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解雇寸前だけど、推しに補佐されながら立ち直ります!  作者: kayako
第6章 彼と彼女が「向き合う」時
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その39 あの日、貴方を『見捨てて』から

 


 当時を懐かしむかのように、心から楽しそうに語り始める風の魔女。


「最初のあんた、滅茶苦茶よわよわでさ。

 態度自体は結構横柄で、そこそこの大口叩く癖に、ステータスが全然伴ってなくて。

 素早さ以外に取り柄なかったよねぇ」

「バトルじゃだいたい、真っ先に狙われてぶっ倒れちまってたしなぁ。

 無能キャラの筆頭って、ネットじゃいつも言われてたみたいだな」

「そ。1周目じゃガチの役立たず。

 あたしもさすがに手に負えなくて、あんたを放り出しちゃったっけ」

「ハハ。よっぽどだったなぁ、あの時の俺」


 思い出しながら、いつしか悠季も笑っていた。


「でもさ……

 あの1周目であんたを手放したあの時こそ、運命の分かれ道だったんだよね。

 ゲームで、だけじゃない。あたしの人生にとっても」


 そう。あの時葉子がイーグルを手放さなかったら、今の彼女はなかったかも知れない。

 イーグルが『神城悠季』になることもなかったかも知れない。


「俺だって同じだ。

 葉子があの1周目で俺を見放した直後、俺はケイオスビーストに襲われて一度命を落とした。

 もっとも、俺を捨てたプレイヤーは他にもごまんといたさ。そもそも俺の存在に気づかずにずっとスルーし続けるヤツも山ほどいたし、俺を使うことがあっても無能っぷりにキレて以降は全く使わない、ってヤツが大半だったな。

 そんな中で――

 それでも俺を使い続けたのが、葉子だった」

「うわ~、なっつかしー」


 楽しそうに笑う魔女。

 その表情は、心から当時を懐かしんでいるように見える。少なくともあの炎の魔女のように、憎悪のあまり逆に大笑いしているのでは決してない。


「マイスが滅んで、あんたがいなくなったって知った時。

 なんだかよく分からないけど、すごい虚しくなった。

 役立たずだからってあんたを見捨てた結果、こんなことになって――

 そのへんの事情はもう分かってると思うけど、だから2周目からあたし、ものすごく頑張ったんだよ?」


 懐かしい。

 今ではあまりにも懐かしく感じる、葉子との果て無き修行の日々。

 元々少ない体力を1上げる為に、苦手な斧を何百回振り回したか分からず。

 技を新しく覚える為に、強敵に何百回ボコボコにされたか分からない。

 その過程で、仲間もろとも全滅することも幾度あったか知れない。

 ――それでも。


「何百回何千回負けたか分からないけど、あんたは何度でも立ち上がってきた。

 そりゃゲームなんだから当然といえば当然だけどさ、それでもあたしは――

 何でだろうね。いつのまにか、あんたを育てるのに夢中になってた。

 素早さもだけど、技ゲージがあんなに伸びてったのもビックリだったし。

 時間操作術を駆使して技を連発するのも面白かった。

 やればやるほど応えてくれる。そんなあんたを見てるのが、楽しくてさ」


 いつの間にか、流れるように自分から語り始めている風の魔女。

 彼女の言葉を聞いているのは、悠季にとっても何故か心地よかった

 ――しかし。



「だからね。

 毅と付き合ったのってマジであたし――ていうか葉子にとって、致命傷と言ってもいい」



『毅』――

 その名を出した瞬間、彼女は明確に唇を歪めた。


「社会に迎合する為に、他人を利用してでも強くなる為に、葉子は毅と付き合った。

 最初は、あたしには関係ないと思ってたけど――」


 心からの憎悪とはっきり分かる表情。

 自分は全部無関係とばかりに飄々としていた彼女にとっても、毅の存在はあまりに酷いものだったのだろう。


「葉子はそれまで、少ない休みをほぼ全部使ってゲームに没頭していたようなもんだけど。

 宝石みたいに貴重だったその時間さえ、あのクズ野郎に無理矢理奪われてさ。

 あんたとも会えなくなって――この世界は一気に闇に落とされた。

 巨大化した闇の魔女が、延々と高らかに憎悪と絶望と怨嗟の歌を歌い続ける、そんな毎日だったよ。

 

 自分に存在価値はある、愛も希望も幸せも、諦めなければどこにでもある――そんなの全部嘘。

 そんな嘘を根拠なく吐き続けるものなんて、本もテレビも映画も歌も、ゲームさえも全部まやかし。自分たちを自殺させず、延々とこの世の地獄で働かせるための道具にすぎない――

 この世に希望なんかない。この世に愛なんかない。救済なんかあるわけない。


 ……てな歌をずーっと頭の上から歌われて、魔女たちは全員力を失っちゃった」



 その後は、悠季も知る通り。

 イーグルは神城悠季として現実世界に出現し、救世主の如く葉子を救った。

 ちょうど葉子が、女神の如くイーグルを救ったように。

 おかげで闇の魔女は力を失い、他の魔女たちは元通りの日常を取り戻した……のか。



 だが、ここにきて――

 悠季は少々疑問があった。

 そもそもの『始まり』は、何だったのか。



「なぁ。

 ひとつ、聞いていいか」

「ん?」

「初めの弱かった頃の俺を、どうしてお前は見捨てなかったんだ?

 最初は確かに、同情から俺を拾ったのかも知れない。だけど何故、その後も俺を――」


 そんな悠季の問いに、少々首を傾げる魔女。


「何でだろうね? 

 あんたを育ててて、めっちゃ面白かったのは確かだけど……そのへんはあたしにもよく分からない。

 でも、イーグル的にはやっぱ気になるトコだよね。特にえんちゃんの本音聞いちゃうとさ」


 そう。炎の魔女が俺を求めたのは、ひたすら利己的な理由からだった。

 俺がいれば、自分は生涯苦労せずに済むから。

 あまりにもはっきりと、あいつは宣言していたじゃないか――自分を助けてくれないなら、俺などゴミでしかないと。


 彼女の言うとおり、最初の頃の俺はステータス的にもゴミそのものだった。

 ゲーム内においては使えないキャラ呼ばわりされまくり、無理に連れて行けば足を引っ張りまくる邪魔者。


 葉子が本当に他人を、俺を利用することしか考えていないのなら。

 育てようとするわけがないんだ。そんな俺を。


 風の魔女の言葉からすると、恐らく「面白かったから」「育てがいがあったから」俺を育てたのかも知れない。

 いくら努力しても報われない現実と違い、俺はどんなに時間がかかっても、努力した分だけ確実に育つ。それも勿論あったのかも知れない。


 だが、それだけでは説明できない。

 それだけでは納得できなかった。これまでの葉子を見ていると。



「あんたが疑問に思うのは分かる。

 だけど本当に、あたしにもよく分からないんだよ。

 もしかしたら――」



 そう呟きながら、魔女は悠季の後方へチラリと目をやった。


「すいちゃんの方が、よーく分かってるんじゃないかな?」


 再び悪戯っぽく微笑む風の魔女。

 その視線の先では、すっかり存在感をなくして縮こまっている水の魔女がいた。

 突然話題を振られ、一瞬飛び上がってダンボールの陰に隠れようとする水の魔女。

 しかし風の魔女はすかさず、彼女に問うた。


「ねぇ。すいちゃんはどう思う?

 天木葉子が、イーグルを見捨てなかった理由」


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