愛しのリズくんに会う方法
黄金の国、レデュイールのシープ家の公爵令嬢に生まれ変わった私有香ことアーリ。推しの第三王子リズくんがいる世界線だとわかり興奮しているところをクラリスに見つかりベッドへ縫いつけられました。
「お嬢様、あ、ん、せ、い、に」
「うう……」
「どうしたのですか、まったく」
「いやだって! ……あっ、えっと、うんと」
「アーリお嬢様?」
「なんでもない……やめておくわ……」
十にもならない少女の体に三十路の精神が入り込みました、なんて正気の沙汰じゃない。はあ、と大きくため息をつくとクラリスが用意してくれたグラスを差し出してくれる。
「クラリスめはお嬢様のためにお話ししているのですよ」
「……わかっているわ。心配かけて、ごめんなさい」
「いえ、いいのです。お怪我がなく安心いたしました」
ほんとうの、ほんとうに心配したんですからね。クスッと笑って私を安心させるように微笑むクラリスに合わせて、私も彼女を見上げて口角の端を吊り上げる。
私のことをこんなに心配してくれるのは、クラリスが特別な侍女だからである。クラリスは私が選んだ側仕えの侍女だ。
「ねぇクラリス」
「はい」
「第三王子のエリザベス様を見ることってできる?」
「だいさん……王子ですか? 突然どうなさったのです?」
「さっき本で読んだの。私は関わることなんてないでしょうけど、見る機会くらいあるのかなぁって」
出来れば近寄ってその纏う空気全てを吸い込みたいがそんなこと出来やしないし出来たところで家柄に関わってくる。日本で天皇様を遠くから見る機会が庶民にあるんだから、もしかすると王子様だって見れることがあるんじゃないかという浅慮な考えから言葉が漏れた。
怪訝な顔、というか頭を打った少女が落ち着いたかと思ったらいきなり話し始める話題として適切で無さすぎる。ガラス越しに映る濡羽色の少女が口に出す内容ではなかったのかもしれないと取り繕う言葉を探そうと視線が揺れるが、クラリスは肩を下ろした。
「はあ、お嬢様ったら。興味のあることに一直線なんですから」
「あは、あはは」
この身体の主、アーリの記憶も私は所持しているため言われてみればと思い返せば色々出てくる。
蔵書の中で宝石の鑑定の仕方を学べばルーペを持ち出して家中の装飾品を観察したり、人の見え方は万人によって違うと知れば館内で働いているすべての従業員に声をかけて見えた色の感想を聞いたり、そして極め付けは馬は賢いと学んで親しくなって会話ができるかもしれないと乗馬を体験しようとした。まあ、落馬したわけであるが。
そんなこんなで、我が家ではわりと好奇心を尊重してくれている。だから私が少しおかしいことを口走っても「またか」の範囲に収まった。
「そうですね。アーリお嬢様が十歳の誕生日を迎えました時に魔力測定と性質判断があるかと思います」
「!」
そうだ、それで主人公はレアな光の魔法の素質があるために平民でありながら王家から聖女として迎えられるのだ。
「その時に才能有りと認められた場合のみ入学のできるレデュイール王立魔法学園であればお会いできるのではないでしょうか。既に第一王子のアーサー様、第二王子のジョージ様もご入学されています」
「そうなの!?」
「ええ。ですから、アーリお嬢様と同い年であらせられるエリザベス様も既に魔法の才が有らせられると有名ですからご入学なさると思います」
「なら私が魔法を使えれば!」
「……可能性があるかと思います。が、お嬢様」
「やったー!! 可能性があっ……ん? なあに?」
「シープ家は代々と、その、無魔力の家系で有らせられますので……」
クラリスの言葉が濁る。嘘でしょ。
「わっわっわ、私は魔法が使えないのー!?」
そうよね、黄金の国では魔法は必要ない。
題材として王家と民のどちらもを行き来しながら進んでいく物語であってファンタジーゴリゴリのお話は前作である。
え、もしかして他の手段なし?