35 リベンジ
帰宅。
ニエルさんにいのしし肉をおみやげとして渡すと、大層喜んでくれた。
とても張り切っていたので夕食に期待できそう。
夕食前に外で鍛錬。
柔軟運動や素振りをしたがどうにもしっくりこない。
自分の能力に見合った戦い方を見つけられていないことが悩みなのだが、基礎能力が平均程度しかない自分は結局『盗賊』頼りの戦い方しか出来ない。
いくら強力な能力を盗めてもそれを活かせなければ強くはなれない。
やはり地道に基礎能力を底上げするしかないのかとため息をついていると、良い香りがした。
いつの間にか後ろにいたリリシアさん、シャワーを浴びて私服に着替えたようだ。
珍しいスカート姿と漂う良い香りにぼーっとしていると、
「悩みでもあるのか」 さすがリリシアさん。
自分の戦い方について相談してみる。
リリシアさんが突然拳を突き出し構えると、殺気では無い何かで辺りの空気が変わった。
スッと力を抜き、優しく語りかけてくる。
「私は子供の頃に父から修練を受け、以降ひとりになってからも鍛錬を続けてきた」
「今の私の有り様はその積み重ねだ」
「アラン殿はこの世界に来てからまだ日が浅い」
「悩んで良いではないか」
「至らぬところがあると気付けばこそ、見えてくるものもあるだろう」
「私が頼りになれる間は遠慮なくもたれ掛かってくれ」
「マユリ殿もきっともたれ掛かって欲しいと思っているぞ」
「小癪なことにあの小さな魔族もな」
気が付くと、屋敷の窓からふたりが心配そうにこちらを見ていた。
「ありがとうございます、リリシアさん」
「なんの、いつでも胸を貸すぞ」
今すぐお胸を借りたかったが妥協して、
「お礼と言ったらなんですけど、ひさしぶりにお姫様抱っこしても良いですか」
「先日のリベンジというわけか」
「よかろう、鎧を脱いだ私の真の実力をその身で味わうが良い」
近寄って、スッと抱き上げる。
「どうだ」 誇らしげなリリシアさん。
「このままどこまでも行けそうです」
軽かった。
背丈は俺より少し低いくらいのリリシアさんの軽さにやっぱり女の子なんだなと思う。
窓越しの驚いた顔のふたりを横目で見ながら屋敷に向かって歩き出す。
目の前にいる人から漂ってくるなんとも言えない香りは、入浴直後だからでは無いのだろうなと思う。




