その41 『本当の俺』って、何だよ?
突如、家を破壊しながら降り立った炎の魔女。
だがそんな彼女に、風の魔女はイラだちを隠せない。
「全く……面倒ごとばっか持ち込んでくれちゃって。
アンタの異常な上昇志向には、もうウンザリなんだよ!」
それでもそんな彼女を、炎の魔女はフンと鼻で笑い飛ばす。
「あれぇ~? 言ってくれるじゃん。本来上昇志向を司るべき『風の魔女』さん。
貴女がそうやって面倒がって、自分のやりたいことばっかりやって引きこもってるから、私がちゃんとしなきゃいけなかったんでしょう?」
「……う。
それに関しちゃ、悪いとは思ってるけど……」
少しきまり悪げに、頭をかく風の魔女。
それでも悠季の前に立ちはだかり、敢然と言い放った。
「だけどさ。イーグルを辱めるのは違うじゃん!
イーグルの前で自分を辱めるのも、もっと違う!!
自分が他人を利用してばかりだからって、あたしたちまで一緒にすんな!」
それでも炎の魔女は、妖艶な笑みを張り付けたままその言葉をせせら笑う。
「え~? 何言ってんの。
貴女たちは、私じゃん。誰かを利用しなきゃ生きていけない、よわ~い女。
だから強くならなきゃいけない。誰をどう利用してでもね。
ふうちゃん……弱かった頃の悠季を、貴女が育てようとした理由。教えてあげよっか?」
優雅に髪をかきあげつつ、ちらりと風の魔女を見る炎の魔女。
流し目でありながら、その視線は奇妙にギラついていた。
「貴女はさっき、『よく分からない』とか言ってたけどさ。
ふうちゃんさぁ……アンタもとんだブリっ子だよねぇ。
ただただ、クソ弱いマイナーキャラを強く育てられる自分に酔いしれただけじゃん」
「……!!」
一瞬、答えにつまってしまう風の魔女。
そこを炎の魔女は、ここぞとばかりに畳みかける。
「自分が何をどうやっても、成長出来ないカス人間だから。
悠季に――つまり画面の中のイーグルに自分を投影して、自分の成長を放り出してイーグルの成長に全力を注いだ。
そんなふうちゃんの要求に、イーグルはすごく的確に答えてくれた。時には予想外にカッコ良く成長してくれてさ。
それがふうちゃんには、とおっても気持ち良かったんだよねぇ?
現実で成長出来ない自分のかわりに、イーグルはどこまでも成長してくれる。
現実と違って、自分が力を注いだ分だけ、彼は答えてくれる。
そりゃあ面白いし、気持ちいいよね?」
歌うように楽しそうに、刃のような言葉を紡ぐ炎の魔女。
しかしそんな彼女に対して風の魔女は、相変わらず頭をボリボリかいて面倒そうな表情を浮かべるだけだ。
「いやぁ……ありがとねぇ。
あたしが分からなかった答え、見つけてくれてさ。
確かにそうだと思うよ? あたし、自分が成長するの、ホントに面倒になっちゃったし。
どんだけやっても自分は上に行けないって分かっちゃったらさ、そうもなるよ」
意外なほど素直な彼女の返答に、ほんの少しイラついたのか。
炎の魔女はフンと鼻を鳴らす。
「じゃあやっぱり、アンタだって悠季を利用しているだけじゃん?
すいちゃんなんかももう、その最たるものだし!」
「えっ?
わ、私……が?」
突然自分に向けられた矛先に、動揺しまくりまたも沸騰しかかる水の魔女。
「だってそうでしょ?
すいちゃんはそれこそ、悠季の身体以外になーんにも見てないじゃない!
悠季の身体見て欲情しまくるだけの、本能のバケモノ。それがアンタでしょ、すいちゃん?」
「や、やめてぇ! 本当にやめて、お願い!!」
あまりに痛い部分を突かれたのか。
ひたすらに身をよじりながら、水の魔女は痛々しく叫ぶしかない。
そんな彼女たちを前にしながら、風の魔女も翼を垂れ下げたまま、諦めたように見守っているだけだ。
もう、見ていられない。
気がつくと悠季は、立ちはだかっていた。魔女たちのド真ん中に。
「――葉子。
お前はそんなに、自分を信じられないのか?」
風と水の魔女を守るように、燃え滾る怒りの化身とも言える炎の魔女の真ん前に立つ悠季。
そんな彼を、彼女はせせら嗤う。
「へぇ……戻ってきたんだ。なんでかな?
私を放っておいたら良心が痛むから? そのままにしてたら気持ちが悪いから?
あ、気絶したまんまにしてたら警察が来るからかなぁ? 泥棒としちゃ避けたいトコだよねー」
相変わらずこの魔女は、心を切り刻むような言葉を放つ。
だけど、俺はまだ大丈夫だ。背後には風と水の魔女がいる――
悠季は心を決め、一言一言ゆっくりと尋ねた。
「自分たちは――葉子は、俺を利用するだけの存在だって。
俺のことなんて、葉子が利用する為だけの存在にすぎないって――
お前、本気で思ってるのか?」
今さら何をとばかりに、悠季を笑い飛ばす魔女。
「あはっ。だってそうでしょ?
ふうちゃんは貴方を育てることで、何も成長出来なかった自分を慰めたかっただけ。
すいちゃんは貴方の身体目的。
アンちゃんは、偽りの希望を見せちゃった貴方を、逆に恨んでる始末だし。
石の巫女はただひたすら、普通の人間を装っておとなしく生きることしか頭にない。
本当に可哀想な悠季……
天木葉子の中では、だぁ~れも、『本当の貴方』を愛する存在なんて、いないんだよ?」
炎の魔女は自ら吐き捨てる。葉子と悠季の絆など、完全に否定する言葉を。
だがもう悠季は、自分でも不思議なほどに動揺しなかった。
何を言っているんだ、お前は。
葉子は――この魔女たちは、ごく普通に、当たり前のことをしているだけだろう。
目の前の炎の魔女――お前まで含めて。
「ひとつ、聞いていいか」
「えっ?」
「そもそも、『本当の俺』って、何だよ?」
そんな悠季の言葉に、場が一瞬、しんと鎮まった。
あれだけ荒れ狂っていた炎が、ほんの少しだけ弱まっていく。
不意をつかれたように固まる、炎の魔女の大きな瞳。
「どんなに苦労して育てたって、ろくに成長もしない。
良さげな見栄えもない。何のトラウマもない。
誰かに利用されるほどの才能もありゃしなければ、人に言えないような過去もありゃしない。
葉子を助けることも慰めることも、支えることもしない。
お前たちが認めてる俺の価値が全て消失した俺が、本当の俺だっていうなら
――そんなものはもう、神城悠季でもイーグルでも何でもねぇよ」
「な……何、言ってるの?」
咄嗟に反論の言葉が出ないのか、口ごもる炎の魔女。
それでも悠季は言ってのける。ここぞとばかりに。
「もしかして、見栄えも才能も、葉子を支えようとする気持ちも何もなくなって、ゼロになった俺なんて好きになれない――
そう思ってるのか。
そう思う自分が恥ずかしいのか、お前?」
炎の魔女の笑みが、引きつるような歪みに変わる。
「じ……自分が恥ずかしい? わけ分かんない。
あー、悠季。ついにおかしくなっちゃった?」
何とでも言うがいい。
今度こそ真っすぐ相手を見据えながら、悠季は言い放った。
「俺ですらない俺が愛されたって、何も嬉しくねぇよ。
お前が利用しようと思っている俺の要素は全部、これまで俺を形作ってきた全て。
それこそが、俺そのものなんだから!」




