05 城下町
いよいよ準備が整って、勇者候補を辞退したいと担当の神官に告げた。
俺とマユリさんの固有スキルはステータス上では到底前戦で戦えるものでは無い事、堅物過ぎて周囲と衝突を繰り返していたリリシアさんがお目付役を買って出た事。
これ以上無く上手く事が運んで、俺たち三人は城を脱出することに成功した。
なかなかの額のお金とそれなりの装備を受領して城を出た俺たちは、城下町の商店街で旅支度をすることになった。
まずは軽食を取れるお店の店先の席で今後の相談。
目指すは城から歩いて三日ほどの場所にある町、そこに住居を構えて暮らす事になる。
なぜ城下町住まいでは駄目なのかリリシアさんに聞くと、以前ドロップアウトした召喚者が勇者候補を誘って良からぬ企みを企てたからだそうだ。
落伍者は勇者さまから遠ざけておけってことね。
正直この城には良い思い出が全く無かったので、離れて暮らせる方がありがたい。
リリシアさんとマユリさんが、何やら揉めている。
町までの道中を馬車にしたいリリシアさんと徒歩での旅にこだわるマユリさん、双方の言い分を聞いてみる。
「野営しながらの三日ほどの旅は旅慣れない貴君らには難しい」
「魔物ならいざ知らず、盗賊のような、人を相手とする戦いは貴君らにはまだ無理だ」
「確かに御者付き馬車を雇うのは安くは無いが、今は何よりも安全を優先させて欲しい」
リリシアさんらしい堅実な意見である。
「野営の経験なら元いた世界で積んできたから平気」
「みんなを守るためなら危ない魔法も躊躇せずに使う」
「物価や貨幣価値はまだ良く分からないけど徒歩の旅で経験を積むのはこれからのためになると思う」
マユリさんの話には少し引っかかるところがあった。
俺が聞いていたマユリさんの固有スキルは『魔法使い』
全ての初級魔法を唱えられるが、どんなに修練しても中級は覚えられなかったはず。
隠してることがあるだろうとマユリさんに聞いてみる。
「実は、どんな魔法でも両手の指の数だけ覚えられて何回でも使えるみたい」
どんなに頑張っても初級魔法までしか覚えられなかったのに、勇者候補が上級回復魔法を使っているのを見て自分も使えたらなと思った瞬間に左手小指の先が熱くなって、それからは指先に願えば何度でも使えるようになった、だそうだ。
何かさらっと凄いことを告白されたような気がしてリリシアさんを見たら、ぽかんとした表情で固まっていた。
普段はとても凛々しいのに、たまにこういう表情を見せてくれるのがとても可愛らしい。
「もしかして魔法量に関係無く上級魔法を唱えられるのか」
「一度覚えた魔法は上書きしなければ、ランクもレベルも魔法量もお構い無しで何回でも、です」
「そんな固有スキルはこれまでのどんな勇者も持っていなかったぞ」
ちょっと心配になったので、おそるおそる聞いてみた。
「もしかして、城に報告しますか」
狼狽顔が一瞬でいつもの凛々しい表情に変わった。
「今の私が願うのは貴君らの平穏で幸せな生活だ。 こんな危ない秘密はあんな連中に洩らせるわけなかろう」
ちょっと声が大きすぎますよ。
リリシアさんは挑むようなまなざしをこちらに向けたままだ。
「よもやアラン殿も秘密を抱えてはおるまいな」
ごめんなさい、抱えてました。
俺の固有スキル『盗賊』で盗めるのは物品だけでは無い、『鑑定』に表示されたスキルや魔法もひとつだけならどんなものでも盗むことが出来る。
リリシアさんは呆れ顔だ。
「貴君らふたりだけで前戦制圧が出来そうだな」
ごめんなさいとふたり仲良く頭を下げた。