糸を紡ぐ王【一頁完結型童話調・T書庫シリーズ】
__幕間
ここに一冊の本がある。タイトルは掠れてしまっている。
それは、私たちにとっては物語であるかも謎らしい。
しかし、コレが残されているという事は彼等は確かに存在していたのは確かだ。
そういう世界らしいからね。ココは。
さて、短いが少しばかり話に付き合って貰おうか。
弟よ。ココの書庫は蔵書がいっぱいで私はとてもわくわくしている。
どうせ少ししたら存在が曖昧になって私たちは消えてしまうらしいからね。
ちょっと位、盗み見たところで罰は当たらないだろう。
それではDr.Tの読み語りの始まり始まり。
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とあるところに王子様が居ました。
その王子様は、自分の事より恋バナが好きな王子でした。
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王子がそれに気付いたのは、五つの歳になる頃。兄の様に思っていた乳母の息子と妹の小指に糸が巻き付いていました。
生まれた妹ばっかり構う友達に構って欲しいと思ったらそれは現れました。
それはとても綺麗な色をしていて橙色の糸をしていました。王子はそれに魅入り、手に取ってしまいました。手に取ると糸はプツリと切れ、宙に消えてしまいました。
王子はその瞬間、全身が寒くなりました。取り返しの付かない事をしてしまったような。良く分からない感情が王子を襲いました。
次の日から友達は自分と遊んでくれるようになりました。最初はそれに喜んでいた王子でしたが妹に見向きもしなくなった友達に違和感、そして恐怖を覚えました。糸を切った事を思い出しました。あの行為が友達と妹との繋がりを切ったと、罪悪感に苛まれました。
王子は仲の良い二人の姿を、もう一度見たいと二人がなるべく会う様に計らいました。
一月が経ち、二月が経ち、王子はやっとそれを目にしました。薄っすらと繋がる人と人の橙色の糸、最初に見た時よりもそれは薄く、風に吹かれて切れてしまいそうな程、儚く見えました。
半年が経つと元の糸に戻りました。王子は糸を大事にしようと思いました。
一年が経つと糸の色が変わりました。橙色から薄いピンクのグラデーションに王子は心から綺麗だと思いました。
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王子は糸が色んな糸を見て過ごしました。赤、白、黄、橙、紫、様々な色の糸があります。
それは、どうやら人と人の関係性を可視化した状態だと成長した王子は理解しました。
明るい暖色系なら良い関係、暗い冷色系だと悪い関係、グラデーションはお互いに違う思いを抱いている様なのです。
王子は綺麗な糸を探しました。人と人との繋がりを、時には切れかかった糸を直すようにも動きました。
父である王様にも糸について相談しました。父は他の人には糸については言わない様に、話したいのなら自分が聞くと言われました。
王子は秘密を共有した父に綺麗な糸を報告し始めました。あの人とあの人はこんな糸をしている、そんな話は王妃の耳にも入りました。
王妃は暗い寒色の糸に興味を示しました。明るい綺麗な糸は父に、暗い糸は母に報告するようになりました。
ある日、父と母に妹の糸について聞かれました。王子は親友と妹の糸について言いました。今ではとても綺麗な赤い糸だと。
数日後、公爵家の長男である親友と妹の婚約が結ばれました。
王子はそれを聞いて複雑な気持ちになりました。妹に親友を取られた様な複雑な気持ちです。しかし、幼い頃の過ちを思い出し、その気持ちを捨て去りました。
父は王命による婚約を強攻していき、母は公務に勤しんで行った。
その後、父と母に働きかけて王子は親友と妹の子を養子にする条件の元、立太子しました。
父からは暖色系の糸を、母からは寒色系の糸について教わりました。
父は繋ぎ、母は切る。そういう役割分担をしていたようです。
王子は色が変わる事を知ってました。そして、新しい糸を紡ぐ事が出来るのも。
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王子は暗い糸を明るい糸に変える事にしました。15になり学園に入学した時、沢山の黒い糸で繋がれた二人の人に出会いました。王子はその時初めて黒色があると気付きました。その黒い糸は関係性を現しているモノでは無いようです。真っ黒な靄がかかったような糸、在学中に黒い糸を綺麗な糸に変える事に決めました。
両親には黒い糸の報告をし、手出し無用と言いました。王子は親友と妹と侍従を協力者に色が変わる様に動き始めました。どうやら二人の持っている石が原因までは分かりました。石には呪いがかけられていました。異性を魅了する呪いです。
王子は石を利用する事にしました。石を持つ二人を引き合わせると呪いの効果がお互いに作用したのか蜘蛛の糸の様に伸びていた黒い糸が縒り集まり二人を結ぶ一本の糸になりました。
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糸を切ったら無関心、暗い糸でも繋がれば色を変える事が出来ます。切れた糸を修復するのは大変ですが色を変える事は王子にとっては簡単です。
暗い黒い糸に少しばかりの朱を注していく、後はじわりじわりと時間で広がる。黒い靄は石のせい。時間を使って石の中身を薄めていく。
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あるところに恋バナの大好きな王様が居ました。
その王様は民の恋愛に口を出し、適切なアドバイスをして民の信頼を獲得しました。
王様は生涯独身を貫きました。王様は親友と妹の子に王位を譲り二人の侍従を連れて国を巡ったそうです。
__終幕
どうやら王子は糸を紡ぎ色を付ける事を生きがいとしたようだ。親友と妹への罪悪感か。私と同じようなシスコンか?いや、執着していたのは親友か?
タイトルを付けるなら糸を紡ぐ王子、いや糸を紡ぐ王かな。
彼は親友に友愛ではない色を紡いでいたのです。
妹への暗い糸、自分の糸は見えなくとも彼は確かに見えたのでしょう。
彼は女神となりました。
それでは皆様また次回。