36 告白
屋敷に入ると、ふたりが慌てて走ってきた。
お姫様抱っこのままの俺たちをじっと見ていたニエルさんが、
「どうしようマユリさん、おふたりの呼び方を変えなきゃいけなくなっちゃったですよぅ」
「……」 無言で凝視しているマユリさん。
「どうだ、マユリ殿」 嬉しそうなリリシアさん。
「アラン殿はこのままどこまでも行けると言ってくれたぞ」
「やはり前回重そうだったのは鎧のせいだったのだな」
「それって」 ようやく口を開いたマユリさん。
「あの時の鎧込みの私とマユリ殿のおんぶとをアラン殿に比較され続けるのは心外だからな」
「これで分かってもらえただろう、アラン殿」
リリシアさんをそっと降ろしてから、
「おふたりとも、何度でも抱き上げたくなるくらい軽いです」
「そういうことだったんですね」 安堵の表情のマユリさん。
「まさにそういうことなのだ」
「前回は病人の上に不意打ちだったが、今回はちゃんと自ら身を委ねたのだ」
「乙女の誓いを立てた私が殿方に身を委ねることの本意を皆に分かってもらえたと思う」
うなずくニエルさんと固まっているマユリさん。
「私はアラン殿が好きだ」
「人生を共に歩むと誓った人がこうして手の届くところにいることの幸せは何ものにも変えがたい」
「これからも末長くよろしく頼む」
突然の告白ではあったが、胸にスーッと染み込んだ。
「こちらこそ、よろしくお願いします」
「おめでとうございます、旦那さま奥さま」
「今日は腕によりをかけてって、お肉がっ」
全速力で厨房へ向かうニエルさん。
「おめでとう、なんだよね」 うつむいて涙をぽろぽろこぼすマユリさん。
「できれば笑顔で祝福して欲しいのだが」 マユリさんを抱きしめる困惑顔のリリシアさん。
「私、どうしたら良いか、分かんないです」
「私は自分の気持ちに素直になったおかげで今最高に気分が良いぞ」
「マユリ殿も素直になれば良い」
「それだけで心も体もこんなにも軽くなれるのだ」
リリシアさんに抱きしめられているマユリさんと目があった。
「私も亜乱さんが好きです」
「ちょっと遅かったですけど、ね」
「好きと言うのに早いも遅いもないだろう」
「見てくれはえらく頼りないが、アラン殿の器量の大きさは私たちこそが誰よりも分かっている」
「もしかしてマユリ殿はそちらの世界の慣わしに生涯従うと言うのか」
「「?」」 リリシアさんの言葉に、俺とマユリさんは顔を見合わせた。
「すまない、そちらの世界の慣わしの事を失念していてマユリ殿を困らせてしまったようだな」
「こちらの世界では殿方の器量次第で複数の妻を娶るのは珍しいことでは無いのだ」
「先刻も言った通りアラン殿の器量は私たちが認めた通りだ」
「これからの生涯、マユリ殿と私のふたりでアラン殿を支え合えるならば私はとても嬉しい」
「なんか、私がリリシアさんからプロポーズされてるみたいになっちゃってますね」
「間違ってはいないぞ、ふたりに残りの人生全てを捧げると王都で誓った通りではないか」
「ただしアラン殿、もしマユリ殿を泣かせるような真似をしたなら全身全霊をもって事にあたるぞ」
「まさに今、泣かせちゃってるんですけど」
「乙女の嬉し涙を茶化すとは、先程相談した仕置きを実行すべきであろうな、マユリ殿」
「ふつつか者ですが、末長くよろしくお願いします」
笑顔のマユリさんから涙を拭おうか迷っていると、
「お式の日取りとか決まったら、早めに教えてくださいよぅ」
遠くからニエルさんの声が聞こえてきた。
三人で顔を見合わせて、笑った。




