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解雇寸前だけど、推しに補佐されながら立ち直ります!  作者: kayako
第6章 彼と彼女が「向き合う」時
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その40 抱きしめたくて、たまらなかった!


「ねぇ。すいちゃんはどう思う?

 天木葉子が、イーグルを見捨てなかった理由」

 

 そう聞かれて真っ赤になりながら、水の魔女はおずおずと上目遣いで悠季を見つめる。

 だが発せられた声は、意外なほどはっきりしていた。



「だ、だって……そんなの、決まってるじゃない。

 悠季も、イーグルも

 ……めちゃくちゃ可愛いし、カッコイイから……だよ」



 それを聞いて、思わずぷっと噴き出す風の魔女。

 当然、水の魔女は頬を膨らませた。


「わ、笑うくらいなら聞かないでよぉ!」

「あはは、ごめんごめん。

 でも、意外と真理かも? って思ったらさ」


 そんな言葉に、感情を刺激されたのか。

 水の魔女はいつのまにか大声で主張し始めた。


「だってそうでしょ?

 イーグルの氷晶流星雨もロッソ・スカルラットも、いつだって超絶カッコイイし!

 でも、やられかけてちょっと気弱になってる表情もカワイイし!」

「え、ちょ、すいちゃん?」


 慌てて止めようとする風の魔女だが、早口で語り出した水の魔女はもう止まらない。


「悠季になってからだって、スーツ姿滅茶苦茶イイし、ちょっとけだるげな表情間近で見てたらドキドキしちゃうし……!!

 悠季。貴方自身は分かってないかも知れないけど、貴方の色っぽさって異常なんだよ!?

 袖から時々ちらっと見える引き締まった筋肉とか、ネクタイ外しかけた時に見える鎖骨とかもう、正直たまらなくてっ……!!」

「いや、あの、そう言われると俺も……」


 真っ赤になって身体の中から再び沸騰しながらも、大きな瞳で悠季を見つめる水の魔女。

 こうまで熱烈に言われると、悠季本人も何やら頬がかあっと熱くなってくる。

 しかも言われている相手は、葉子の精神とも言える存在。


「そんなカワイくてカッコイイ貴方を見捨てるなんて、できるわけないでしょ!?

 いつだって、思いっ切り抱きしめたいって、ずっと思ってたんだから……!」



 ――あぁ、そうか。

 悠季の中で、ストンと何かが心地よく落ちていく感覚がした。

 単純だが、とても明確な答え。ここにあったじゃないか。



「あの、その……っ!

 こんなこと言うと、お前は外見しか見てないのかって言われると思って、恥ずかしすぎて言えなかったけど!!

 それでもそのカッコよさって、単なる見栄えだけじゃない。悠季がこれまで懸命に生きてきた証だもの! 

 意外とゴツゴツした手も、傷だらけの胸も、野心に燃えてギラギラしてる瞳も、ちょっとしたスキに見せてくれる寂しそうな横顔も、全部!!」



 悠季自身、外見は正直、人並み以上という自覚はある。

 自身の見栄えの良さを利用し、誰かを陥れた経験も何度あったか分からない――勿論、自分と仲間が生き残る為に。

 美しい、可愛らしい、女性のようだともてはやされたことも数知れない。

 だが――


 その容姿のおかげで、酷い目に遭った経験はさらに数えきれない。

 だからこそ、悠季は自分の姿をそこまで好きにはなれなかった。


 葉子にはそういう過去を殆ど話していない。

 それでも彼女は何となく悠季のそんな感情を察知していたのか、もしくは恥ずかしかったのか。

 普段、とりたてて悠季の容姿をことさらに褒めたりすることはなかった。当然、性的な欲求を露わにすることも――


 しかし今、葉子の中の『水の魔女』は、そんな本音を素直に悠季に明かしていた。


「たまに悠季の寝顔見る時、私がどんだけドキドキするか、分かる!?

 一度ぐらいキスしたっていいじゃないって、何べん考えたか分からないよ?

 いつも大体朝は悠季が先に起きて、夜は私が先に寝ちゃうから、滅多に寝顔見られないけど!」



 その言葉は何故か不思議と、悠季の胸に降りていく。

 こういった形であっても、葉子が初めて、自分に対する欲求を見せてくれた。

 彼女自身はそれを気恥ずかしく感じているらしいが、悠季は何故か嬉しかった。

 これまで、他人からそういう欲求を露わにされたことは幾度となくある。それこそ、幼い頃からずっと――

 一方的に欲望を剥きだしにされ、暴力をふるわれ、傷つけられ、辱められたことがどれほどあったか。

 それを恥とも思わない大人たちを、男女問わずどれほど見てきたか。


 だが、今葉子が露わにした欲望は、そんな汚れ切った奴らとはまるで別種のものだ。

 さっき水の魔女が口にした言葉が、それを実証している。


 ――悠季がこれまで、懸命に生きてきた証だもの。


 水の魔女は――葉子は。

 俺の傷も、汚れきった身体も、全てを俺として受け入れてくれる。それも、何の疑問もなく。

 それが、単純に嬉しかった。

 ただ、性的欲求を押し付けるだけじゃない。ちゃんと『俺』を見てくれている――



 そんな悠季の心情を察したのか。

 風の魔女がふっと微笑みながら、悠季と水の魔女を交互に見やる。


「今のあたしたちには、イーグルと葉子に何も出来ないよ。

 せいぜい、この世界に巻き込まれたあんたを助けるぐらいが関の山。

 だけど――イーグルにはさ。これだけは、知っておいてほしいんだ


 ――今、目に見えている魔女だけが、葉子の本質じゃないってことを。

 あたしも、すいちゃんも、えんちゃんもアンちゃんも、あのおカタイ石の巫女もみんな、葉子には違いないけど。

 そのどれも、葉子であって葉子じゃない。

 だから――」



 しかし、風の魔女が何か言いかけた、その瞬間。

 ドドォッという酷い震動と共に、天井を突き抜け、部屋中を火柱が貫いた。



「ひ、ひゃぁあっ!?」

「や、ヤバ! ゲームが!!」

「うわぁああっ!? こ、この炎は……!」



 一気に吹き飛ばされてしまう3人。

 爆風に乗って、ボロクズの如く天井に舞い上がっていく無数のダンボール。

 とっさに水の魔女が全員を水の塊に包み、とりあえず直接炎にあぶられはしなかったものの――


「これは……

 えんちゃん。やってくれるねぇ!」


 ギリッと歯を噛みしめる風の魔女。

 部屋全体が真っ赤な炎に巻かれる中、その中心に降り立ったのは


 ――勿論、炎の魔女。

 激しい炎の中でもニッコリ微笑み、ギラギラ輝く紅玉の杖を翳したその姿は、可憐でありながらも恐ろしい。


「あ~まいよね~ぇ。

 悠季ぃ。二人の言うことなんて、信じることないよ~?

 だって二人とも結局、貴方を利用することしか考えてないんだモン♪

 あ、勿論、私もだけどね~♪」



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