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解雇寸前だけど、推しに補佐されながら立ち直ります!  作者: kayako
第6章 彼と彼女が「向き合う」時
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その28 どんな貴方も、受け入れるよ?


 ――これは、あの時の。

 俺以外の仲間が……全員、ベレトに……



 間違いなく、見覚えがある。忘れるわけがない。

 この光景は――俺が、あいつを、手にかけた時の。



 そんな悠季の動揺に反応するかのように、地下道のさらに奥深くで、一つの影が揺らめいた。

 それはまだ若さより幼さの目立つ、痩せこけた少年の背中。

 長い栗色の髪が首筋あたりでまとめられている。幾つも輪になって重なる金の耳飾りがチリチリ鳴り、血まみれの空間に音を響かせていた。

 真っすぐに構えられた短刀。柄には紅の宝石が嵌められ、膨大な術力によりギラギラ輝いていた。

 表情は分からないが、砕けるほどに歯が噛みしめられる音が聞こえる。

 青い東国風の着物をつけていたが、全身が魔物の黒い血に塗れていた。身体の至るところに傷を負い、裾や袖はあちこちが破られ、ぜいぜいと息を切らしている。



 ――俺だ。イーグルだった頃の。



 そう確信しながらも、全身の震えが止まらない悠季。

 こんなものは幻影だ。魔女の見せている幻影――

 必死で自分に言い聞かせようとしても、心の底から湧き上がる恐怖は止まらない。

 何故、葉子が知っている。ここまで詳しい光景なんて、葉子は勿論、アガタやハルマにさえ話していないはずなのに。

 あの時、そばにいた仲間はみんな死んじまった。魔に染まったベレトに殺されて。

 生き残っていたのは俺だけだ。

 だから俺は――



 追い打ちをかけるように、魔女は悠季に囁いた。



「大丈夫だよ、悠季。

 私、どんな悠季でも受け入れるから。

 だから――」



 そのさらに奥。

 手負いの少年が目にしているものは――



 巨大な黒蜘蛛の形をした、魔物だった。

 否、ただの魔物ではない。腹に当たる部分から、粘液まみれの何かがにょきっと突き出している。

 それは首だった。血の気のない、真っ白な人間の頭部。

 気弱そうな垂れ目に、ちぢれた赤毛。

 その眦からは、粘液に混じって大量の涙が溢れだしている。

 乾ききった唇から漏れる呟きは誰にも聞こえなかったが、明らかにその口はいくつかの言葉を交互に連呼していた。

『助けて』『痛い』『イーグル』……と。



 ――ベレト!



 見た瞬間、悠季は絶叫していた。

 その叫びに呼応するかのように、刃を手にした少年は真っすぐに駆け出す。

 ――そして。



 一瞬の後に噴き出したものは、赤と黒の混じった鮮血。

 人間と魔物の血が不規則に混じりあった、どす黒い血液。



 俺は、ベレトを、殺した。

 最期の最期まで、あいつは泣いていたのに。

 助けを求めて、痛みに呻いて、仲間を殺しながら、泣いていたのに。



 あの時、ベレトが魔に侵されたと知ってからも。

 俺は認められなくて、何とかあいつを助ける手段を探そうとして。

 でもそうやって手をこまねいている間に、仲間が大勢ベレトに殺された。俺に出来たのは、アガタや他の仲間を逃がす時間を稼ぐ程度のものだった。

 あいつはアジトを壊して、まだ小さかった子供たちまで手にかけて。

 だから俺は――



 全てが血に、黒い霧に、包まれていく。

 その場に響きわたる絶叫が自分のものかベレトのものか、それさえもう分からない。

 それでも魔女の囁きだけは、はっきりと悠季の耳に響いた。



「悠季だって、とても頑張っていた。

 仲間を守る為に、生きる為に、ずっと頑張っていた。

 でも――導かれた結果は、何故かこんな酷いことになってしまった。

 理不尽だよね? 不公平だよね? 

 少しぐらい報われたっていいのにって、そう思うよね?

 だから――

 私の気持ちだって、分かってくれるでしょう?」



 そうだ。あの時だって、どれほど理不尽を感じたか分からない。

 いや。それよりずっと前から、俺の人生なんて理不尽そのものだった。

 助けようとしても、守ろうとしても、全てが無駄に終わった。

 だが――



 悪夢の光景の中、ふっと思い浮かんだ疑問。

 それは一つの閃きのように、悠季の頭をほんのわずかに冷静にさせた。



 ()()()()()()()()()()()()()()



 いずれは詳しく話さなければならない時も来るだろう。そう思っていた。

 だけど、ずっと迷っていた。いきなり詳細を話せば、例え葉子であっても受け入れがたいだろうから。

 段階を経て、ゆっくり少しずつ話していければいい。すぐにではなくとも、少しずつ。

 ――そう、思っていたのに。



 それでも魔女は悠季をぎゅっと抱きしめながら、微笑む。


「ずっと心配だったんでしょ? 私が悠季の過去を受け入れられるかどうか。

 だから今まで、殆ど何も言ってくれなかったんでしょ? 悠季、とても優しいから。

 でも大丈夫。私、どんな悠季だって受け入れるよ。

 だって悠季は――ずっと、私の味方でいてくれるもの!」


 その笑顔は全く邪気がなく、瞳はきらきら輝いている。


「だって悠季は、私をどこまでも元気づけてくれる。

 私がどんなになっても、励ましてくれる。

 私がどんなにダメなヤツだって、悠季は私の味方でいてくれるでしょ?」


 朗らかにそう言い放つと、魔女は悠季を抱いた両腕をそっと緩めた。

 すると、涼しい風が頬を撫ぜる。明らかに、先ほどまでいた部屋とは空気が違った。

 身体も幾分か軽くなっている。思わずきょろきょろと周囲を見回すと。



「――ここは!?」



 悠季と魔女の眼前にあったものは、光を帯びて台座に突き刺さっている、巨大な剣。

 二人はいつの間にか魔女の小屋を飛び出し、森へと飛んできていたのだ。

 葉子の深層たる森――『光の聖女』に繋がると言われる剣のある場所へ。

 これも恐らく、魔女の術によるものだろう。


 一瞬茫然としてしまった悠季の耳元に、魔女が優しく囁いた。


「ねぇ、悠季――お願いがあるの。

 この剣を、悠季に、抜いてほしい」


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