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攫われたロゼッタ

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「ロゼッタが魔獣に攫われた!?」


「は、はい!申し訳ございません!」


リスとラヴァンドがデートから帰ると、なにやら難しい顔をしたソールが殺気立っていた。そこにロゼッタの姿がなかったのを見て嫌な予感を感じながらも二人はソールの目の前で土下座している使用人に話を聞く。殺気立っているソールに話しかける勇気はなかった。使用人によると、ロゼッタが庭でティータイムを楽しんでいた最中に突然現れた魔獣に攫われたと言う。この使用人は咄嗟のことでどうしようもなかったらしい。


「あー…んー…えー…マジかぁ…とりあえず、ソール。使用人さんをそんなに睨んでもどうしようもないよ。許してあげて」


「…ぁ。すまん、つい…。…お前は悪くない。すまなかったな…」


「い、いえ…」


先程まで使用人を睨みつけていたソールはリスの言葉にハッとして、使用人に手を差し伸べて立ち上がらせる。使用人はようやく体の震えが治った。と、同時に、あれだけ毛嫌いし影で嫌がらせをしていたリスに庇われたことに気付いた。


お嬢様は記憶喪失になってから変わられたのではないかという噂があった。それなのに私達使用人はそれでもお嬢様を毛嫌いしていた。それに気付かないお嬢様ではないだろうに、それでもお嬢様は私を庇ってくださった…?


呆然とする使用人…オレガノ。今にも泣きそうになるのは、ソールに睨まれていた恐怖からか、ロゼッタを攫われた不甲斐なさからか、リスへの申し訳なさからか。


「とりあえず…私、ロゼッタを探しに行くよ。二人はここで待ってて。使用人さんも、責任を感じるなとは言えないけど、ここで待ってて。一人で探しに行こうとしちゃダメだよ?」


「…え、お嬢様、ダメです!危険です!」


「馬鹿者。お前こそ一人で探しに行こうとするんじゃない。ここは捜索隊に任せておけ」


「そうだぞリス。歯痒いが、捜索隊がすでに動いているし…リス!?」


リスは制止を振り切り駆け出した。というのも、ロゼッタが一人で泣いている気がしていても立ってもいられなかったのだ。


「…はぁ。あの馬鹿…ソール、追うぞ」


「わかった!」


二人が後を追う。そしてオレガノは…。


「…。お嬢様を、守らなくちゃ!」


今までの罪悪感からか、庇われた情け無さからか、別に理由があるのか。気付けばラヴァンドとソールの後ろにひたすら食らいついて走っていた。


「ロゼッタ…えっと、こういう時こそ魔法ってやつだよね!えっと、えっと、どうやるんだっけ…ロゼッタがくれた刺繍入りのハンカチを鳥形に折って…ロゼッタのところまで案内して!」


数少ない記憶の断片を掻き集めて、さらっと上級魔法を使うリス。そもそも捜索隊のところに行ってそれをすれば良かったのではないだろうか。見通しが甘過ぎるのがリスの悪いところである。見つけたところで一人でどうしようというのか。


「…よし、魔法が発動した!」


「リス、やっと追いついたぞ。一人で行くな、馬鹿者」


「ラヴァンド!ソール!危ない魔獣がいるのに来てよかったの?」


「それはこっちのセリフだリス。一人じゃ危ないだろう。…けど、ロゼッタのために、ありがとう」


リスを心底心配するラヴァンドと、リスに感謝するソール。そんな三人にオレガノも追いついた。だが、リスに声を掛ける前にリス達はまた魔法をかけたハンカチを追って走り出す。オレガノは置いていかれないように懸命に走る。しばらく走ると、そこには小さな洞窟があった。中に入ると芋虫型の魔獣の大群が四人に襲いかかる。しかしラヴァンドとソールは常に帯刀しているためすぐに対処できた。大群になって襲いかかってきた芋虫型の魔獣を切り捨てつつ先に進む四人。一番奥まで辿り着くと、ようやくロゼッタを見つけた。


「ロゼッタ!無事だね!?よかったぁ…」


「お姉様…ソール様…!」


「ロゼッタ!怖かったな、もう大丈夫だぞ」


「僕が見張っている。ロゼッタの回復は頼むぞ」


「わかった!とりあえず、この身体中に巻きついている糸を解こうか」


「任せろ」


幼馴染四人はいつも通り連携がスムーズだ。オレガノはそれを唖然として見ている。…今まで自分はお嬢様の何を見てきたのだろう。こんなにも自然に連携が取れるということは、記憶喪失になってから仲良くなったのではなく、ずっと昔から仲がいい証拠だ。お嬢様はロゼッタ様に嫉妬しているものだとばかり思い込んでいた。でも、よくよく思い出してみれば、言葉遣いがきつかっただけで、ロゼッタ様を大切にしていたじゃないか。ロゼッタ様の身になにかが起きると必ず颯爽と助け出すお嬢様。けれど私達使用人はそれを、ロゼッタ様に嫉妬したお嬢様の自作自演、お嬢様がロゼッタ様に危害を加えているのだと誤解していた。だが証拠がないから何もできないと歯痒くすら思っていた。…けれど、違ったのだ。ああ、私は今までお嬢様になんてことを…。


「はい、ロゼッタ。私の上着貸してあげる。帰ったらすぐに着替えようね」


「お姉様…ありがとうございます、私、お姉様がきっと助けに来てくれるって信じてました!」


「あはは。うん、ありがとう。でもソールに嫉妬されちゃうよー」


「ソール様もお義兄様もありがとうございます!あ、オレガノも来てくれたのね?ありがとう!」


「僕たちはついでか」


「まあいつもリスがロゼッタを守っているからな。仕方ない」


「…」


「オレガノ?どうしたの?」


「使用人さん?」


「…いえ、お話はあとで。とりあえず、逃げましょう」


「そうだね!ロゼッタを休ませてあげたいし!」


「…いや、待て。来たぞ」


「ロゼッタ、リス、下がっていろ」


そこに、蛾のような魔獣が現れた。蛾のような魔獣は芋虫型の魔獣の親なのだろう。子供達を叩き斬られたのを知って、怒りで目が赤くなっている。


「…ソール」


「任せろ」


ソールが先陣を切って斬り込む。斬撃の嵐が蛾のような魔獣に叩き込まれた。蛾のような魔獣はそれだけで瀕死の怪我を負ったが、子を殺された恨みしか頭にないようでそれでもソールに突進する。そこにラヴァンドの炎の魔法が火を噴いた。あっという間に燃え尽きた蛾のような魔獣。しかしそれでも一矢報いようともがいていたのがリスの目には悲しく映った。


「…この子は、子供達にエサを与えてあげたかっただけなんだよね。まあ、それが人間なんだからこっちとしてはいい迷惑なんだけどさ」


「リス。魔獣にまで同情していたら、キリがないぞ」


「わかってるけどさぁ」


「リスのそういうところは昔から変わらないな」


「お姉様のそういうところ、大好きです!」


「…」


昔から変わらない。昔から、お嬢様は魔獣にすら同情するほど優しかったのか。それなのに、私達使用人たちは、そんなお嬢様を見ようともせずに毛嫌いしていたのか。…いや、そういえば、ロゼッタ様が生まれる前はどうだった?私はまだずっとお屋敷で住み込みで働いていた両親にくっついていただけで、まだ働いてすらいなかったけれど、ロゼッタ様が生まれる前から、何故かお嬢様は嫌われていた。まだ年端もいかない子供で、ちょっとだけわがままで傲慢だったけれど、それだけのお嬢様。なのに何故あんなに嫌われていた?何故あんなに強がっていた?…ご両親から、愛されていなかったからじゃないか。私達使用人は、いや、私は…そんなお嬢様を、リス様を、名前も呼びたくないと思うほどに嫌って…なんて、ことを…。


「まあでも、とりあえずこれで解決、かな?」


「そうだな。それに、平民達に被害が出る前に魔獣を駆除できたのも大きい成果だな」


「結果オーライですね!」


「だが、ロゼッタ。お前、あんまり攫われないでくれよ?リスが心配して無茶をするだろう」


「はい。お姉様、ソール様、お義兄様、本当にありがとうございます。すみませんでした」


「いいっていいって」


「続きは帰ったら聞く。ロゼッタ、悪いが抱えるぞ」


ソールがロゼッタをお姫様抱っこする。恥ずかしがるロゼッタだがなすがままだ。それを見ていたラヴァンドもリスをお姫様抱っこする。


「え、ラヴァンド!?」


「一人で無茶しようとした罰だ。黙って抱かれていろ」


「も、もう、ラヴァンドったら…」


そう言うリスの顔は赤い。それを見てオレガノは思う。ああ、リス様も、普通の女の子なのだ、と。普通に恥ずかしがるし…普通に傷つくのだと。オレガノは帰りながら、一つの決意を固めていた。

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