でも負けたくないと思ったから。
言い訳の一つでも思い浮かべるよりどうやったら強くなれるか、傲慢なナガミーレがポラリスになるのを阻止できるか、考えた方が有意義だろう。
「うがー、体力、体力! どうやったらつくんだ?」
「地道に頑張るしかありませんねー。」
私を見下ろしながらリーブラはそう言って笑った。その笑顔は鍛錬前に見せていた天使のような笑みだった。