30 依頼
お出かけ前にニエルさんから魔導具を渡された。
魔導通信機という手書き文字のラベルが貼ってあるそれは、邸内にある親機と遠隔地での会話を可能とする子機。
つまりは無線機で、お昼や夕飯に来れなさそうなら連絡くださいね、ってどんなオーバーテクノロジーだよコレ。
それを普通に使いこなすニエルさん、本当に何者。
「王都でもこんな物は見たことも聞いたことも無いぞ」 リリシアさんが言うからには、間違いなく場違いなシロモノ。
「みんなが持ち歩くと便利ですよね」 マユリさんスマホ感覚ですけど、もう少し危機管理お願い。
「あまり他の人に見られて良い物ではないことは確かだな」 さすがリリシアさん、危機管理の鬼。
「屋敷のこと、もっとちゃんと調べたほうが良さそうですね」
「さすがリーダー、頼りにしているぞ」
調子に乗りやすい男なので、もう少しお手柔らかに。
ギルドまでの道のり。
天気もメンツも昨日と同じだが、俺の心中大荒れ注意報だよ。
一見上機嫌のふたりだが、俺は知っている。
この娘ら、何か企んでる。
か弱い俺に何かさせる気まんまんだ。
願わくば、ぼっちの心が砕け折れるようなイベントじゃありませんように。
ギルド到着。
昨日と違って人がちらほら、話しかけてくるような勇者がいなかったのがありがたい。
この場合の勇者とは美女ふたり入りパーティーにちょっかい出してくる勇気のある者という意味で、王都でうろうろしている俺の元同僚たちではない。
掲示板をチェックすると、定番であろう薬草採取を発見。
「これなんかどうでしょう」 とリリシア先生の顔色をうかがう。
「よかろう、初クエストだな」 先生、嬉しそうですね。
「他のもいっちゃう?」 マユリさん、初日から飛ばしますね。
「まずは採取依頼の段取りに慣れるのがよかろう」 先生、惚れそう。
「受け付けしてきます」 と、お姉さんのところへ。
受け付けで依頼書にサインして、ペンを受け取る際に触れ合う指先、もしかしてイベント発生ですか。
「お気をつけて」 はいイベント終了、はえーよ。
掲示板の脇にたくさんあったこの辺りの簡単な地図をもらう。
よくある依頼の情報として、主要な薬草分布図とか要注意魔物出現位置とか。
こういうのを無料配布してるって、ギルドって儲かってるんだろうな。
そういえば全てのギルドって遠隔連絡魔導具で繋がっているんだっけ。
実用化出来た唯一の遠隔連絡手段がギルドのみに配置って、我が家のアレはやっぱり極秘案件モノですかね。
そんなこんなで採取依頼開始。
とりあえずお昼はお外でって、早めにニエルさんに連絡しないとね。




