04 リリシア
代々騎士として国に仕えてきた我がバストネート家だが、決して裕福では無かった。
『騎士の本分を見失わない事』が口癖だった父は、盗賊討伐に向かい帰らぬ人となった。
賊の集落は小規模との報告を受けて少人数で向かった討伐隊は、待ち伏せを受けて全滅しかけたそうだ。
父が後に残って追っ手を食い止めてくれなければ全滅だったと傷だらけの兵が語ってくれたが、子供の私はそんなことより父さんを返してと言う言葉を我慢するので精一杯だった。
後に盗賊は討伐されたが、凱旋する大部隊の騎士たちを見て杜撰な事前調査のせいで少人数で向かった父の無念を思い子供心に怒りでどうにかなりそうだった。
母と私と少数の使用人、少ない俸禄をやりくりしてどうにか暮らしていけた私たちだったが、多数あった再婚の申し出を母は決して受けなかった。
騎士の本分を貫いた父、淑女の誓いを守り続けた母。
ふたりは他界して生まれ育った屋敷も人手に渡ったが、私が騎士の本分を忘れない限り我が家系は途絶えないと信じている。
召喚された勇者候補たちの世話係を命じられた時は、光栄で身が引き締まる思いだった。
どんなに勇者が活躍しても、裏方の教官騎士が歴史に名を刻むことはけっして無い。
それでも騎士としてこの国に貢献出来ることを誉れと思い勤め上げようとした。
就任してすぐに心が折れそうになった。
召喚された勇者候補の容姿や能力を比べて取り入ることに懸命な同僚の騎士たち。
召喚で授かった恵まれた能力に甘えて遊び半分の訓練で日々を過ごす召喚者たち。
自分の居場所と有り様に疑念を抱いて鬱屈としていた私はひとりの少女と出会った。
初めてその少女から事情を聞いた時、悔しさの余り涙が止まらなかった。
『純潔の乙女は初めて肌を見せた殿方に全てを捧げる』
乙女の誓いというものは断じて高貴な生まれの子女のみのものでは無い。
むしろ守る力を持った者が力無き乙女たちを守護するものなのだ。
同僚の騎士たちのみならずこの国そのものが彼女に与えた恥辱を、心から詫びた。
騎士として全てを捧げると誓ったこの国の現状に絶望した私に、少女は笑顔を向けてくれた。
泣き笑いのようなその表情は、暗い所に堕ちかけていた私の心を救ってくれた。
こんな私でも、いや私だからこそ、この少女のために出来ることがあると気付くと心の底から勇気が湧いてきた。
この国を救うために望まぬ召喚をされたあげく見捨てられようとしている少女の人生を、私の残りの人生の全てを賭けて支えることを心に誓う。