02 亜乱
鑑定の儀の固有スキル確認で『盗賊』と表示されたのを見た周囲の反応は忘れられない。
あの、ご愁傷様という目付き。
確かに即戦力が欲しくて勇者を召喚したのに『盗賊』は無いよな。
それからは訓練場の隅でひとり、『盗賊』スキルを訓練する毎日。
標的のカカシの腰にぶら下げてる財布に見立てた袋を盗むという自主訓練。
みんなから笑われ馬鹿にされていたせいでへこんでいたけど、袋の中の小石だけを盗めることに気付いてから面白くなった。
召喚された人なら誰でも持っている『収納』『翻訳』『鑑定』の三点セット。
俺の固有スキル『盗賊』は『鑑定』に成功した物なら何でもひとつだけ失敗無しで『収納』に奪うことができた。
女たちにセクハラを繰り返すゲス教官殿に一泡吹かせようと『鑑定』した時、もしかしてと思いヤツの『高速回避』スキルを盗んだら成功してしまった。
自分のステータスに『高速回避』が追加されているのに戸惑っていると、訓練生の女の子の突きをいつものように余裕で回避しようとした教官殿が吹っ飛ばされた。
自身の固有スキルの特異性、こんなヤバいスキル持ちだと知られたら前戦に送られてやっかいな目に遭わされる可能性が非常に高いと気付く。
バレないよう大人しくしながらここから逃れる方法に思い悩んでいると、同じ勇者候補生のマユリさんから話を持ちかけられた。
彼女もまた、ここから抜け出す方向で動いているらしい。
不幸な召喚体験以降も周囲からいやらしい視線を注がれ続けていたマユリさんには心底同情していた。
マユリさんから協力者として女騎士のリリシアさんを紹介された時は、こちらの世界の人間を信用して良いものかと危惧したが、堅物と噂されていた彼女がマユリさんの件で真剣に腹を立てているのを見て覚悟を決めた。