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解雇寸前だけど、推しに補佐されながら立ち直ります!  作者: kayako
第6章 彼と彼女が「向き合う」時
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その34 全てを曝す覚悟

 

 心の隅から隅まで射抜くかのように、大きな丸い目でじっと悠季を注視する三枝。

 その問いに、思わず悠季は口ごもってしまった。



 何故、俺は拒絶された。



 反射的に思い出すのは、炎の魔女の冷たい笑顔。

 葉子は俺を、心の底からは信用していない。それを知った時の絶望。


「お前を信用していないから。多分そう思ってるんだろ?

 半分は正解だ。天木葉子はお前を、完全に100%信頼してるわけじゃない。

 例え、何度も一緒に修羅場を散々乗り越えてきた相手であっても――

 いや。決して失いたくない、大切な相手だからこそ、打ち明けられない心ってのもあるんだ」


 ――大切な相手だから。

 その言葉が、妙に悠季の心に刺さっていく。


「お前、自分の胸に手ぇ当てて考えてみろ。

 自分の本音を、ガチで彼女にぶつけたことがどれほどある?

 本当にヤバイことは全部を話さず何となくうやむやにして、それでこれまでは二人で平穏にやってきたんじゃないのかい」


 自分の本音――

 それこそ、葉子に話していない俺の本音などいくらでもある。というか、話していないことの方が多い。

 今とは逆に、もし葉子が俺の心になんか入ってきたら、あまりの醜悪さでぶっ倒れてしまうかも知れない。

 それぐらい、俺を構成してきた要素は汚いものだらけ。葉子には決して見せたくないものばかりだ。

 俺の心に葉子が入りたいと言っても、俺は多分拒否してしまうだろう。

 それは決して、葉子が嫌いなわけじゃない。むしろ逆だ。



 俺の心を見せれば、葉子が俺から離れてしまうかも知れない。

 俺の本当の姿を知れば、葉子が俺を見捨ててしまうかも知れない。

 俺の過去を見れば、俺を見る葉子の目が変わってしまうかも知れない。



 多分葉子も、同じようなことを考えたのか。

 大切だからこそ、俺に見せたくなかったのか。炎の魔女のような打算的な性格を。

 恐らくベレトの誘導がなければ、俺は炎の魔女と会うこともなかっただろう。

 そして誘導があってさえ、あれだけ拒絶される『光の聖女』とは。



 三枝の背後から、広瀬も冷徹に告げる。


「人間関係ってのは、本音をうまく隠して構築されていくものだ。

 会社や学校のみならず、夫婦や親子、兄弟姉妹だって同じ。全員が全員本音曝け出しあったら、それこそこの世は地獄だろう。

 だから大概の人間は、全てを曝け出す必要はないと割り切って、大切な相手と一緒に平穏に人生を過ごしていく。

 だがな――神城。恐らく今のお前と天木さんは、そういうことを言っていられる状況じゃない」

「どういう意味だよ」


 そんな悠季に、広瀬は改めてずいと迫る。

 ノンフレームの眼鏡が、蛍光灯の白を映してチカッと煌めいた。


「危険を承知で、お前は天木さんとサイコダイブに挑んだ。

 だったら、その責任を最後まで果たせ。

 意図したものではないにせよ、天木さんはお前に自分の本音を曝した――

 ならばお前も、全てを曝す覚悟で彼女に挑め」



 広瀬の言葉に、悠季の中で何かがざわりと蠢いた。

 それは、過去のあらゆる記憶。



 炎の中、血みどろになって息絶えていた少女。

 自分の手で殺した親友。

 自由になろうとする抗いを全て否定し、嘲笑う『奴』。

 そして――

 守ろうとした仲間たちごと、自分が命を吹き飛ばされた瞬間。



 そんな悠季の胸中を見透かすように、三枝も言い添えた。


「俺も最初に言ったはずだぜ。

 他人の心を見るならば――

 同時に自分の心も見ることになる。そいつを忘れるなってな」


 三枝の言葉に、一瞬しんと静まる部屋。

 しかしその時、みなとが若干不安げに糸目を顰めた。


「け、けど、ベレトさんの目的も気になりますよ。

 本当に彼がスレイヴとして葉子さんの中にいるなら、彼女の最深部であれこれやるのは逆に危険では?

 その『光の聖女』やら剣とやらが葉子さんの最深部に至る鍵だとしても、兄さんが鍵を解いた瞬間にベレトさんが葉子さんを全部支配しちまう、なんてこたぁないスよね?!」


 それでも三枝は腕組みしたまま、一切動じなかった。


「そいつぁ勿論考えてる。

 だが今のところ、光の聖女を何とかする以外に天木葉子を取り戻す方法はない。

 9割がた罠があると分かってても、神城には行ってもらわにゃならん状況ってことだ――

 専門家としちゃ、情けねぇ限りだがな」

「そ、そんなぁ」



 糸目をさらにぐにゃぐにゃに縮めるみなと。

 しかしこの時にはもう、悠季の心は決まっていた。



 ――葉子を助ける為なら、何だってやってやる。

 最初からそう決めて、俺はこの世界に来たんじゃないか。



 悠季は強引ながらも笑顔を作り、みなとに親指を立ててみせた。

 それは、自分を励ます為の笑顔でもある。


「心配すんなって、ハルマ。

 俺ぁマイスで天下を取ったシーフ様だぜ? 鍵開けぐらい任せとけって」

「け、けど、兄さん……」

「罠解除だって俺には朝飯前さ。お前だって知ってるだろ?」


 自分でも、明らかに強がりと分かる言葉だ。

 みなとも悠季の強がりを半分ぐらい察知しているのか、困ったような表情で彼を見上げている。



 ――だけど、それでも俺は行かなきゃ。



「いずれにせよ、今日これ以上出来ることは何もない。

 すぐに再度のダイブをしたいだろうが、探索者たる神城が相当のダメージを受けたばかりの状態では、被害が拡大するのは目に見えてる。

 一晩はこちらで責任をもって、天木さんを預からせてもらう。

 そのかわり明日、朝一で来い。一秒でも遅れたら本気で殴るから覚悟しろよ」


 広瀬の言葉が、静かな会議室に重く響き渡った。



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