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解雇寸前だけど、推しに補佐されながら立ち直ります!  作者: kayako
第6章 彼と彼女が「向き合う」時
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その41 『本当の俺』って、何だよ?


 突如、家を破壊しながら降り立った炎の魔女。

 だがそんな彼女に、風の魔女はイラだちを隠せない。


「全く……面倒ごとばっか持ち込んでくれちゃって。

 アンタの異常な上昇志向には、もうウンザリなんだよ!」


 それでもそんな彼女を、炎の魔女はフンと鼻で笑い飛ばす。


「あれぇ~? 言ってくれるじゃん。本来上昇志向を司るべき『風の魔女』さん。

 貴女がそうやって面倒がって、自分のやりたいことばっかりやって引きこもってるから、私がちゃんとしなきゃいけなかったんでしょう?」

「……う。

 それに関しちゃ、悪いとは思ってるけど……」


 少しきまり悪げに、頭をかく風の魔女。

 それでも悠季の前に立ちはだかり、敢然と言い放った。


「だけどさ。イーグルを辱めるのは違うじゃん! 

 イーグルの前で自分を辱めるのも、もっと違う!!

 自分が他人を利用してばかりだからって、あたしたちまで一緒にすんな!」


 それでも炎の魔女は、妖艶な笑みを張り付けたままその言葉をせせら笑う。


「え~? 何言ってんの。

 貴女たちは、私じゃん。誰かを利用しなきゃ生きていけない、よわ~い女。

 だから強くならなきゃいけない。誰をどう利用してでもね。

 ふうちゃん……弱かった頃の悠季を、貴女が育てようとした理由。教えてあげよっか?」


 優雅に髪をかきあげつつ、ちらりと風の魔女を見る炎の魔女。

 流し目でありながら、その視線は奇妙にギラついていた。


「貴女はさっき、『よく分からない』とか言ってたけどさ。

 ふうちゃんさぁ……アンタもとんだブリっ子だよねぇ。

 ただただ、クソ弱いマイナーキャラを強く育てられる自分に酔いしれただけじゃん」

「……!!」


 一瞬、答えにつまってしまう風の魔女。

 そこを炎の魔女は、ここぞとばかりに畳みかける。


「自分が何をどうやっても、成長出来ないカス人間だから。

 悠季に――つまり画面の中のイーグルに自分を投影して、自分の成長を放り出してイーグルの成長に全力を注いだ。

 そんなふうちゃんの要求に、イーグルはすごく的確に答えてくれた。時には予想外にカッコ良く成長してくれてさ。

 それがふうちゃんには、とおっても気持ち良かったんだよねぇ?

 現実で成長出来ない自分のかわりに、イーグルはどこまでも成長してくれる。

 現実と違って、自分が力を注いだ分だけ、彼は答えてくれる。

 そりゃあ面白いし、気持ちいいよね?」


 歌うように楽しそうに、刃のような言葉を紡ぐ炎の魔女。

 しかしそんな彼女に対して風の魔女は、相変わらず頭をボリボリかいて面倒そうな表情を浮かべるだけだ。


「いやぁ……ありがとねぇ。

 あたしが分からなかった答え、見つけてくれてさ。

 確かにそうだと思うよ? あたし、自分が成長するの、ホントに面倒になっちゃったし。

 どんだけやっても自分は上に行けないって分かっちゃったらさ、そうもなるよ」


 意外なほど素直な彼女の返答に、ほんの少しイラついたのか。

 炎の魔女はフンと鼻を鳴らす。


「じゃあやっぱり、アンタだって悠季を利用しているだけじゃん?

 すいちゃんなんかももう、その最たるものだし!」

「えっ?

 わ、私……が?」


 突然自分に向けられた矛先に、動揺しまくりまたも沸騰しかかる水の魔女。


「だってそうでしょ?

 すいちゃんはそれこそ、悠季の身体以外になーんにも見てないじゃない!

 悠季の身体見て欲情しまくるだけの、本能のバケモノ。それがアンタでしょ、すいちゃん?」

「や、やめてぇ! 本当にやめて、お願い!!」


 あまりに痛い部分を突かれたのか。

 ひたすらに身をよじりながら、水の魔女は痛々しく叫ぶしかない。

 そんな彼女たちを前にしながら、風の魔女も翼を垂れ下げたまま、諦めたように見守っているだけだ。


 もう、見ていられない。

 気がつくと悠季は、立ちはだかっていた。魔女たちのド真ん中に。


「――葉子。

 お前はそんなに、自分を信じられないのか?」


 風と水の魔女を守るように、燃え滾る怒りの化身とも言える炎の魔女の真ん前に立つ悠季。

 そんな彼を、彼女はせせら嗤う。


「へぇ……戻ってきたんだ。なんでかな?

 私を放っておいたら良心が痛むから? そのままにしてたら気持ちが悪いから?

 あ、気絶したまんまにしてたら警察が来るからかなぁ? 泥棒としちゃ避けたいトコだよねー」


 相変わらずこの魔女は、心を切り刻むような言葉を放つ。

 だけど、俺はまだ大丈夫だ。背後には風と水の魔女がいる――

 悠季は心を決め、一言一言ゆっくりと尋ねた。


「自分たちは――葉子は、俺を利用するだけの存在だって。

 俺のことなんて、葉子が利用する為だけの存在にすぎないって――

 お前、本気で思ってるのか?」


 今さら何をとばかりに、悠季を笑い飛ばす魔女。


「あはっ。だってそうでしょ?

 ふうちゃんは貴方を育てることで、何も成長出来なかった自分を慰めたかっただけ。

 すいちゃんは貴方の身体目的。

 アンちゃんは、偽りの希望を見せちゃった貴方を、逆に恨んでる始末だし。

 石の巫女はただひたすら、普通の人間を装っておとなしく生きることしか頭にない。

 本当に可哀想な悠季……

 天木葉子の中では、だぁ~れも、『本当の貴方』を愛する存在なんて、いないんだよ?」



 炎の魔女は自ら吐き捨てる。葉子と悠季の絆など、完全に否定する言葉を。

 だがもう悠季は、自分でも不思議なほどに動揺しなかった。


 何を言っているんだ、お前は。

 葉子は――この魔女たちは、ごく普通に、当たり前のことをしているだけだろう。

 目の前の炎の魔女――お前まで含めて。


「ひとつ、聞いていいか」

「えっ?」

「そもそも、『本当の俺』って、何だよ?」


 そんな悠季の言葉に、場が一瞬、しんと鎮まった。

 あれだけ荒れ狂っていた炎が、ほんの少しだけ弱まっていく。

 不意をつかれたように固まる、炎の魔女の大きな瞳。


「どんなに苦労して育てたって、ろくに成長もしない。

 良さげな見栄えもない。何のトラウマもない。

 誰かに利用されるほどの才能もありゃしなければ、人に言えないような過去もありゃしない。

 葉子を助けることも慰めることも、支えることもしない。

 お前たちが認めてる俺の価値が全て消失した俺が、本当の俺だっていうなら

 ――そんなものはもう、神城悠季でもイーグルでも何でもねぇよ」


「な……何、言ってるの?」


 咄嗟に反論の言葉が出ないのか、口ごもる炎の魔女。

 それでも悠季は言ってのける。ここぞとばかりに。


「もしかして、見栄えも才能も、葉子を支えようとする気持ちも何もなくなって、ゼロになった俺なんて好きになれない――

 そう思ってるのか。

 そう思う自分が恥ずかしいのか、お前?」


 炎の魔女の笑みが、引きつるような歪みに変わる。


「じ……自分が恥ずかしい? わけ分かんない。

 あー、悠季。ついにおかしくなっちゃった?」


 何とでも言うがいい。

 今度こそ真っすぐ相手を見据えながら、悠季は言い放った。


「俺ですらない俺が愛されたって、何も嬉しくねぇよ。

 お前が利用しようと思っている俺の要素は全部、これまで俺を形作ってきた全て。

 それこそが、俺そのものなんだから!」



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