19 物件探し
宿の受け付けで不動産屋の場所を尋ねる。
宿屋のご主人にとっては客を逃すような質問であったにもかかわらず、快く教えてもらえた。
もしかしてご主人の娘さんかもしれない給仕のお嬢さんから何か一言あったのかも知れない。 あのお客さんたち怖いとか。
そんなこんなで教わった不動産屋へ、っていうか町長さんの家でした。
出迎えてくれた恰幅の良い主人に事情を説明。
物件に何かご希望は、とのことなのでふたりに聞いてみた。
「剣の鍛錬が出来る広い庭があれば良い」 リリシアさん、それ以上強くなるんですか。
「温泉があれば嬉しいです」 かなりの無茶振りですよマユリさん、気持ちは良く分かりますが。
何か頭の上で閃いたみたいな表情の町長さん、書類を差し出してきた。
築二年、敷地広め、部屋×3、客室×2、使用人部屋×2、地下室あり、収納多数、居間、台所、洗い場、各部屋トイレシャワー完備、温泉付き。
何ですかこのストライク物件、さらっと温泉付きですか。
使用人部屋ありなことといい豪邸と呼んでも良いような物件、さぞかしお値段が。
「建物敷地込みでこの金額となります」
おかしい、王都で物件用に支給された額にちょうどすっぽり収まる金額の優良物件がこんなにさらっと見つかるのは、絶対におかしい。
何かこの町に来てから起きる出来事が作為的に感じられる。
自分の考え方まで、いつも通りでなくなってる気がする。
俺の中身は普段はもっとネガティブだ、そもそも女の子をからかう余裕なんて生まれてこのかた持てたことが無い。
物件情報を見つめるふたりの表情を見ると、運命の人に出会えたお姫さま状態。
どう考えても出来過ぎでおかしいが、乗るしかないようだなこの……。
「今から見に行けますか」
「すみませんが私は今日はご案内出来ません、鍵をお渡ししますのでご自由にどうぞ」
いや本当おかしい、合鍵作られて不法侵入し放題じゃないですか。
「ではお言葉に甘えさせていただきます」 甘いよ、激甘だよ。
何となくこの物件には何か裏があるような気がする。
まるで物件に誘い込まれるように運命を誘導されている感じ。
このもやもやを解消したいなら行ってみないと。
道順を聞いて、物件へ。




