ソールの母
そんなこんなで嫌われ者のリス
ソールの母親はソールに依存している。ソールの父親は愛人を取っ替え引っ替えする男で、外で子供を作ることはなかったものの、沢山の火遊びを楽しんでいる。しかしソールの母親はソールの父親にぞっこんである。外見が父親に似ているものの、性格は真反対の真面目で一途なソールを疑似恋人として扱っていた。当然ロゼッタを邪魔に思っている。
リスが記憶障害を抱えるようになってから一週間。ロゼッタはソールの母親にお茶会に誘われた。何故かリスも同席してほしいとのことだった。
「楽しみですね、お姉様」
「うーん…でも、ロゼッタ。ロゾー夫人はロゼッタのことをよく思ってないんだよね?なんか心配だな」
「お姉様と一緒ならきっと大丈夫です!なにを言われても耐えてみせます!」
「ロゼッタは健気でいい子だねぇ」
そしてロゾー邸に着いた。ロゾー夫人は二人を上機嫌で中庭に招き、なんと使用人に命じるでもなく自分から紅茶を淹れた。リスもロゼッタも恐縮する。
「さあ、飲んでちょうだい」
「ありがとうございます、お義母様」
「ありがとうございます、ロゾー夫人」
しかしリスは、ロゼッタが紅茶に口をつけようとした瞬間ロゾー夫人が不気味に笑ったのを見る。
「ろ、ロゼッタ!」
「はい、なんですか?お姉様」
ロゼッタはすんでのところで止まってくれた。
「ご、ごめん。やっぱりミルクを入れた方を飲みたいから、交換してくれる?」
「え、お姉様、それは…」
「リス様、それはマナー違反ですわ」
ロゾー夫人は怒りの形相でリスを睨む。が、リスはロゼッタのカップを奪って飲み干した。
「お姉様…!」
瞬間、リスは血を吐いた。そう、やはり毒が仕込まれていたのである。
「…邪魔しやがってぇ!」
ロゾー夫人は怒りの矛先を満身創痍のリスに向けて、血を吐いて倒れ伏したリスに馬乗りになって殴りかかる。だがその腕はラヴァンドによって止められた。
「お義兄様!どうしてここに?」
「あーあー、本当にリスは無鉄砲だな。説明は後だ。ロゼッタ、リスに回復魔法を」
「!は、はい!」
そしてラヴァンドはロゾー夫人の腹を一発だけ思い切り殴った。
「本当なら殺してやりたいところだがなぁ。まあ、あれだ。やり過ぎると優しいリスが泣くからなぁ」
ロゾー夫人を縛り上げたラヴァンドは、近くで目を白黒させていた使用人達にロゾー夫人の見張りを頼み、リスに回復魔法をかけるのを手伝った。
「お姉様、目を覚ましてくださいませ!」
「リス、起きろ。帰ってアップルパイを食べよう」
そしてリスは回復魔法をかけた甲斐があって、目を覚ました。身体も全快している。
「ラヴァンド、ロゼッタ。おはよう。心配掛けてごめんね?」
「まったくだ」
「お姉様、無茶しないでくださいませ!」
「だって、一回被害に遭っておかないとずっとロゼッタがロゾー夫人に狙われるからさぁ」
「お姉様…」
「それでロゼッタの代わりに被害に遭ったんだな」
「ごめんね?」
「許さん。何かあったら胸元のネックレスが光るから、その時は助けに来てというから素直に引き受けて転移魔法まで使ってきてやったというのに、自分から巻き込まれていたとは…」
「お姉様、もう危ないことはしないでくださいませ!」
「いやぁ、ごめんごめん。気をつけるよー」
「まったく、お前はいつもそうやって説明無しに勝手なことばかりして…」
「ごめんってばぁ」
そんなこんながありつつも、ロゾー夫人は悪事が暴かれて取り押さえられたため、ロゾー侯爵は事態を重く受け止めロゾー夫人を療養と称して遠く離れた保養地に送った。ロゾー夫人はロゾー侯爵やソールと離れるのを酷く嫌がったが、後の祭りであった。この件は内々に処理することになり、今後掘り返されることはないだろう。
何はともあれ、ロゼッタの問題が解決してよかった。
ロゼッタを守る優しいお姉さんなんだけどなぁ