09 出立
まだ日が高いうちに出立。
目指す町は城の東の方向とのことで、東門から出ることに。
門番に冒険者カードを確認されたが、特に問題無く出られた。
リリシアさんの立派な騎士姿と三人の中で唯一の不審者面の俺とが相殺し合って結果問題無しといったところか。
平時のチェックは正直そんなに厳しいものでは無いと後からリリシアさんに言われた。
馬車四両が余裕で通れそうな広い道、しばらくこの道に沿って進む。
城の周りはすでに自然豊か、というか自然しか無い風景の中を楽しそうに歩いてるマユリさん。
馬車や徒歩の旅人とも頻繁にすれ違い、どうにも緊張感が薄れてしまう。
リリシアさんの鎧がかちゃかちゃいう音に重く無いですかと聞くと、
「命を守る重さなのでご心配は無用です」と誇らしげ。
その装備のままで遠出したことはあるのだろうかと、逆に心配になる。
だんだん道が枝分かれしていき、道幅も徐々に狭くなる。
少し日が傾いてきたので今日の野営地を探しながら進む。
まだ比較的広い街道沿いなので、野営向きの空き地が点在しているとのこと。
なるほど、おあつらえ向きの広場があった。
近くにはきれいな小川、離れたところにある小さな小屋はトイレとのこと。
簡易テントを設営、『収納』から露店で買ったサンドイッチ風の食べ物と水筒を出す。
焚き火を用意しているマユリさんに手伝おうかと話しかけると、上手いもんでしょと自慢げ。
確かに手際が良いとリリシアさんも感心している。
焚き火を囲んで早めの夕食。
マユリさんが静かに語りだした。
元々は読書好きのインドア派だったが、剣と魔法の世界の冒険小説に憧れるうちに旅に出るようになった。
ひとり旅でのキャンプをこなすうちにこの手の知識と経験がそこそこ付いたのが役に立って嬉しい。
亜乱さんはどんな生活だったんですかと聞かれて、少し困った。
高校時代は大学進学のための勉強以外は何も考えてなかった。
大学時代はバイトで奨学金と生活費を稼ぐのに忙しくて何も考えてなかった。
就職してからは仕事に付いていくのに必死で将来のことなど何も考えていなかった。
三人の中では一番年上だが人生経験は一番浅いようです。
これからよろしくお願いしますと頭を下げる。
リリシアさんが突然立ち上がった。
「私は若輩者ではあるが人を見る目にはかなり自信がある」
「ふたりと人生を共に歩むと誓った私の想いを汲んで、あまり自分を卑下しないで欲しい」
「人生を共に歩むって、なんだか素敵な言葉ですね」
マユリさんのつぶやきを聞いたリリシアさんが固まって、徐々に赤面していく。
静かに座り込んで顔を伏せたリリシアさんから、
「今日の見張りは私がするので、ふたりは早めに寝て欲しい」と、小声で聞こえる。
「親指の『隠蔽』魔法を使うので、リリシアさんも無理しないで下さいね」
マユリさんが慌ててテントに向かった。
「良かったらこれ食べてください」
城から持ってきていた甘いお菓子をリリシアさんのそばに置いてテントへと急ぐ。
旅は始まったばかりだが、そこそこ前途多難である。