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解雇寸前だけど、推しに補佐されながら立ち直ります!  作者: kayako
第6章 彼と彼女が「向き合う」時
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その11 土と風は何故かいつも相性が悪い


「えへへ……いらっしゃいませ、悠季。

 ようこそ、私の心へ!」

  

 朗らかにそう言いながら葉子は、丸窓のついた木製の扉を開いた。

 そこに現れたのは、こじんまりとしているが明るい雰囲気の部屋。

 床には暖かそうな橙色の絨毯が敷き詰められ、大きな窓からは柔らかい光がさし、奥には暖炉の火も見える。壁は本棚で埋まり、色とりどりの本がぎっしりと詰まっていた。


「さ、こっちに来て暖まって、悠季。

 ここなら多分、服も早く乾いて……ん?」


 暖炉のあるリビングへ、悠季を手招きする葉子。そこには艶やかな栗色のソファが見えた

 ――が。



「ふ、ふうちゃん!?」



 思わず叫ぶ葉子。

 二人分腰かけられそうなソファには、先客がいた。というか、寝そべっていた。

 そこにいたのは、ぼさぼさの緑の髪をまとめもしないまま、呑気にクッキーをほおばっている女性。上半身は髪より若干薄いグリーンのブラウス一枚。そこから下は何も着けておらず、太ももからつま先まで完全な素足だ。

 ブラウスの裾が長めなので、下着は見えそうで見えないものの、それでもこれは――


 だがその全身から漂うのは、色気というより酷いけだるさ。

 眠そうにあくびをしてはクッキーを一口かじり、そのまま寝そべって本を読んでいる。ソファや本にクッキーの欠片が落ちようと、何も気にせず。



 ――しかし顔を見る限り、彼女も間違いなく『天木葉子』だった。

 葉子ではなく沙織なのではと、悠季さえも一瞬錯覚したレベルのけだるさとだらしなさだったが。



 彼女を見るなり、『土の魔女』たる葉子は叫ぶ。


「ちょっと、ふうちゃん!

 何また私の家にあがりこんで、勝手なことしてるの!?

 せっかく悠季が来てくれたのに!!」

「ゆーき?

 ……あー、イーグルね。ふわぁあ~」


 それでもその緑色の葉子?は、眠そうに悠季を眺めてあくびをするばかり。とろんとした瞳は、黒かと思ったがかなり濃いめの緑だ。

 彼女も本当に、葉子なのか。正直、みなとに叱られている沙織にしか見えない。

 そんな疑問が悠季の頭を駆け巡ったが、『土の魔女』の葉子が慌てて補足した。


「あぁ、ごめんね悠季。

 彼女も勿論、私たちと同じ『天木葉子』。風を司る魔女だよ。

 私たちは、『ふうちゃん』って呼んでる」

「か、風の魔女?

 怠惰の魔女の間違いじゃないのか」

「あはは……そう言われると思ったけど。

 でも確かに、彼女は『風の魔女』であり、『天木葉子』なの」


 悠季には優しく説明しつつも『土の魔女』は、『風の魔女』の腕を掴んで無理やり立たせようとする。


「ほら、立ってふうちゃん!

 いつまでも貴方がそんなだから、私たち、いつまでたっても光の聖女様を見つけられないんじゃない!!」


 ん? 何やらまたおかしな単語が出てきたな。

『光の聖女』?


 だがそれについて尋ねる前に、土の魔女の怒声が響いた。


「せめて、悠季の服を乾かす手伝いぐらいしなさい!

 悠季がずぶ濡れのまんまじゃないの!」


 結構な勢いで風の魔女を責める土の魔女。

 しかしそれでも、風の魔女は耳をほじりながら言い放った。


「やだよ、めんどくさい。

 んなもん、えんちゃんに頼めば? あたしなんかに頼むより効率的でしょ」


 えんちゃん……

 この流れからすると多分、『炎の魔女』のことか。

 そう推測した悠季を下から眺めながら、風の魔女はからかうように笑った。


「むしろ、このまんまの方が良くない? やっぱイーグルって虐めがい……

 じゃねーや、育てがいあるよね」


 口調まで葉子というより沙織に近い。というか、沙織よりも乱暴かも知れない。

 当然、土の魔女はカンカンだ。


「ちょっと!

 貴方まですいちゃんみたいにならないでよ。さっきだってやっと、すいちゃんから彼を助けたばかりなんだから!!」

「うっさいなー。

 あんただっていつもそー思ってるくせに。あの子と同じく、イーグルを裸にしたい虐めたいって♪」

「思ってないわ、私を貴方たちと一緒にしないでっ!

 だいたい、この間のミスだって貴方のせいでしょ!? 貴方が面倒がって、判断を誤ったから――」



 ん? この間のミス?

 すぐに悠季は勘づいた――葉子が会社でやらかした件のことか。

 もしかしてこの、風の魔女。彼女が原因なのか? 

 だとすれば、彼女を探れば――



 しかし悠季が一歩踏み出そうとした瞬間、風の魔女の表情からせせら笑いが消えた。

 明らかに酷く不機嫌になり、土の魔女を睨みつけて唇を尖らせる。


「あ~、うっざぁ……

 そんなだからあんた、『石の巫女』って言われまくるんだよ」


 石の巫女。さっきも土の魔女はそう言われていたな……『すいちゃん』こと水の魔女に。

 色々わけの分からん単語が次々に出てきて、頭が痛くなってくる。水の魔女に土の魔女、そして風の魔女。多分『炎の魔女』もいる。

 そして『光の聖女』? そこに石の巫女なんてものが重なると、どれがどれだかもう、わけが分からない。

 しかも恐らく全部、同じ『天木葉子』だ

 ――悠季はこめかみを抑えながら、土の魔女にそっと尋ねた。


「なぁ、情報整理させてくれ。

『石の巫女』って……」

「私のあだ名。

 ホントはみんなに、『つっちー』って呼んでほしいんだけど、ね」


 あだ名かよ。

 そうツッコミかけてしまった悠季だったが、風の魔女は鼻で笑った。明確な怒りと共に。



「はん。あんたなんかがそんなカワイイあだ名で呼ばれるわけないじゃん。

 清く明るく正しくあることだけが全て。調和と安定が絶対で、争いや革命なんか決して許さない――

 そんな風にここのみんなを押さえつけてるあんたには、『石の巫女』がお似合いなんだよ!!」



 風の魔女がそう吐き捨てた途端、彼女の周囲の空気がグワッと音を立てて圧され、その長い髪が巻き上がった。

 先ほどの眠たげな表情が嘘のように、炯々と煌めく緑の瞳。


 しかし自称『つっちー』こと土の魔女は殆ど動揺を見せず、あのこん棒を再び背中から取り出した。困ったように微笑んだまま。



「悠季、ごめんね。ちょっと下がってて。

 またいつものヤツ、始まっちゃったみたい♪」



 風の魔女の周囲で流れ出した空気は突風となり、やがて強大な竜巻となり、部屋中のもの全てを吹き飛ばしていく。本も、クッキーも、ソファさえも吹き飛び、窓も壁も一気に砕け散っていく。

 咄嗟に悠季は、自らも防御術を発動させ氷の盾を周囲に張り巡らせた。

 葉子の精神世界でも支障なく自分の術が使えることに、まず驚いたが――


 それ以上に驚いたのは、土の魔女の冷静さだった。

 難なく相手の風術?をこん棒で受け止め、悠季に微笑みかける余裕さえある。


「あはは~

 やっぱりいつ見ても悠季の術、綺麗だし強いね。

 私のこと、ちゃんと守ってくれるんだ。ここでもその術が再現されてるってことは……

 私と悠季の、絆の証かなっ?」

「いや、それどこじゃ……

 早くどうにかしないと、家、壊れるぞ!?」

「ううん、大丈夫。慣れてるし、すぐ直せるから」

「え?」

「ふうちゃんが来ると、大抵最後はこうなっちゃうの。

 ホントいつもいつも、しょうがない子なんだから……」

「い、いつも? これが?」

「前はもっと、正しい方向に力を使おうと努力できる、一生懸命な子だったんだけどね。

 いつのまにか、こうなっちゃった……」


 少し悲しげにうつむく、土の魔女。

 それに対して、風の魔女はさらに叫ぶ。


「いつのまにかって、あんたがみんなをそうしたんじゃない!

 どれだけあたしたちが叫びたくても、抵抗したくても、外に出たくても!!

 ずっとあんたが全部それを、無理やりおさえつけたんじゃないの。だから、すいちゃんもえんちゃんもみんな――

 あたしだって、捻じ曲がった!!」


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