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解雇寸前だけど、推しに補佐されながら立ち直ります!  作者: kayako
第6章 彼と彼女が「向き合う」時
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その44 ダメ魔女たちが世界を壊す

 


 部屋を盛大に破壊しながら現れた、土の魔女。

 悠季からすれば、いつもの葉子と一番似ているような気がしていた魔女。

 だが今、その彼女が――

 自分たちを空中から見降ろしながら、不気味な笑みを浮かべている。


 いや。見ようによっては、いつもの葉子の笑顔と何も変わらないかも知れない。

 しかし今、彼女はいともたやすく風の魔女たちの部屋を破壊し。

 水の魔女は完全に怯え切った表情で震え上がり、風の魔女は苦虫を嚙み潰したように彼女を見据え。

 今の今まで、悠季を弄んでいたかのような炎の魔女さえも、明確に顔を歪めていた。怒りと恐怖が混在したような表情で。


 そして土の魔女は笑みを浮かべたまま、優雅に言った。


「ねぇ、えんちゃん。

 これ以上、葉子がちゃんと平穏に生きるのを邪魔するようなら――

 私、本当に許さないよ?

 貴女のやっていることは、葉子の心を――

 つまり、私たちの世界を乱す結果にしかならないの」



 それでも炎の魔女は、うつむきながらも言い放つ。

 その身体は、微かに震えていたが。


「どうしてよ……

 私が成長するのが、そんなに嫌?

 私が自立して、誰にも頼らず生きていくのが、そんなに嫌!?」

「嫌じゃないわ。むしろそれは、私の希望。

 だけどえんちゃんのやり方は、違うでしょ?」

「……!」


 痛い所をつかれたのか、炎の魔女は一瞬で口ごもってしまう。

 一方、歌うように楽しげに喋る土の魔女。


「貴女は悠季の力を利用して、悠季から力を奪って、自立しようとした。

 今、それが出来ないと分かると途端に、悠季に甘えようとしてるでしょ?」

「ち、違う!

 悠季に甘えるなんて……そんなこと!」

「いくら違うと主張したって、私には分かる。

 だって元々、魔女たちは同じものだもの。同じ『天木葉子』だもの。

 貴女は今まで、無駄な方向へ頑張ろうとしすぎた。

 どんなに頑張っても駄目って分かっているのに、それでも何もかもを投げ捨てて、無駄に頑張りすぎた。

 その反動で貴女はきっと、悠季に縋って駄目になってしまう。

 貴女自身も分かってるでしょう? 

 悠季に縋らないと、葉子は生きていけなくて。

 その一方じゃ、悠季も葉子がいないとダメな状況にさせる――

 それが『共依存』ってこと。それって、世間的には一番ダメなカップルの形って言われてることだよね?」


 彼女が何を言いたいのか、悠季には今一つ読めない。

 とにかく、炎の魔女の行動を良しとしていないのは確かだろう。

 悠季の力を利用しようとしていた行為は勿論、ようやく悠季に心を許し、本音を打ち明けた彼女の現状までも――

 土の魔女は、『共依存』の一言で片づけ、否定しようとしている。



「えんちゃんが今悠季に求めているのは、愛じゃない。

 ただの依存。打算。利用するだけの相手。

 世間では決して認められない、歪んだ形。

 そんなの、私は許さない――

 みんな。ちゃんと、悠季を見よう?

 悠季って、私たちにとって、すごく都合のいい存在なんだよ?

 彼に縋って、見た目だけ自立したって……

 本当に成長して、自立したことにはならないでしょ?

 きっと()()()()()()()()()()()と思うよ?」



 流れるように喋り続ける、土の魔女。

 だが炎の魔女はもう、殆ど抵抗できない。先ほどまでの彼女であれば、火術のひとつでもぶっ放していたかも知れないのに。

 そればかりか、ふらふらと立ち上がりながら、うわごとのように何事かを呟いていた。


「あ……あぁ……みんな、が……

 わたし……自立……きょう、いぞん……」


 ほぼ完全に自己を失ったかのように、目の光を失っている炎の魔女。

 そんな彼女を慌てて背中から支えながら、風の魔女がきっ、と土の魔女を見上げる。


「石の巫女! あんたねぇ……いい加減にしなよ。

 あたしみたいな怠惰な部分だけじゃなく、えんちゃんの自立心まで否定して、この世界から剝ぎ取ろうってワケ!?」


 それでも『石の巫女』こと土の魔女は、笑顔を浮かべたままだ。


「だって、えんちゃんの目指した自立は、正しい自立じゃないんだもの。

 葉子には相応しくない、高すぎる目標を目指しているだけ。

 悠季まで利用しなきゃ達成できないようなことを、無理矢理やろうとしているだけ。

 それじゃいつか、葉子は壊れてしまうでしょ?

 ふうちゃん。貴方なら、分かってると思うけどな? 出来ないことを無理にやろうとしたら、翼がもげるってことは」

「じゃあ……

 アンタ、何がしたいの。

 あたしたちをここまで抑えつけて、アンタは何がしたいのさ!!」


 風の魔女が投げつけたその問いに、土の魔女はきょとんと首を傾げる。


「何がしたいかって?

 私に言わせれば、むしろ貴女たちの方が、何がしたいか分からない。

 ふうちゃんもえんちゃんも、何でそんな風に不満ばっかりなの?

 アンちゃんのことも、私には全然理解できないし……

 すいちゃんも、悠季に発情してばっかり。そんな気持ちを悠季に投げつけたら、どうなるかぐらい分かるでしょ?」

「い、いや……!」


 崩れたダンボールの陰に必死に隠れている水の魔女。

 最初に土の魔女にくってかかっていた姿がウソのようだ。

 満足げに彼女たちを見回しながら、滔々と語る土の魔女。



「私は、誰も傷つけず、平穏に成長したい。

 そして誰にも批判されない、正しい自立を望んでる。

 だって周りのみんなは、みんなそれが出来ているんだもの。

 普通に自立して、普通に仕事が出来て、普通に自分の稼ぎで一人暮らしが出来て。

 仕事もテキパキ出来て、ミスすることなんて殆どなくて、上司にも同僚にもいつも頼りにされて。

 美容院にしょっちゅう行って服にも髪にも気を遣って身ぎれいにして、普通に周りの人と仲良く出来て、飲み会にも参加して。

 休みの日にはジムに行ったり英会話教室行ったり、女子会でランチを楽しんだりして……たまには友達と海外旅行にも行ったりして。

 将来的には普通に結婚して子供も産んで、幸せに過ごすの」



 それは――

 確かに『世間の常識』からすれば、『普通の』『この年頃の女性』の姿ではあるのだろう。

 だが、悠季は異常なほどの違和感を覚えた。


 ――それは、葉子じゃない。

 葉子が望んでいる姿ではあるかも知れない。しかし、葉子ではありえない。


 そんな悠季の心情を見透かしたかのように、風の魔女が吐き捨てる。


「ろくな友達いないのに、海外旅行とか……

 寒気しかしないんだけど」


 そんな彼女の呟きを聞き逃す土の魔女ではない。

 微笑みを絶やさないまま、言ってのける。


「あのね、ふうちゃん。

 これは葉子以外の人たちは、みーんな出来ていることなんだよ?

 葉子だけ出来ないなんて、おかしいでしょう?」

「だからさ。

 その、『みんな』って誰だっての! 狭い目線でモノ見るなって、どんだけ言ったら……」

「狭い目線って、ふうちゃんこそ世界が狭いでしょ?

 貴女が見ている世界はだいたい、ネットばかり。

 ネットのひきこもりとか、ニートとか、ガチャ中毒やゲーム中毒のどうしようもないオタクとか……

 そんな連中ばかり見てるから、貴女も堕落するの。

 自分もそれでいいんだって、思っちゃうの。自分はあそこまでは堕ちてないって思いたくて、そういうダメな人たちのいる場所ばかり見てる」

「そ、それは……!」

「その間に、葉子の周りで現実を生きてる人たちは、みんなどんどん先に行っちゃうよ?

 同級生も、先輩も、みんな。

 貴女がゲームに夢中になって現実を忘れている間に、みんな自立して役職をもって家を買って結婚して、子供も産んでる。

 葉子だけが何故、それが出来ていないかっていうとね――」


 そこで初めて、土の魔女は笑みを消した。

 眼鏡の奥のブラウンの瞳が、氷の如く冷たく睨んでくる。魔女たちを。

 握りしめられる棍棒。


「貴女たちが、ちゃんとしてないせい。

 だからもう、私、我慢できないの。

 いつまでも聖女様は見つからないし、剣も抜けない。それはきっと、貴女たちが私の邪魔ばかりするせい。

 世間でうまく生きていこうとしない、私の言うことを全然聞かない、貴女たちが悪いの。

 しまいには――」


 細い指で棍棒を握りながら、その瞳はじろりと悠季に向けられた。


「悠季と『共依存』の関係にまでなろうとしてる。

 貴女たちはみんな打算で、悠季の何かを利用しようとしているだけ。

 そんなの、愛でも絆でも何でもないでしょ?」


 これを聞いて、思わず悠季の口から転がり出た呟きは。


「……バカ野郎が。

 俺が、俺本人が、それでも構わないって言ってんだよ。

 共依存だぁ? 俺にはよく分からんけどさ……

 互いが互いのことを好きでも何でもないのに、互いを利用しなきゃ生きていけない状況のことをそう言うんじゃないのか?」

「そうだよ?

 だから、貴方と葉子の関係はそれこそ……」

「違うね。

 だって、少なくとも俺は心底、葉子のそばにいたいんだからさ」


 この言葉を聞いた瞬間、魔女たちは再びざわめいた。

 ひゅう、と口笛を鳴らす風の魔女に、歓声とも悲鳴ともつかない叫びをあげる水の魔女。

 炎の魔女の眼光さえも、ほんの少し戻りかける。


 この悠季の答えに――

 土の魔女も、さすがに僅かな動揺を見せた。


「それは……

 貴方自身もそういう生き方しか出来なかったから、そう思うだけでしょう?

 だって貴方は盗賊。人を利用して、人から奪わなきゃ生きていけなかったから!

 悠季、お願い。これ以上、『天木葉子』を惑わさないで!!」



 それはいちいち、悠季の心に突き刺さる言葉だった。


 奪わなきゃ、生きていけなかった――

 まさに俺の人生を端的に表した言葉だな。

 自分の心や身体は勿論、親友や大事な人の命さえ――奪い奪われの繰り返し。

 愛や絆なんてどこにあったもんだか、分かりゃしない。


 だから俺は、固執しているのかも知れない――

 この世界に来て初めて触れた、葉子の暖かさに。

 葉子のそばにいられること自体に。

 それが共依存とか言うなら、確かにそうかも知れないな。



「だからね。悠季――

 これ以上、私に、何もしないで?

 私は貴方がいなくても、やっていかなきゃいけないの。

 だって他の人たちはみんな、貴方みたいな存在がいなくても、十分生きていけている。

 この世の春を謳歌しているんだから!」



 その瞬間、彼女が手にしたこん棒自体が、激しい光を放ち始めた。

 ゴウッという地響きと共に、部屋全体が大きく揺れ出していく。

 いや、部屋だけではない。この世界全体が、揺れていた。

 土の魔女から放たれた光はやがて、金色の劫火へと変化し全てを焼き尽くそうとする。

 酷い熱さが、部屋中を駆け抜ける。


 ――まずい!


 咄嗟に身をひるがえした悠季は、魔女たちを守るように炎の前にたちはだかった。

 しかし光の勢いは全く止まることなく、容赦なく魔女たちの横からも背後からも襲いかかっていく。


「い……嫌だ、こんなのやめろってば!」

「イヤアアァ! 溶ける、溶けるうぅ!!」

「きょう、いぞん……そんなの……ダメ……」


 悲鳴の中から響くものは、土の魔女――石の巫女の嬌声。


「あはは。私、分かっちゃったかも!

 剣を抜こうとしても抜けなかった理由――

 ぜぇんぶ、貴方たちのせい。

 打算でしか動けない。怠惰に過ごすことしか能がない。

 ちょっと傷つけられたら世界を嫌って引きこもる。なのに性欲だけは旺盛――

 そんな、ダメ魔女たちのせい!」


 ただでさえ滅茶苦茶だった風の魔女の部屋が、一気に爆炎に包まれ、吹き飛んでいく。

 いや、部屋だけではない。この世界を包んでいた森までが既に、土の魔女の放った業火に包まれていた。

 激しい揺れと共に、一気に崩落していく壁と床。


「私がどれほど言っても、貴方たちが聞かないなら。

 もう、こうするしかないよね?

 この世界には私だけいればいい。貴方たちがおかしな邪魔さえしなければ、葉子はまっとうに生きられるの!!」



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